無人島と図書館と

みなさんは猿島という島をご存知でしょうか。横須賀からフェリーで10分という立地に存在する無人島です。海の上にポツンと浮かぶ島。そこに遊びに行けるらしいとの情報を得て、この間訪ねてみたのです。

我々は無人島と聞いて即座にサバイバルな雰囲気をイメージし、「遭難したら大変だから食料を持って行こう!」「防寒着も装備して行こう!」と構えながらフェリー乗り場のある三笠公園に向かったのですが、乗り場は綺麗に装備され、観光でっせ!とばかりに猿島グッズやビールなんかも販売されており、サバイバルとはほど遠い雰囲気なのです。「それでも海の向こうは野生の世界だ、気を抜くな!」とフェリーに乗り込み。コロナ禍とはいえそこそこお客さんも乗っており、みなさん軽装で小さなお子さんもいたりして、サバイバル気分なのは我々だけでした。
いざ出発すると海上で風を感じてとても気持ちよいのです。「う〜みよ〜」と加山雄三の気分で鼻歌も出る程なのです。あやは「わ〜!」とスマホで撮影しようとポケットに手を入れた直後、フェリーの半券が飛び出て。そのまま強い波風に揺られ吹き飛ばされてしまったのです。「わ〜!」と同じ単語を今度は悲鳴に近いニュアンスで発しながら追いかけるもむなしく遠くへ旅立つ半券。スタッフさんに「帰りは半券なくて大丈夫ですか?」と聞くと「帰りはなくても大丈夫です」と言われほっとするあや。そりゃそうですね、無人島に行くのにこのフェリーしか手段がないですからね。あやの半券は横須賀の海を漂い、やがて波間に消えて行ったことでしょう。サバイバルしょっぱなから失敗です。
やがてフェリーは猿島に到着し。島の入口にはしっかり小綺麗なカフェ施設もあり、BBQも出来るようになっており。無人島とはいえ安全に整備された自然公園といった様相でしたね。早速散策に出る我々。自然豊かでとても気持ち良いですし、江戸時代から太平洋戦争終戦まで軍の要塞として使われていた遺跡がそのまま残されており、まさにラピュタの世界に潜り込んだような気分です。レンガ造りのトンネルは千と千尋の神隠しの世界観。ジブリ好きにはたまらない雰囲気なのです。どことなく異国情緒もあり、散歩するだけで楽しめるのです。
そんな雰囲気だからなのか、そこかしこでコスプレイヤーが撮影を行っており。我々が知らないだけでロケ地として有名なのでしょうか。ゴスな衣装に身を包んだ女の子たちが撮影をする現場に何度か居合わせました。確かにインスタ映えなロケーションです。つい我々もサバイバルとして着て来た防寒着を脱ぎ、トンネル内でアー写っぽい写真を撮影するなどして楽しんでしまいました。横須賀から10分で来られる立地にこんな島があるとは。コスプレイヤーの方やカップル、家族連れにもおすすめな場所です。ぜひ訪ねてみてはいかがでしょうか。
そして島を歩き回った我々はまたフェリーに乗り込み。海上の風を浴びながら横須賀に戻りました。(あやの失くした半券は見当たりませんでした。)あやはmolnを始める前は横須賀中央図書館で司書として働いており。折角だからと元職場を訪ねてみることにしまして。ちょっとレトロな雰囲気の商店街を歩き「昔はここでお弁当買ったなあ」とか「この道通って職場まで通ったなあ」とあやの聖地巡礼のような趣で図書館まで歩きました。いざ図書館に着くもその日は休館日で開いてなかったのですが、「うわ〜この入口から入館したんだよなー懐かしい〜」と当時を思い出すあや。
実は私も一度だけあやが働いている様子を見にこの図書館に来たことがあるのです。私は何食わぬ顔で図書館に入り、館内で働いているあやを見付け、「すみません音楽関係の本ってどこですか?」と聞き「こちらです!」と案内されるという謎のプレイを展開し。まだmolnを開店する前ですから11年前のお話です。司書としてきびきび働くあやの姿にすでにmoln店主の片鱗が見えていたような気がします。その後molnで「貸切り図書館」というイベントを始めることになるとは思いも寄らなかった頃です。図書館の前に公園があり、そこであやが仕事から上がるのを待っていたら当時のあやの同僚や先輩の方が「うちのあやの彼氏ってのはどんなやつなんだい〜」と見に来るという出来事があり。私は「た、試されてる!」と震えつつもみなさんにご挨拶をしたのですが、その後その図書館時代の仲間の方々はすっかりmolnの常連さんになっています。私は一応彼氏として合格したのでしょうか。図書館と公園の思い出です。
その公園であやは毎日お昼にお弁当を食べていたそうで、当時のことを思い出して「わ〜何だか胸いっぱいだよ〜」と突然泣き出し。ここで働いていた日々を経てmoln店主になったわけです。公園には誰もおらず西日が翳り夕日が沈もうとしており。私はかつての職場を前に泣いているあやを見て同じく胸がいっぱいになったのでした。あれから11年。
半券がなくても戻れる思い出。横須賀にまたそんな思い出が出来ました。

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春のスカイツリー、リキとの遭遇

気が付けば4月になってしまいました。早いのです。

このところはご時世柄遠出もしづらく、東京に出向くこともそうそうないのですが、カマクラ張子のスカイツリーでの展示が4月頭にあり、一日だけ在店する機会がありました。久々のスカイツリー訪問ということで若干テンションも上がったのですが、いざ売り場に着いたらさらにテンションの上がる光景を目にしまして。何と売り場のすぐ横でCMの撮影を行っており、石田ゆり子さんと長州力さんが来るというのです。
私はついこの間までクドカン脚本の「俺の家の話」というドラマを毎週楽しみに視聴しており、そこに長州力さんもご本人役で出演していたのです。超タイムリーなのです。「え、あのドラマで見ていた長州さんが来るの?」とテンション爆上がりだったのですが、いざ撮影現場に近付こうとすると警備員の人が「すみません!撮影なので!」とすかさず止めに来るのです。普通にスカイツリー自体は営業中なので一般客もその近くを通るのですが、「あれ、何か撮影してる〜」と人が見ようとすると警備員が即座に「すみません!」とブロックするのです。そのブロック力たるやツイッター上の河野太郎もかくやといった様子なのです。「我、アリ一匹たりとも通さず!」という気迫を感じるのです。長州の「俺をキレさせたらたいしたもんだゾ!」と同等のテンションで「俺のブロックを抜けたらたいしたもんだゾ!」と警備員が眼光鋭く見張っているのです。私はその強靭なブロック力が全人類に備わっていればコロナウイルスの侵入も防いでくれるだろうにとその力量を買ったのですが、その警備員はCM撮影現場に来る野次馬しかブロックしないのです。惜しいのです。他のスタッフの方も近付こうと試みるもその警備員にブロックされてすごすご引き返して来る始末です。
その後その現場に本当に石田ゆり子さんと長州力さんも現れ。私は張子の実演の傍らチラチラとその様子を眺めたのですが、遠目に見えたのです。生の石田ゆり子さまと長州力さまのお姿が。「わ!石田ゆり子さん綺麗〜」「長州本物だ〜、形変わるゾ!」とテンション爆上がりしたのですが、ブロックのせいで近付けないので静かに気配を感じながら仕事をしておりました。今自分は石田ゆり子長州力と同じ空気を吸っているという事実。ここで何か天災が起きたら同じ運命を共有することになるのです。ゆり子と長州と。凄い運命ではありませんか。ゆり子と長州はプロとして撮影している。そして私もプロとして実演をしている。この空間の共有。スカイツリー2021春。ひとりナレーションを入れる私。
通りすがりの一般客が長州さんの姿を見て「あのほら、長州何とかって人だよ、誰だっけ」とか言うのを聞きながら「長州という上の句がわかっていたら下の句は藩か力しかないだろ」と心の中でツッコミを入れたのですが、私が知らないだけで長州エリザベスみたいな横文字のハーフタレントがいるのでしょうか。道端アンジェリカみたいな感じの。或いは長州力のそっくりさんである長州小力である可能性を示唆したのでしょうか。力あってこその小力なのに。長州小力がパラパラを踊る姿を思い出しながら。キレてないですよキレてないですよと脳内に聞こえるリフレイン。
そして夕方になってようやく撮影も終了したようで。「はい、クランクアップです。お疲れさまでした〜」みたいな掛け声と拍手が遠くに聞こえました。CMってオンエア数秒だけどこうして半日かけて撮影してるのだなあと、その苦労を横目に実感した次第です。何のCMかはわからなかったのですが、オンエアを見るのが楽しみです。
このコロナ禍に於いて石田ゆり子長州力と半日同じ空間で過ごすという思い出が出来ました。今後河野太郎を見かける度にあのブロック警備員を、そして長州力を思い出してしまいそうな自分がいます。一般客を閉め出すブロック力と長州力。同じ力でも私は長州の美しいプロレスの力の方を信じたいものです。
そんなわけでスカイツリーの催事も無事終了しました。ご来場いただいた方々、どうもありがとうございました。

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記憶と伝言ゲーム

3月も後半に差し掛かり、日に日に暖かくなって来ました。ウグイスも良い声で鳴き始め、春が来たのだなと実感させられます。モクレンミモザユキヤナギなどの花を愛でつつ、家の近所を散歩などしているとどこからか猫がやって来て、慌ててスマホを取り出し撮影などしているとレンズ越しに猫と目が合い、何かしらの交信が成された感じに嬉しくなりその写真を持ち帰るなんて感じの日々です。

一見平和な日常が戻った雰囲気ですが、しかし状況は何も変わっちゃいません。薄い毒に侵された水の中を漂っているかのような一定の息苦しさが通底しているのです。現政権は腐食し切って国民を助ける気もなく無能や狡猾さを隠そうともしなくなりました。明らかに中止、延期した方が良いオリンピックも強行しようとしているし(オリンピックにまつわる醜聞の聞くに絶えなさよ)、震災を経ても原発をやめられない一定の狂気の持続した国でウイルス対策など出来ようものかという話です。国会で「記憶にない」と連呼する大人を見て子供たちは何を思うのでしょうか、うっせえわと返すのでしょうか。いっそ全ての記憶がなくなれば幸せだろうよと思いながら過ごしています。

最近地震も多く、この状況で震災が起こればまた大変なことになるでしょう。この間夕方に大きく揺れた時はちょうどあやとmolnにいて、テーブルの上の商品が小さくカタカタと鳴り出した段階で「あ、地震だ!」と気付き、あやに「地震!」と言うもマスク越しでちょっと離れたところにいたので聞こえなかったのでしょうか。「え?」と聞き返すので「地震!」と言うもまた届かず。その後も「地震地震!」と連呼したのですが、あやの耳にはそれが「寿司!寿司!」に聞こえたらしく、「寿司、スーパーに残ってるかねえ」などと呑気に返す始末。「寿司じゃねえ!地震!アースクエイク!」と言った後に大きくガタガタ揺れあやが「わ、地震だ!」と驚き、「だからさっきから地震だって言うとるがなっ!」と返したのですが、地震は何度経験しても慣れませんね。その時、地震が寿司になる食いしん坊伝言ゲームが展開され、私も中学の英語の授業以来「アースクエイク」という単語を口にしました。みなさんもお気を付け下さい。
政治が酷過ぎるのでせめて美しいものに触れたいと思うのでしょうか。映画を見たり音楽を聴いたり本を読んだり、文化的なもので己を満たすようにしています。己が作る物も豊かで美しい嘘のないものにしたいと思っています。fishing with johnがサブスクで聴けるようになり、知り合いの方も「こういう音楽をされていたのですね」と知ってくれるようになり嬉しい限りです。なかなかライブも難しい状況ですが、いつかfwjの曲も生演奏出来たらと思っております。取りあえず曲のギターコード、フォームを思い出すという作業からぼちぼち始めています。(譜面もないし、名前のわからないポジションで弾いたギターが複数絡んでいるし、その押さえ方も覚えていないという。)当時の自分に聞ければ良いのですがそれこそ本当に記憶にないのです。記憶にないというのはさみしいことです。だからこそ記録は残しておかないといけないのですね。今や国が公文書を改竄、破棄する時代です。もう社会や文化の終焉ですよそれやったら。(再び政治への怒り。)
取りあえず日々働いて猫を撫でてレコード聴いて焼酎飲んでます。サブスクでぜひfwjの音楽を聞いて下さい。アルバムの解説なども今後アップして行こうと思っております。よろしくお願いしますということで。

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fishing with john、サブスクの海へ

そんなわけでfishing with johnの全アルバムのサブスク配信が始まりました。よくサブスク解禁などという言われ方をしますが、こちとら禁じていたわけでもないし、むしろサブスクにあげなきゃ!と推進して来たわけですが、何なのでしょうかねあの付随する文言は。俺らの貴重な商品を聴き放題の海に放流してやるよ、ほら聴きやがれ!というレコード会社の上から目線がそう言わせているのでしょうか。出し惜しみ感というか。こっちとしてはどんどん放流して欲しいんですけどね。

自分の作品がサブスクに上がって何より嬉しいのは市場に出回っていない過去音源を聴いてもらえるということですね。新譜が出たタイミングで旧譜も聴いて欲しいですしね。何より手軽に聴いてもらえるし。スマホがあればすぐ聴けるだなんて凄い時代です。いざサブスク開始されて自分が普段使っているApple Musicに自分のアルバムが並んでいるのを見た時は嬉しかったですね。タワーレコードHMVの棚に自分のCDが置かれているのを見た時と同じ感動です。(iTunes Storeに並んだ時も感動しましたが。)

Apple Musicでは下に同じタイプのアーティストが表示されるのですが、伊藤ゴローさんのユニットやtico moonさんの名前が並んでいてそれも嬉しかったです。思えば「林檎にタッチ」のCDの帯文は伊藤ゴローさんに書いていただいたのでした。「林檎にタッチ」がリリースされた時は新宿のタワレコでパネル展開もしてもらい、インストアライブとサイン会も行ったのですが、色々と当時のことが思い出されました。それこそiTunes Storeでの配信が始まった時は渋谷のApple Storeでもインストアライブを行ったり、当時の自分らは活動的でしたね。
サブスク記念に久々に自分の音源を聴いたのですが、時間が経っているので何だか新鮮でしたね。それこそ7、8年振りに聴いたんじゃないでしょうか。よくこれだけ作ったなあ自分という感じです。あと「これ作った人と趣味合うな〜」と思いました(笑)。自分の聴きたい音楽を作っているので当たり前なんですけどね。勿論「あーここのミックスもう少しこうしたら良かった」とか「ここで終わりで良いのに長いな〜」とか反省点は見えるのですが、もう直しようがないですしね。世に出ちゃってるし。Tsuki No Waの伊藤匠さんのサックスと石本さんのダブミックスをフィーチャーした「8月のヌードデッサン」とか現代音楽×フリージャズみたいなアヴァンギャルドな音像で、独特な曲を作っていたなーと感心してしまいました。それこそ真夏に汗だくでひたすらデッサンを描くようにミックスしていた記憶があります。こちらの曲もサブスクですぐ聴けるのでぜひ。
あと「サイクル曜日」はアパレルの展示会のテーマ曲に使われたり、ベッキーさんのラジオ番組のオープニング曲に使われたり、割と評判の良かった曲なのですが、聴き返したら新鮮で良かったですね。ベッキーさんの番組は毎週自分の曲がラジオから流れるのが嬉しくて愛聴していたのですが、例の文春の事件があり番組も終了し。あの時ばかりは相手の絵音さんを恨んだものです。(今はファンです。)曲調も明るくて春のお出かけに聴くのに最適かと思います。fwjの代表曲と言っても良いかもしれないですね。
当時東京のカレッジチャートの1位になった「読みかけの夏」とか劇団の舞台のエンディング曲に使われた「夕方ループ」とか、電気グルーヴのカバー「虹」とか、矢野顕子さんの「湖のふもとでねこと暮らしている」のカバーとか、他にも色々豊富です。将来本当に猫と暮らすようになるとは夢にも思わなかったのに矢野さんのこの曲を選んだのは何か導きがあったのでしょうか。猫による導きが。
アルバム「猫書簡」は板東寛司さんの猫のDVDのサントラなので板東さん撮影の猫ジャケになっているのですが、思えば何かと猫に縁があるのですよね。「彼女のティップトゥ」か「月に輪唱」のどっちかに山田氏の先代猫ポチの鳴き声が入っているのです。記憶が曖昧なのですが、確か山田氏に鳴き声を送ってもらって入れたんだと思います。板東さんの可愛い猫の映像を見ながら作ったので全曲猫に合うアルバムですね。こちらは当時配信のみでCD盤が出ていないので、初めて聴かれる方もいらっしゃるかもしれません。
これを機にSpotifyの方も有料で利用し始めてみようかなどと思っています。アマゾンプライムやNetfrixなど映画もサブスクで見ることがほとんどになりました。時代によって変わるものです。取りあえずサブスクでぜひ一度fishing with johnを聴いてみて下さい。スマホで簡単に聴けます。

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1年前、3月の空気

気が付けば3月もどんどんと過ぎて行くのです。

去年の3月の自身の日記を見返すと(スマホにその日あった出来事を簡易的にメモしているのです)、いよいよこの頃から本格的に新型コロナというやつがヤバいぞという雰囲気になっているのがわかりますね。去年の2/25にGOMES THE HITMANのレコ発ライブを見に行っているのですが、ライブハウスのスタッフから「もう今後のライブは難しそうです」と聞いたのを覚えているし、その日も接触を避けるためにサイン会が行われなかったですしね。握手も禁止と言われていたのに、楽屋に挨拶に行ったらサポートで出演していたPLECTRUMのタイスケさんが「わ〜五十嵐さん来てくれたんですか〜」と握手を求めて来たというほっこりしたエピソードがあるのですが(笑)。4月に予定しているmoln10周年フェスをどうするか悩みながら帰った覚えがあるのですが、思えばライブハウスで有客でライブを見たのってあれが最後だったかもしれないですね。2/29に予定されていた高橋徹也さんのレコ発ライブが中止になったので、あの辺りが境目だったということでしょう。3/1にナンバーガールの無観客配信を見ながらこんな状況いつまで続くのだろうと途方に暮れたものです。(そして現在も途方に暮れているという。)
結局4月のmoln10周年フェス(山田稔明、近藤研二、高橋徹也に草テンという豪華なラインナップ!)も延期になるのですが、あの頃は1ヶ月後には出来るようになるかもしれないと念のため3月中にも草テンのリハーサルをしていて、コロナ禍初期の雰囲気を思い出しました。1ヶ月で収束すると思っていた自分が愚かに思えますが、あの頃は皆そんな状況でしたよね。あれから1年かと思うと、とんでもない1年だったなと思います。
今も何の根拠もなくだらだらと緊急事態宣言延長などしていますが、2週間経ったら何とかなってるんじゃね?みたいな神頼み状態では飲食店ばかりが大変な思いをするだけです。国を上げてのコロナ対策が「20時以降店で飲食しない」なんて何かの冗談なのでしょうか。20時まではコロナくんが「僕大人しくしてよう〜っと」と身を潜め、20時以降に「よ〜し!感染していくぞ〜う」と活発になるというのでしょうか。仮定の質問には答えられませんと述べるのでしょうか。馬鹿なのでしょうか。

日記を見返すと去年の3月からfishing with johnのアルバム作りを本格的に始めていて、上野さんに「歩けリリー」「ジャングルジムで鯨釣り」のラフを送ってミックスの依頼などしているのですね。その頃はまだスタジオで対面して仕上げる予定で「6月くらいには落ち着いているだろうから、それまでにデータまとめて送りますね〜」なんて話していたらみるみるうちに自粛生活に突入し。おかげといっては何ですがその間にじっくりと追加の録音作業やデータの整理なども出来たんですけどね。上野さんに素材を送る頃には「これはもう会わずに最後までリモートで仕上げましょう」と相成り。往復書簡のようにやり取りしてこの2曲を仕上げたのですが、未だ上野さんに会えていないのが残念でなりません。実は「歩けリリー」の録音は2013年から始めているので、完成まで7年かかったことになるのですが、上野さんから届いたミックスを聴いた時は感激しましたね。アルバムの中でも特にトラック数が多い曲なので、まとめるのが大変だったと思うのですが、繊細な硝子細工のような仕上げに唸ったものです。
3月11日からfishing with johnの新譜と旧譜、合わせて5タイトルがApple MusicとSpotifyでサブスク配信開始されます。「歩けリリー」もそちらで聴くことが出来ます。ていうか全曲聴き放題です。大瀧詠一御大でさえサブスク解禁する時代です。サブスクを利用していない方はぜひこれを機にいかがでしょうか。
もうすぐ桜の季節ですね。震災から10年。春の匂いに喜びつつも感傷的になるのは何のせいでしょうか。この状態がまだ続きそうだからでしょうか。それとも確定申告が面倒くさいせいでしょうか。いずれにせよタフに生き延びていくしか道はないようですね。f:id:fishingwithjohn:20210309154852j:image
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fishing with john、サブスク解禁への道

3月になってしまいました。早いのです。2月も雛人形の制作などでそこそこ忙しく、毎日「愛の不時着」や「梨泰院クラス」などの韓国ドラマを見ていたらあっという間に終わってしまいました。(見出したら止まらない面白さなのです。)あにょはせよ〜とか、かむさはむにだ〜とかうちの猫どもに挨拶しながら短い月を終え、新たな月を迎えました。もう年度末ですね。
fwjのサブスク配信に向けて動いていると以前ここにも書きましたが、鬼滅の刃方式で印鑑証明をいただき、それと住民票を事務局にFAXしたところまでは書きましたが、まだまだ道のりは長かったのです。FAXして終わりかと思ったら「同じ書類を今度は郵送で送れ」との謎指令が先方から出されたのです。ていうか郵送で良いなら最初から郵送で良くね?なんで1回FAXかましたん?うちFAXないからわざわざコンビニで1枚50円もかけて送っとんやけど?と疑問やツッコミが己から湧き出たのですが、そういうシステムなのでしょう。最新のデジタル配信の手続きに旧式のアナログな手法ありはもう充分理解しているのです。そこで書類を郵送し、先方から確認をもらい、今度は曲毎にISRC番号を振ってもらうのに登録料を支払うのです。バーコードを1曲毎に発行するようなイメージでしょうか。そこでようやく番号を取得し、今度はそれを流通に乗せるのに流通会社に曲を登録するのです。
会社からいただいたエントリーシートに曲のタイトルや読み方などを事細かく記入して行くのですが、例えば「14.8℃カマクラ」だったら「ジュウヨンテンハチドシーカマクラ」みたいに片仮名を振る他、アルファベットでも書かなくてはならず。この場合はzyuyontenじゃあないよな、ああ数字はそのままで良いのかと「14.8℃kamakura」と書いたり、「ガール初舞踏」だとガールは英語だから「girl hatsu butou」になるのかーなどと迷いつつ、これを50曲近く記入し。そこに先ほどアナログ方式で入手した番号を記入し、発売日情報や品番、JASRAC番号なども記入し。「14.8℃カマクラ」の収録曲はJASRAC登録していないのですが、mao時代にCD化した曲は概ね登録されており。JASRACのサイトでfishing with johnで検索して番号を調べたのですが、こうして番号が振られて管理されているのを見ると自分の曲が商品として市場に出されている実感が湧きますね。農家が自分の畑で作った野菜が農協を通してバーコードを振られスーパーに並ぶ感覚でしょうか。過去の発売日なども検索して調べたのですが、このアルバムのリリースからもうそんな月日が流れたのか〜などと感慨深くなったり、過去の作品と向き合う良い機会になりました。記入するのめっちゃ大変でしたけどね。

そしてアルバムの音源とジャケットのデータとエントリーシートを送り、ようやく手続き完了です。本当は1月末を予定していたのですがだいぶ遅れてしまいました。新譜「14.8℃カマクラ」のiTunes Storeでの販売と、「14.8℃カマクラ」「残響ピクニック」「鈍行ブックモービル」「林檎にタッチ」「猫書簡」のApple Music、Spotifyでのサブスク配信が3月11日に開始と相成りました。ぜひ世界のリスナーに聴いていただきたいものです。私は普段Apple musicを利用しているのですが、名前だけ知っていて聴いたことのない新しいアーティストの音源もすぐに聴けるし、「あ、久々にあれ聴いてみよう」と思ったものがすぐに聴けるのでめっちゃ便利なのです。ぜひここに自分の作品も載せたいと思っていたので本当に嬉しいです。「へーfwjの新譜出たのかー。でもCD買うほどでもなー」と思っていたそこのあなた。ぜひサブスクで新譜、旧譜共に聴いてみて下さい。そして興味持たれた方はぜひ音の良いCDを。かくたみほさん撮影の猫ジャケはインテリアとして飾れるし、かなりの文字数のライナーノーツも読めます。
molnで地味にCDも売れているのですが、新譜を聴いて興味を持った方が旧譜もオークションなどで入手して「ぜひこれにもサインを」と持参して来る機会が増えました。物にはサインが出来るから良いよなあとフィジカルの魅力も感じているこの頃です。本当はアナログ盤が一番好きなんですけどね。
面倒くさいサブスク登録作業が終わったと思ったらさらに面倒くさい確定申告が待っていると思うと憂鬱ですが、この世の物はたいてい面倒くさいで成り立っているのでそこと向き合うしかないのです。韓国ドラマでも見ながら3月を駆けようと思っています。f:id:fishingwithjohn:20210302090229j:image
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「14.8℃カマクラ」ミルブックス藤原康二さんからのコメント

fishing with johnの新譜「14.8℃カマクラ」に向けて色々な方からコメントをいただいておりますが、今回はミルブックス藤原さんがインスタグラムに書いてくれた感想をご紹介したいと思います。(感想をここに掲載しても良いよと許可をもらいました。)

藤原さんとは近年落語をよく見に行く仲で、「こんな良い公演がありますよ」「春風亭一之輔のチケット取れましたよ」とかちょこちょこ誘ってくれるので、毎回我々夫婦と藤原さんと藤原さんの知り合いの方など3,4人で落語を見ては食事をするというふわっとした落語サークルみたいな感じになっていたのですが、それもコロナの影響でぱったりと機会がなくなってしまったのが残念でなりません。落語を見終わった後に藤原さんによるネタの解説など聞きながら酒を飲むという時間が小粋でとても心地良いのです。コロナで失われた豊かな時間のひとつと言えるでしょう。落語だけにコロナも早くオチ着くと良いのですが。
藤原さんはご存知ひとりでミルブックスという出版社を運営しており、年に数冊というペースで良書を生み出しているわけですが、考えてみたら私もカマクラ張子として2年前に独立してひとりで運営しているし、fwjもソロユニットとして基本ひとりで活動しているわけです。ひとりで物を作るというのは自分の思想とか情熱とかセンスや力量などすべて注ぎ込むということで、結局アーティストなるものは根本には自分の身ひとつだなと思うのです。ひとりゆえ責任も全て自分で負うわけで、覚悟を持って仕事をしなければならないわけですが、藤原さんの仕事を見ていると同じひとり仕事人としてとても刺激を受けるし、共感もするし尊敬の念を抱くのです。藤原さんは編集という立場なので、筆者の個性を上手に立てて引き出すという立場なわけですが、ミルブックスのラインナップを見ているとどこか共通したカラーが見えるし、しなやかな強さも感じます。それが藤原さんの個性なのでしょう。かといってミルブックスの本はどれも我の強さを感じさせないし、むしろ手に取る人に寄り添った優しさを感じるのです。本の値段を抑えるためにこういう工夫をしたとか、印刷所と掛け合ってこの方式にしてみたとか、こういう宣伝を仕掛けてみたとかよく食事の際に裏話を聞くのですが、自分も物作りに於いてそうしたアプローチをしてみようとか、個人的にヒントをもらったりしています。私の「世界一猫が好きな張子作家」というキャッチも藤原さんに付けてもらいました。(実際そうなので間違いではないのです。)
去年コロナの影響もあり自宅で映画をたくさん見たのですが、ジム・ジャームッシュ監督の「パターソン」という作品が一番印象に残りました。郊外の街でバス運転手として働く主人公の何てことのない日常を綴った作品なのですが、妻と食事したり仕事でバスで街を走り回ったり犬の散歩をしたりバーでビールを飲んだりする傍ら、ノートに自作の詩を書き綴るのです。詩を発表して承認されたいとか、これで名を上げてやるとかの野心ではなく、誰に見せるでもなく美しい言葉を探し詩を書く毎日。私はここにアートの本質や豊かさがあるような気がして、映像の美しさも相まってとても感動しました。そしてfsihing with johnの音楽はパターソンが詩を綴る日常でささやかに鳴っていて欲しいと思いました。そういう音楽を愛でてくれる人が世界にたくさんいるとも思っています。またパターソンみたいな人が手に取るのがミルブックスの本なのではないかと思ったりもします。
molnのお客さんが関心を持ってくれて、ぽつぽつCDもお買い上げいただいているのですが、中には「とても良くて毎日のように聴いています!」とか熱い感想をくれる方もいて、おそらく音楽に詳しいわけでもないであろう人にこんなジャンル分けしずらい歌詞のない音楽が響くこともあるのかと思うと嬉しくなります。詩を褒められたパターソンのような気持ちです。そういえばパターソンが詩を書き留めた紙を愛犬がくしゃくしゃに破いてしまったくだりは自分が録音したデータがパソコンの故障で消失した時の気持ちと重なり、そのやるせなさが伝わりました(笑)。
また落語を見に行く豊かな時間が戻れば良いなと思っています。

 

 

美味しいコーヒーや紅茶みたいな音楽だと思いました。
なかなかやめられない人も多く、それで身を滅ぼしてしまう人もいるお酒のような中毒性はない。
水のように生きていくために絶対に必要でもない。
だけど、毎日のように飲んでいる、コーヒーや紅茶。
きっと、なくても生きていけるけれど、それがあることで毎日がちょっとだけ楽しくなる。毎日聴き続けられる。そんなアルバムだと思います。


ミルブックスが作っている本とどこか似ているのかもしれない。


最近忙しくて、音楽なんてゆっくり聴いてないなって人におすすめしたいです。聴いて何かが変わるわけではないけど、日々が豊かになる音楽です。

藤原康二(ミルブックス)

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