空間に鳴る心

そんなわけで昨日今日とギャラリー猫町で実演して来たのですが、
谷中の閑静な住宅街にある隠れ家的な空間に
ぽつねんとひとり居て猫の絵付けなどしていると
どこか遠くの地に旅に来たかのような、
異空間にひとり放り込まれたような、
何だか不思議な感覚に見舞われたりしたのですが、
空間とは不思議なものだなと思ったりしましたよ。
やってることはいつもと同じなんですが。
いつもと異なる作業のようにも思えるのですね。


ギャラリー内では一日中fwjのCDをかけているのですが、
私は普段自分のCDを全然聞かないので
それこそ2年振りくらいに自分のアルバムをフルで聞き直し、
「11月の秘密」や「汀のリップシング」などの
哀愁のメロディーに何だかふと虚を衝かれたように、
特に何をするでもなく至ってしまった
日曜日の夕方5時半の如き感傷に見舞われてしまったのですが、
ああいうメロの明確な曲ってギャラリーのような空間で
微音で聞いているとふっと耳に刺さって来るのですよね。
きちんとした環境で聞くと「あの低音もっと強めで良かったかも」とか
「あのリバーブかけ過ぎだったかも」などと
細部が気になってしまいがちなんですが。
ぼんやりと全体を聞いてると強いポイントだけが
浮き上がって聞こえ、曲の印象として立ち上がって来るのです。
自分の作った曲に心打たれてちゃ世話ないよという話ですが、
こういう音楽が鳴るに相応しい空間や時間て
実はもっとたくさんあるんじゃないかと思ったりしました。
改めてもっと色んな人に広く聞いてほしいなと思ったりしましたね。
取りあえず「残ピク」の相場が普通に戻ると良いんですけども。


谷中の街全体もどことなく独特な雰囲気で、
それこそ散策してみても面白いかもと思ったのですが、
いかんせん寒いし、帰る頃にはもう夜なので、
取りあえずギャラリー近くにある「乱歩」なる名の喫茶店に入り、
これを散策代わりとしたのですが
(全然散策してないじゃんという話ですが)、
「乱歩」というからには「明智小五郎コーヒー」や
怪人二十面相チーズケーキ」や
人間椅子カレー」といった乱歩なメニューがあるかと思いきや
メニュー的にはごく普通の純喫茶だったので、
私はそこで取りあえずブレンドを頼み、
折角なので(?)明智小五郎風にそれを飲むに至ったのでした。
どんな飲み方なんだそれはって話ですけども。
しかし空間とは不思議なものでコーヒーの味の印象も
店内の雰囲気だけでも異なって感じられるのですね。
何か乱歩風な味にも思えるし。
そもそもそういうのが喫茶店の魅力というものですけどね。


何かいつもコーヒーはブラックで飲んでいるので
たまには砂糖でも入れてみるかと思い、
砂糖を入れてひとりでスプーンでかちゃかちゃかき混ぜていたら、
どこか遠くの地に旅に来たかのような、
異空間にひとり放り込まれたような、
何だか不思議な印象を覚え、
私は特に何をするでもなく至ってしまった
日曜日の夕方5時半の如き感傷に見舞われてしまったのですが、
こういう瞬間の心の機微を音楽にするべく
自分はギターとか弾いてるのかもしれない、
なんて思ったりしたのでした。