純喫茶空間と文体と音楽 貸切り図書館71冊目

ちょっと時間が経過してしまいましたが、先日行われた「貸切り図書館71冊目〜純喫茶トーク&ライブ クリームソーダ編」にたくさんのご来場をどうもありがとうございました。難波里奈さんによる純喫茶トークと次松大助さんの弾き語りライブ、どちらも素晴らしく聴き応えありました。

難波さんはこれまで1700軒以上の喫茶店を訪ね、純喫茶についての本も多数出版されており、沼田元氣さんから東京喫茶店研究所2代目所長を受け継いだという真の純喫茶マスターなのです。そんなお方の純喫茶トークが面白くないわけがないのです。難波さんはスライドでお勧めの喫茶店や名物マスターの写真コレクションなどを紹介してくれたり、90年代に発売されたコンピCDシリーズ「喫茶ロック」のジャケットに使われたお店の現状を追跡したレポを聞かせてくれたり、純喫茶にまつわる興味深い話満載でした。また閉店が続く老舗喫茶店についても触れられ、好きな店には行ける時に行っておかないと二度と空間を味わえないという主張には深く頷かされるものがありました。この日は純喫茶好きなお客さんが多く、みなさんメモを取ったりしながら熱心に聞いていたのが印象的でしたね。難波さんは単独でのトークも上手ですが、次松さんとのトークでも彼の読書観や言葉について興味深い話をたくさん引き出していて、とても面白かったです。(本でも新聞でも広報紙でも人が校正した文章を読むのが好きという次松さんの姿勢に真の読書家だなという印象を持ちました)

そんな次松さんのライブ、ボーカリストのイメージが強かったんですが、ピアノの演奏もとても素晴らしく、魅了されました。マイスティースのファンである私からしたら今回難波さんとの縁で生で歌声を聴けて感涙でした。(先に難波さんをお誘いしたら彼女が次松さんを指名してくれたのです。)

ちなみに今回次松さんが紹介してくれた本は

悪童日記アゴタ・クリストフ

「季節のない街」山本周五郎

「芽むしり仔撃ち」 大江健三郎

イスラエルに揺れる」東野翠れん

「ギッちょん」山下澄人

「水銀灯が消えるまで」東直子

というラインナップでした。

次松さんは物語というよりも文章の言語感覚に惹かれるのだそうで、「悪童日記」はハンガリー出身の作者がスイスに亡命し慣れないフランス語で書いたという作品で、その慣れない言語による文体が心地良いとのことでした。東野翠れんさんも日本人とイスラエル人とのハーフの方で、少し片言ぽいような日本語感覚に魅力を感じるのだそうです。大江健三郎も言葉と言葉の組み合わせの妙に惹かれるし、山本周五郎は整った文体が読むのに気持ち良いとのことで、マイスティースの歌詞って意外な読書体験から生まれているのだなと聞いていて新鮮でした。(山本周五郎の文章は「バッティングセンターで気持ち良くボールを打ち続ける感覚ですいすい読める」という独特な表現されていて面白かったです。)山下澄人も独自な文体だし、歌人東直子も女性性が溢れる言語感覚に惹かれるとのことで、物語性よりも文体で文字を追うのに快感を覚えるというスタンスは、旋律ではなく楽器群の音色、サウンドの方に気持ち良さを感じる音楽家ぽいアプローチなのかなとちょっと思ったりしました。今回次松さんはピアノのインスト曲をたくさん演奏してくれましたが(多分即興部分が多かったと思うのですが)、そういう独自な言語の並びの心地良さみたいなものをピアノで表現していたのかなと思ったりしました。素晴らしかったです。

ライブ中、ステージドリンクが水かと思ったら実は焼酎だったという(難波さんが暴露してました)次松さんと打ち上げで飲んだのですが、真の酒飲みであることがひしひしと伝わって来て最高でした。難波さんも喫茶と共に酒もいける人で最高だなと思った次第です。(そこか。)難波さんは普段サラリーマンとして働きながらたくさんの純喫茶を訪れ、著書を何冊も出されていて、そのエネルギーに感心してしまうのですが、本当に純喫茶が好きだからこその活動なのだなと今回お話を聞いていて思いました。好きを原動力に活動する強みを感じ、私も見習わなければならないと思った次第です。

貸切り図書館、次回は4月7日に青木慶則さん、杉瀬陽子さんをゲストに迎えてお送りします。ぜひこちらもよろしくお願いしますということで。f:id:fishingwithjohn:20190330192247j:image
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友よ、また会おう

もう3月も終わろうとしているのです。早いのです。独立してからというもの仕事量が莫大に増え、毎日目の回るような忙しさが続き、ひーひー言いながら馬車馬の如く(ばしゃうまと漢字で書くと山本山みたいに字面がシンメトリーになるのですね)ひたすら休みなく働いていたのですが、「きちんと休みを設けないと倒れるぞ!」とあやから注意を受け、強制的に休むようにしたら身体も楽になったし仕事の効率も自然と上がりました。オンとオフのスイッチの大切さを実感しているこの頃です。そんなオフの日にタカテツさんこと高橋徹也さんが鎌倉に遊びに来たので、折角だからとあやと3人で一緒にお寺巡りをして楽しみました。この日颯爽と鎌倉に現れた細身の青年タカテツさんは「これこの間のライブのお礼です!」と我々にレコードをプレゼントしてくれ。1月にタカテツさんがmolnに出演した際、あやがゲストシンガーとして歌ったお礼だと言うのです。こちらがお礼を言いたいくらいなのに律儀なお方なのです。タカテツさんは毎回何かしらレコードをくれるのですが、どれもセンスが良くて我が家の愛聴盤になるのです。「愛聴盤贈り人」という愛称を彼に捧げたい思いです。あいちょうばんおくりびと
そんな贈り人と散歩に繰り出しまして。この日は天気も良くお散歩日和で。人気のない裏道を歩き、小さな公園の桜を撮影したりしながら進んでいたら突然猫のような犬のような狸のような不思議な生き物に遭遇し。「え、ハクビシンじゃない?」「狸かな?犬にはみえないな!」と大騒ぎする我々。結局正体のわからぬままその生き物は逃げてしまったのですが、果たして何者だったのでしょうか。
そんな謎の生き物との遭遇もありつつ、風情ある鎌倉の小径を他愛もないお喋りをしながら歩き、鶴岡八幡宮をお詣りし。(八幡宮に長い時間手を合わせるタカテツさん。)そして八幡宮からまた風情のある通りを歩いているうちに「そろそろランチでも食べますか?」となり。一行はベルグフェルドという美味しいパン屋さんでトーストとサラダと紅茶(私とあやはワイン)をいただきました。「何名様ですか?」と聞かれ、あやが間違えて「4人です」と答えてしまい、水が4つ来たのですが、タカテツさんが「この水はさっきのハクビシンの分ですね」とフォローを入れておりました。本当にさっきの謎の生き物が同行していた可能性も捨て切れませんが。白いシャツに明るいイエローのカーディガンを羽織り紅茶を嗜むタカテツさんの姿がOLさんの昼休みの様相で、そういえば1月のライブの時に「OLさんみたいな生活がしたい」という発言をしていたな、あれはタカテツさん流のボケなのかなと思ったのですが、どうやら本気なのだなと悟った我々です。
その後お土産にお菓子など買い(チョイスがOL!)、また結構な距離を歩いて浄妙寺というお寺に行きまして。ここがあまり観光客が来ない穴場なのです。庭の花や寺の佇まいを愛でながら散歩し情緒を楽しむ我々。「う〜む、良いですねえ。決まった!」と喜ぶタカテツさん。この境内には枯山水を眺めながら抹茶を楽しめる茶屋があり。ここがまた風情があるのです。先客は高校生くらいの地味で大人しそうな女子3人組のみで、空いていて快適なのです。ここでは長い竹筒に耳を当てると井戸の水が滴る音が聞こえるという粋なアトラクションがあり、早速耳を傾ける我々です。「わー、水の音が聞こえる〜」と小さくはしゃぐタカテツさん。その後美味しい生和菓子と抹茶をいただくタカテツさん。その様子を写真に撮ったらオズマガジンの旅特集の如きOL感溢れる仕上がりでございました。店内にいた地味女子3人にあやが「写真撮りましょうか?」とスリーショットを撮ってあげると向こうさんも「撮りましょうか?」と申し出てくれて。「いいんですか〜」とこちらもスリーショットを撮ってもらいました。こんな交流も嬉しいものです。「ありがとうございました!」と大きな声で女子たちにお礼を言うタカテツさん。OLみたいな細身の青年が孤高の音楽家であることを彼女らは知る由もないのでしょう。
その後竹林が有名な近くのお寺にも足を運んだのですが、こちらはさっきとうって変わって観光客で溢れかえっており。竹林を愛でながらも「さっきの方が満足度高かったですね」「我々あっちを堪能出来て良かったですね」などと言い合い。竹林にヒョウ柄のスニーカーを置いて撮影しているEXILEもどきな輩を見かけて「ありゃないっすね!」と一刀両断なタカテツさん。侍なタカテツさんは刀が鋭いのです。ヒョウ柄のスニーカーを寺の竹林に置くような無粋な人はタカテツ侍に斬られてしまうのでお気を付け下さい。
その後もふらふらと寺を寄り道しながら、季節の花を愛でながら、写真撮影などしながら散歩をし。散歩ってこんな豊かなものなのだなとつくづく思った私です。猫を見かける度に「あ、猫だっ!」と騒ぐ我々をタカテツさんは猫クレイジーだと思ったことでしょう。散歩で猫を見かけるとテンションが上がるのです。
そしてミルクホールというレトロな内装のカフェでお茶をいただき。タカテツさんはミルク紅茶、我々はビールをいただきました。前回のライブの時にも言ったのですが、タカテツさんの柔らかな笑顔を見ていると性別を超越した菩薩のような存在に感じることがあるのです。それを言うと「それロック営業妨害だから!俺はロックのイメージで売ってるから!」と否定するのですが、いざギターを持って歌うとナイフのようにキレッキレなタカテツさんが、オフの時は菩薩の如き存在というのもギャップがあって素敵なのではないでしょうか。そもそもロック営業妨害って言葉何やねんと静かに思った私ですけどね。ろっくえいぎょうぼうがい。
そして夜は今日一日を振り返りながら美味しい魚料理など食べまして。タカテツさんは「じゃあまた!」と颯爽と去って行きました。そのうしろ姿に彼の新曲「友よ、また会おう」が大音量で流れていたのは言うまでもありません。
久しぶりに休日らしい休日を過ごしました。ギターの弦は張りっぱなしでは疲弊してしまうのです。たまに弛めるのも大事なのです。しかし我々の前に現れたあの謎の生き物の正体は一体何だったのでしょうか。また会えるのでしょうか。果たして

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1万2000人とのラジオリスニング

仕事中にラジオを聴く習慣がついてもう何年くらいでしょうか。家にテレビもないし、レコードを聴く以外はだいたいラジオを聴いているのですが、ここ8年ほど毎週欠かさず聴いている番組があるのです。それが「オードリーのオールナイトニッポン」なのです。TBSラジオ派の私が唯一贔屓にしているニッポン放送の番組です。(ビバリー昼ズや他のオールナイトニッポンもたまに聴きますが)先日そのオードリーのオールナイトニッポンの10周年を記念したイベントが日本武道館で行われたので、見に行って来たのです。人気番組ゆえチケットは争奪戦となり、私も先行の抽選で2度も落選しており、これはもう無理かと諦めムードの中、一般発売の抽選に申し込んだら運良く当たったのです。
リトルトゥース(番組リスナーをこう称します)である私としてはグッズも欲しいぞ!といざチェックすると、ラスタカラーに片仮名で「リトルトゥース」と書かれたリストバンドや、胸にデカデカと「リトルトゥース」とデザインされたスウェット、Tシャツなどがずらりと並び。その余りのダサに最初は思わずのけぞった私なのですが、番組内でそのダサさをいじっているやり取りを聞いていると不思議なものでどんどん魅力的に思えて来るのです。しかしリトルトゥースなどと書かれた衣服を己は日常で着るのかと何度も自問し、妻にも「そんなダサいTシャツ着ている人とは一緒に歩きたくないぞ」と宣告され、まあグッズなんてなくてもイベントだけ楽しめばいっかとリトルトゥース魂を心の内に忍ばせて武道館に向かったのです。
しかし九段下に向かう地下鉄に乗った時点でそこかしこに「リトルトゥース」と書かれたTシャツを着用している人たちがいるのであり。みんなリトルトゥース魂全開なのです。心の内に忍ばせていないのです。「LITTLE TWOOS」と英語表記で書かれたトートバックを持っている人たちもいて、あ、あの人もこの人もリトルトゥースなんだ!と気付いた時のテンションの上がりようったらないのです。グッズは前日から販売され、飛ぶように売れている状況をツイッターで見ていたのですが、みんな当日着用するために前もって買うのかとそこで気付き、リトルトゥース魂を心の内に忍ばせている場合ではなかった、周囲に表明すべきだった!と思い直したのです。(しかし表明するのが恥ずかしい気持ちもあるのがまたリトルトゥースらしさでもあるのかなと思ったりする私。)
そして地下鉄を出るとさらにいるわいるわ、リトルトゥース魂を表明している人たちが。ダサいと思っていたTシャツもお客さんみんなお洒落に着こなしており、見ていると一緒のチーム感があって何だかテンションが上がるのです。(特にダサさ全開のラスタカラーのTシャツを着ている人の多いことよ!)そして会場前に行くとさらに人々のリトルトゥース着用率が上がり。何しろ全国から1万2000人が集結しているのです。ここにいる人たちみんながリトルトゥースなんだと思うと何だか胸がいっぱいになってしまい、すでに泣きそうになっている44歳のおじさんがここにひとり状態です。部屋で作業しながら孤独に聞いていた、そして己のやさぐれた心を癒してくれた数々の放送をこんなたくさんの人たちと共有していただなんて。オードリーの2人と番組構成作家藤井青銅さんの等身大パネル前には記念撮影の行列が出来ていて、何と1時間待ちとのこと。何だここはディズニーランドか!オードリーはまだしも藤井青銅さんなんてただのおじさんだぞ!と思いながらも、ミッキーを見るかのような目線を青銅さんに送る私。私もみんなもどうかしているのです。
そんなどうかしている光景を眺めながら、著名人から贈られた花など見ながらいざ会場内に入るとさすが武道館は広いのです。バックステージ側も客席として解放しているのであらゆる角度からステージ上を見られるようになっているのですが、ステージ上はシンプルにラジオブースだけなのです。満員の武道館でただただラジオをやるというストロングスタイルなのです。期待に胸膨らませながら1万2000人のリトルトゥースと待っているといよいよ開演時間になり。
オードリーの2人が舞台に登場し、ラジオブースに座るといつもの土曜の夜カスミンと若林のトークが始まり。ラジオ番組をこの規模で共有する喜びたるやです。冒頭のアイドリングトークを経て若林がこの日披露したフリートークは青森のイタコにお父さんのお墓問題を聞きに行くという珍道中で。
若林「俺のお父さんがお隠れになって」
春日(クスクス笑う)
若林「お前何笑ってんだよ!」
というお馴染みのやり取りで番組では笑い話になっていますが、若林にとってお父さんの存在が大きかったことは彼の著書「表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬」を読めば明らかなのであり。詰めの甘いイタコとの間抜けなやり取りの描写が実にコミカルで面白く一級の漫談でありながら、青年が亡くなった父の声を再び求めに行く家族のドキュメントとしても深く考えさせられる内容で、最後に若林も同行したサトミツさんもイタコ自身も号泣したというオチには笑いの後に得難い感動があり、本当に素晴らしい語りでした。
片や春日もさんざ番組内で語って来た「狙ってる女」こと付き合ってる彼女との結納話を赤裸々に語り、こちらも週刊誌にスクープされ、お互いの家族とひと悶着ありというドタバタを語った一級の漫談でありながら青年が新しく家族を作ろうと一歩踏み出すドキュメントとしても何だかしみじみさせられる内容で、こちらも笑いの後に感動が押し寄せ、その感動をこれだけの人数と共有していることにもまた心打たれてしまった私です。
ヒロシのコーナーでの春日の彼女のサプライズ出演あり、バーモント秀樹、ビトたけしといった仲間のユルい演芸あり(でもビトさんの歌う「浅草キッド」にはちょっと感動してしまった私です)、松本明子、梅沢富美男の一流芸能人の芸も挟みつつ(若林のラップ最高でした!)、圧巻だったのはラストの30分に渡る漫才でしたね。春日の身体を借りてお父さんの声を聞くという若林のフリートークを振りに使った漫才でしたが、顔芸あり、ドツキあり、迫力満点の漫才でした。漫才は人(にん)だと言いますが、まさに2人の関係性と人柄が織りなす言葉のやり取りがスパークしておりました。
「もうお前とは漫才やってられないよ」
「お前それ本気で言っているのか」
「本気だったらこんな楽しく漫才やってないよ」
「でへへへ」 
のくだりもそうですが、若林がボケとして語った「一緒にコンビ組んでくれてありがとうな」という台詞にもグッと来てしまい、何というか笑いながら泣けて来る感じで、感情を揺さぶられました。最高でした。
終演後、気が付けばふらふらと物販に行き、リトルトゥースTシャツを購入している己がいました。日常で着ることがあるのだろうか、妻も一緒に歩いてくれぬぞと一瞬自問したのですが。しかし心が挫けそうになった時、土曜の夜の放送を聞きながら、そっと着用してみるのも良いかもしれないなどと思った私です。着用してこの日の感動を思い出すのです。イタコにお父さんの声を下ろしてもらうかのように。
しみじみラジオって良いなと思いながら帰路に着きました。声と言葉は癒しであると思いながら。

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洗え荒野の果てまでも

ここ数ヶ月洗濯機の調子が悪く、途中でエラーが出ては停止したり、何度も同じ工程を繰り返したり、果てには微動だにせず沈黙してしまうなど、機械として末期を迎えているよアピールが甚だしく、まだ人間の如く徘徊しないだけ良いけど(あの巨体が街をうろついていたらやばいですね)、基本動作に難が見られるのは困ったもんだと途方に暮れていたのです。本体を見やれば使用年数7年と書いてあり、実際に購入したのが7年前で、こんなジャスト7年で壊れるように設計するなんて逆に凄くないかと感心してしまったのですが、7年殺しの秘薬でも投入されているのでしょうか。工場にずらりと並べられた洗濯機にケンシロウが「あたたたたたたたっ!」と秘孔を突いて、「お前らはあと7年で死ぬ」と言い捨てて去って行くのが最終工程なのでしょうか。「ケンシロウさん、お疲れさまでした!この後一杯どうですか?」と仕事後に飲みに行ったりするのでしょうか。「ドラム式は分厚いから秘孔突くのつらいな〜」などとケンシロウが愚痴を言ったりするのでしょうか。脱水の時間なのに何度も水を投入し直す洗濯機に「おじいちゃん!水はさっき大量に飲んだでしょ!」と注意し、動作を止めてしまった際には「ほら、頑張れ!洗濯機としての矜持がお前にはないのか!」と激励し、自作の洗濯機応援歌「洗え荒野の果てまでも」をミル坊と合唱する展開にまでなったのですが、さすがにこうなると買い替えです。
ビートウォッシュが良いらしいよというぼんやりした情報を得て、「ダンカン馬鹿野郎!」とビートなたけしが軍団連中を使ってウォッシュする図を想像したのですが、軍団の方々もそこそこ良いお年だし大変な作業だよなあ、そういえば水道水博士の体調は大丈夫なのかしらと浅草キッドにまで思いを巡らせながら家電量販店に行き、結局適当と思われるものを「じゃこれ下さい」と10分くらいで決めたのですが、あれこれ思い悩んで買ってもどうせ7年で死ぬという諦観があるからでしょうか。見たところ秘孔を突かれた形跡はありませんでしたが。
しかし思い返せばこの7年の間に居を移し、独立もし、ミル坊がにゃーにゃーにゃーとやって来たり色々あったわけで、その間の我々の衣服など身の回りのものを綺麗にしてくれたのだから洗濯機くんには感謝せねばなるまいと思った次第です。
毎日皿を汚し服を汚し身体を汚し、洗って綺麗にして明日を迎えるのが生活というやつです。洗濯機くんの引退を記念して乾杯した我々です。まあ何もなくても毎日乾杯はしているのですけどね。f:id:fishingwithjohn:20190214075435j:image

地図の上のサウダージ 貸切り図書館70冊目

先日は貸切り図書館70冊目、yojikとwandaさん、NRQさんのライブにたくさんのご来場をありがとうございました。ヨーワンさんがmolnに出演するのはもう3回目でしょうか。今回はイトケンさんも加わってフルバンド編成で出演してくれました。3曲も披露してくれた新曲はどれも良かったし、2人の息の合ったハーモニーに寄り添い、時に暴走する吉田さんの二胡、服部さんイトケンさんのしなやかなリズム隊も素晴らしかったです。歌詞に図書館が出て来る「ブライアンイーノ」という曲がカーティスのようで、実にかっこよかったですね。私がリクエストした超名曲「I Love You」にも落涙しました。(聴くと毎回泣いちゃうんですが)本の紹介ですが、wandaさんは雑誌「STUDIO VOICE」の「Flood of Sounds from Asia いまアジアから生まれる音楽」という特集を紹介してくれました。いまどき雑誌で音楽を紹介するなんて珍しいと手に取ったそうで、久々に雑誌を買った体験と音楽を知るツールがネットになって久しいというリスナーとしての雑感を語ってくれました。コラムのようなその語り口がwandaさんらしくて良かったですね。
yojikさんは町田尚子著「ネコヅメのよる」という絵本を紹介してくれ、朗読もしてくれました。猫の描写のアングルや夜の色味が迫力あって強く惹かれる本でしたね。yojikさんは仕事で子供の本の編集に携わっており、よく「子供たちが怖がるので暗い色は使わないで欲しい」というクレームを受けるのだそうです。自分は幼い頃に絵本の暗い世界に惹かれたし、子供の読むものが明るい健全なものだけでは感性が育まれないのではと違和感を抱いたという話をしてくれました。私も絵本など子供向けの本の夜の暗い世界の話にときめいたものでしたが、そんなクレームが来て作品作りに配慮されてしまうのは勿体ない気がしてしまいますね。「ネコヅメのよる」は猫好きにはたまらない怪しさがあって、手に取ってみようと思いました。
イトケンさんは普段あまり本を読まないけれど、安部公房だけは大好きで最近は全集まで揃えているという話をしてくれました。イトケンさんとは付き合い長いですが、安部公房好きだとは初耳でした。教科書に載っているのを読んで興味を惹かれたのだそうです。安部公房はシンセを使って音楽も作っているとのことで、後で検索したら本人と機材の映っている映像がありました。安部公房の機材をいじる姿はどこかイトケンさんに通ずるものがありましたね。
そして続いての登場はNRQさんです。昨年リリースされたアルバム「レトロニム」も素晴らしく、ぜひまたお呼びしたいと思っていたのでライブが実現して嬉しかったです。二胡とサックスとギターが奏でるいつの時代かどこの国籍かわからないけど、どこか懐かしいメロディーに惹かれてしまうのです。これをサウダージと呼ぶのでしょうか。グレッチをアンプ直差しの牧野さんの職人のようなギタープレイも良かったし、中尾さんのハイハットのキレの鋭さも凄かったです。(中尾さんのドラム聴くといつもチャーリーワッツを思い出します。)NRQの音楽を聴く度に、旅の途上にこういう曲が流れていたような気がすると旅の光景を回想してしまうのです。そして人生は旅であるとその旋律を聴きながら実感するのです。本当に素晴らしいライブでした。
本の紹介のくだりでは、まず服部さんが奥さんの実家から発掘したという「懐かしのメロディー66」という手のひらサイズの歌本を紹介してくれました。こういうコードも載っていない、歌詞だけ書かれた本で歌を共有出来た時代があったのですね。(と、解説を振られた中尾さんが語ってくれました。)
吉田さんは保坂和志著「カンバセーションピース」を紹介してくれました。この小説、何てことのない会話の連なりが主な内容ですが、作中に出て来る横浜ベイスターズについての会話に吉田さんがファン目線からツッコミを入れていて面白かったですね。野球好きが読むとそういう感想を抱くのかと新鮮でした。
牧野さんは本の現物を忘れて来たものの、内容だけ紹介してくれました。ナショナルジオグラフィック社から出ている「世界をまどわせた地図」という本で、古今東西に存在した嘘偽り、誤り、妄想、でっち上げなどによる幻の地図を紹介しているのですが、実際2000年代にメキシコ近辺にあるとされていてグーグルマップにも載っている島が存在していなかったことがわかり、マップから削除された例なんかもあるそうです。最近でもそんな話があるのだから過去にはあり得ない形の地図がたくさん出回っていたことでしょう。世界各国で地図に主観を入れていた時代があったはずです。聞いていてかなり興味を惹かれましたね。
中尾さんも牧野さんに続き本を忘れて来たのですが、さらにはタイトルも作者も忘れたという話には笑いました。内容だけ紹介してくれて、「タイトルは各自調べて下さい」とのことでしたが、調べたらおそらくラルフ・ジョルダーノ著「第二の罪 ドイツ人であることの重荷」という本のようですね。ヒトラー支配下での罪を心理的に否定する第二の罪についての話で、「ヒトラーもそんなに悪くなかった」と肯定することが罪であるというジャーナリストによる提言が書かれているようです。紹介にもメンバーの個性が出ていて面白かったですね。
最後の両者によるセッションもそれぞれの個性が出ていて素晴らしかったです。yojikさんの歌う「のーまんずらんど」では牧野さんがリハでイトケンさんに「めちゃくちゃに叩いて下さい」みたいな注文してて、実際本番でめちゃくちゃにかっこよく崩して叩いていたの最高でしたね。「それいけ探検隊」という曲では牧野さんのギターもyojikさんのリコーダーも炸裂していたし、みんなの掛け声も決まっておりました。先ほどの地図の話じゃないですが、幻の地図を片手にバンドが探検に出かけているような勇ましさと楽しさがありました。
yojikさんが服部さんのことをひそかにハッチと呼んでいるという話から、ヨッチだのマッチだのNRQ内でニックネームをつけ合う展開になったり、両者の良き関係が演奏に現れていてとても面白かったです。良きライブでした。
貸切り図書館、次回は3月16日ゲストに次松大助さん(THE MICETEETH)、難波里奈さん(純喫茶コレクション)を迎えてお送りします。こちらもぜひよろしくお願いしますということで。f:id:fishingwithjohn:20190212151516j:image
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サーフ ネコノテ カマクラ

気が付けば2月になっておりました。早いのです。時の流れは。

1月中旬からは独立してカマクラ張子として活動を始めつつ、ほぼ毎日molnに立ってお店スタッフとしての業務もしていたので、何というかまあ単純に忙しかったです。店長のあやに「いらっしゃいませの言い方が違う!」といらっしゃいませ千本ノックさせられたり、「掃き掃除の仕方が違う!」と掃き掃除千本ノックさせられたり、接客だのレジの締めだのカード決済だの研修生の如くビシビシ仕事を教えられ、44才にして雑貨屋店員として新人デビューを果たした月となりました。「お前は仕事が出来ねえな!」と罵声を浴びせられ、「ひー、すみません〜」と言いながら素敵雑貨を売る簡単なお仕事です。夢を売るって素敵なことね。
そんな新人業務の合間に張子作家として招き猫のオーダーをせっせと仕上げつつ、1月は貸切り図書館を3回も開催したので、何だか盛りだくさんという感じでしたね。タカテツさん、直枝さん、うりさんのライブは本当に素晴らしく、このようなライブを企画出来た喜びは大きかったです。自分の店で好きなライブを見られるというのはありがたいことです。
張子のオーダーは飼い猫の招き猫の注文が多く、描く際には資料としてたくさんの猫の写真を見るのですが、猫の写真を見ていると本当に癒されるのですよね。猫って可愛いな〜と癒されながらmolnで招き猫を仕上げ、帰宅したら我が家のミル坊に癒され、猫の可愛さに支えられながらのスタートとなりました。忙しい時は猫の手も借りたいなどと言いますが、実際に猫の手を借りて乗り切った感じです。ミル坊も「ほら、貸してやるにゃ!」と快く手を差し出してくれました。
招き猫に関しては様々なオーダーを受けているのですが、この間は「28年前に亡くなった猫の写真を肌身離さず持ち歩いているのですが、その猫の柄の招き猫を作ってくれませんか」という依頼があり、その写真を見ながらお作りしました。28年前に亡くなった猫を今も忘れられずに写真を持ち歩いていることや、その猫の思い出を招き猫として形に残そうとする愛情の深さに何だかジーンとしてしまった私です。毎回猫の柄の美しさに感動しながら描いています。猫に乾杯しなければなりません。力をくれる存在に。
そんなカマクラ張子ですが、ロゴをイラストレーターの福田利之さんに描いていただきました。素晴らしく可愛い仕上がりに歓喜した私です。ロゴを受け取って、以前吉祥寺で福田さんの個展を見た時に「こ、この人は凄い!」と衝撃を受けた時のことを思い出しました。福田さんラブ!と心のうちにハートを送ってしまった私です。そんな福田さんのラブなロゴが目印のカマクラ張子のインスタには私の描いた招き猫などがアップされているので、ぜひ見ていただきたいのです。そしてフォローしていただきたいのです。
 https://www.instagram.com/kamakurahariko/
あとツイッターFacebookも開設したのでよろしければ。
http://twitter.com/kamakurahariko
https://m.facebook.com/kamakurahariko
SNSの紐付けがうまくいかず、全部個々にアップするのは骨が折れるのですけどね。いずれはミル坊の手でも借りてやっていこうかと思っているところです。猫の手マークのいいにゃ機能でもあれば良いのですけどね。
はてなダイアリーを2004年から始めて、結構な量の文章を書いて来たのですが、近くサービスが終了するのだそうですね。仕方なく今書いているはてなブログというのに移行したのですが、ダイアリーとブログとどう違うのでしょうか。トリップとトラベルの違いみたいなものでしょうか。ラブとライクはだいぶ違いますけどね。過去の記事はたまに出来事を思い出すのに検索するくらいで読み返さないのですが、よくよく考えたら財産だなあと思ったりします。そんな財産を増やす1年に出来ればと思っている2月の初旬です。

今年もあっという間なのでしょうか。きっとあっという間なのでしょうね。波に乗っているうちに過ぎるのでしょう。そんな予感がしているこの頃です。

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賑やかなるノスタルジー 貸切り図書館69冊目

先日は貸切り図書館69冊目、中山うりさんのライブにたくさんのご来場ありがとうございました。もうmolnには4回目の出演となるうりさんですが、今回は初めての編成で新鮮でしたね。うりさんの凛とした歌にトランペットにアコーディオン、南さんのウッドベースと小林創さんのピアノによる鉄壁のアンサンブルが素晴らしかったです。特に小林さんのピアノ、初めて聴きましたが主役を食う勢いの超絶プレイに耳を奪われっ放しでした。(星野源の「恋」でピアノを弾いてるのが小林さんだそう。知らずに何度も耳にしていたのですね。)トリオなのにビッグバンドみたいな賑やかで迫力ある演奏にうりさんの楽曲の良さも際立っておりました。個人的にはデスメタル好きな女の子を好きになる女の子の歌「デスメタルラブ」にグッと来てしまいました。この曲はカバーだそうですが、歌詞がうりさんのキャラクターに合っていてすごく良かったですね。

うりさんの紹介してくれた本は金沢の古本屋で買ったという金子みすゞ「日本語を味わう名詩入門」、エレカシのインタビュー本「俺たちの明日」上下巻でした。金子みすゞの言葉には自分にはない感性があるとのことで、いくつか詩を朗読してくれました。合わせてうりさんの子供の頃の思い出話なども語ってくれました。

エレカシはライブを見に行って以来「エレカシ沼にハマってしまった」とのことで、このインタビュー本を紹介してくれました。しかもちょうどこの下巻を読んでいた時に偶然飲食店でボーカルの宮本さんに遭遇し、勇気を出して話しかけたらお連れの人がたまたまこの本の編集者さんだったそうで。宮本さんは「自分より売れているミュージシャンに好きと言われると嬉しいけど、売れてない人に言われてもそうでもない」みたいな発言をしているらしく(まあ冗談なのでしょうが)、うりさんは自分がミュージシャンであることは明かさなかったそうです。うりさんと宮本さんのコラボなどもぜひ見てみたいですけどね。何より思っている相手に出会えるうりさんの引きの強さが凄いなと思いました。

ベースの南さんは「ISAN 旅するタイ・イサーン音楽ディスクガイド」という本を紹介してくれました。この本で紹介されているタイの音楽に興味はあるけど、タイ語で検索出来ないし、英語の検索にも引っかからないので内容を聞けずモヤモヤするとの話でしたが、非英語圏の文化へのアクセスに検索がネックになるというのはなるほどと思いましたね。Siriに聞くにも何て発音するのかわからない場合もありますしね。南さんはタイ映画の特集上映会があるのを知り、タイ音楽に触れられるかもと見に行ったらたまたま見た作品がぶっ飛んだ前衛的な内容だったらしく、よりモヤモヤしたというエピソードを語ってくれました。

小林さんは棋士村山聖を題材にしたノンフィクション小説「聖の青春」を紹介してくれました。小林さんは将棋を指している間だけ現実世界のことを忘れられるというくらい将棋が好きなのだそうで。小林さんの緻密なピアノプレイを聴いていると何だか合点がいきましたね。二手三手先を読みながら構築していく感じというか。「聖の青春」が映画化された際に村山聖役が松山ケンイチだったことについて「全然本人に似ていない、ドランクドラゴン塚地の方がぴったりだ」と小林さんは話していて、後で画像を検索したらなるほど塚地さんの迫真の演技だったら本人に迫れるかもとそのキャスティングの妙にも納得してしまった私です。三者三様の本の紹介が聞けて面白かったですね。

あと図書館つながりで言うと2月から北区の図書館の閉館を知らせる音楽とナレーションをうりさんが担当するそうです。図書館に閉館までいた経験は学生時代以来ないなあと思ってちょっとノスタルジーな気持ちになりました。これはぜひ北区まで聴きに行かねばと思った次第です。

貸切り図書館、次回はNRQ、yojikとwandaをゲストに迎えてお送りします。ヨーワンさんはバンド編成なのでイトケンさんも来ます。ぜひこちらもよろしくお願いしますということで。

2月10日(日)鎌倉moln

「貸切り図書館70冊目」

出演:NRQ/yojikとwanda(+itoken、服部将典吉田悠樹

開場18:00 開演18:30

 

前売り¥2800 当日¥3300(+1drink)

ご予約はmolnまで。

http://cloud-moln.petit.cc/banana/2848417

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