私、あしたのジョーを鑑賞し

先日、実写版あしたのジョーを見て来ました。
あしたのジョーファン歴、ジョーグッズコレクター歴20年余の私としては
実写化なんて代物も見ずにはおられぬわけです。
さらにちば先生ご本人も絶賛とあっては。
けなすにしろ褒めるにせよ見ないことには始まりません。
で、見終わった感想をざっくりひと言でいうと
「良く出来ている」という印象で、
まあそりゃ色々微妙に思うところもありましたが、
これだけの名作をここまで再現出来たのは大したものだと認めざるを得ません。
何しろ役者陣が好演しておりました。
これからネタばれしまくりで感想書きますので、
映画を見る前に内容を知りたくない方はお気を付け下さい。
結末まで書いてしまいますので。



主演の山下くんですが、まだ若いし野性味というか表情に深みが足りないきらいもありますが、
あの佇まいと綺麗な顔立ちと低く静かな喋り方はジョーの雰囲気にハマっていたように思います。
ジョー役がジャニーズなんてという批判の声もあるようですが、
アニメの声優のあおい輝彦だって元ジャニーズですからね。
山下くんの声のトーンは割とあおい輝彦に近いので良かったように思います。
ほぼコスプレな衣装もジョーはあの格好がトレードマークだし、
あそこは外せないですよね。
キャスケットが何だか膨らんでるのが気になりましたが(笑)。
力石役の伊勢谷氏はあんたロバート・デニーロかってくらいの渾身の役作りで、
もう力石そのものでしたね。
彼がいたからこの作品成功に至っているという印象です。
計量のシーンとかCGなのかと思ったら本当に絶食して撮影に臨んだそうで。
鍛えられた体もそうですが、最後の試合の鬼気迫る表情とか見事でしたね。
表情に説得力があるので割と急ぎ足に過ぎるストーリー展開でも
2人が宿命のライバルであるという関係性は伝わって来たように思います。
あと段平役の香川氏もコスプレというか漫画そのまんまな格好でしたが、
熱い確かな演技力でそれが気にならないし、
ボクシングの身のこなしもサマになっていて段平そのものに見えましたね。
(実際ボクシングマニアなんだそうですね)
この人と力石のキャスティングでほぼ成功したと言っても過言ではないですね。
ジョーに葉書を書く際に鉛筆をなめていたところなど細かい演技が良かったです。
おにぎり握るシーンも出来れば欲しかったですけどね。
あとマンモス西役の人も好演していたように思います。
西といえば「鼻からうどん」ですが、そこはきちんと押さえようと思ったのか
少年院のくだりで無理矢理鼻からうどんシーンを入れておりましたが、
出来れば本来の形で鼻からうどんシーンを見たかったですね。
まあ時間に制限もあるし西のエピソードはカットせざるを得なかったんでしょうが。
葉子役の加里奈さんはというと主演3人に比べると物足りなかったというか、
今回の設定自身に於いても葉子の扱いについてはちと疑問でしたね。
今回なぜか葉子が実はドヤ街出身で、
己の出生を忌み嫌うが余りドヤ街を壊そうと目論んでいるという
原作に馴染みのある人間からすれば違和感のある設定なんですが、
生まれがドヤ街というわけではなく途中でドヤ街に捨てられたみたいな設定で、
その割に今は白木家でお金持ちとして暮らしている経緯がわからないし、
そこは微妙に飲み込めなかったですね。
ジョーにパンチを繰り出したり土下座したりという行動もよくわからないし。
まあ原作に於いてもちば先生が葉子という梶原キャラを理解出来ず、
よくわからないまま描いてたきらいがあるので、
葉子のよくわかんない感じはこれはこれで良いのかと思ったりもしましたが。
しかし加里奈さんの表情が時たまひどくおばさんに見えるし、
驚いた顔が白痴っぽく見える瞬間もあったりで。
何となく気にはなった次第です。
原作にはない部分で良かったのは子供たちのメタファーとしての紙飛行機と
ドヤ街の人々のそれであるタンポポの存在ですかね。
こういうちば先生の資質に近い演出はとても良かったように思います。
ジムに神棚があるというのもなるほどという感じで。
林家がなかったのは残念ですが、代わりに食堂を設定に加えたのはなるほどという感じでしたね。
ドヤ街の美術もかなり細部まで作り込まれていて泪橋もきちんと作ってあったのが凄かったです。
やはり実写となれば泪橋を見たいですからね。
橋の上での泪橋を逆に渡れという台詞はやはりぐっと来ましたね。
そこは外せないよなという感じで。
意味ありげに出て来た倍賞美津子さんは原作のファンだったので出してもらったそうですが、
それって松尾スズキのドラマに「きみのドラマに出たいんだけど」と電話して出演に至った
忌野清志郎みたいなもんなんですかね。
必要ないっちゃあ必要ないキャスティングですが。
杉本哲太氏はゴロマキ権藤役なのかと思ったら単なるヤクザの兄貴分だったんですね。
ああいう巧い役者を配置したのは良かったですけどね。
出来ればゴロマキ権藤とか青山とか、紀ちゃんとかの脇役も見たかった気はしますね。
紀ちゃんは話がぶれるのであえてカットしたんでしょうが。
子供たちに関してはサチ役の子がなかなか可愛くて良かったですね。
紙飛行機というつながりが効いていたと思います。
私が改めて名シーンだなあと落涙に至ったのはやはり力石の減量シーンで。
喉の渇きに耐え切れずにドアを蹴破って水飲み場に行くけど針金で固定されてるくだりで。
渇いた体にいきなり冷たい水は毒だからと葉子に白湯を差し出されるんですが、
それを飲まずにこぼすんですよね。
こぼすんだよなあ、力石は、としみじみ泣けましたね、見てて。
しかしあそこは屈指の名シーンなのであえて出来れば原作通りの台詞にして欲しかったですね。
原作では葉子が「ここに白湯があります」とそれが白湯であることを言うんですが、
映画では言わないんですよね。
言わないと水道に針金を巻いた理由がわからないと思うし、白湯という単語はやはり出さないと。
私は白湯を飲む度に「ああ、力石はこれが飲めなかったんだな」としみじみするんですが、
その白湯のしみじみがあれでは伝わらないと思うんですよね。
あと「元の溌剌とした力石くんに戻るのよ」という台詞も一字一句同じにしないとあそこは。
あと原作ではあのシーンの力石は片方靴をはいて片方は裸足という描写がされているんですが、
映画では両方裸足でしたね。
いつも服装がしっかりしている力石が取り乱す様としてちば先生が描いた
ちぐはぐな足下という演出を出来れば再現して欲しかったように思います。
でもまあ伊勢谷氏の演技は素晴らしかったですけどね。
全体エピソードをだいぶ端折りながらの展開でしたが、
ウルフ戦をきちんと描いたのは良かったと思います。
あそこでトリプルクロスを出さないと力石戦での攻防の内容がわからなくなりますしね。
余談ですがアニメ版あしたのジョー2のエピソードで
ウルフがジョーに金を借りに来てジョーが快く貸すんですが
そのままウルフが行方をくらまして彼の恋人が謝りに来るくだりがあって
「俺はウルフを信じてるからいいんだ」みたいなことをジョーが言うシーンが印象的なんですが、
(結局最後の方でちゃんと返しに来ますけどね)
ゴロマキ権藤にアゴを割られるシーンといい、
ウルフの人間味溢れるキャラは良いよなあとしみじみ思ったりする次第です。
梶原キャラ独特の哀愁を感じるというか。
まあ映画では単なる強い敵のボクサーという単一的な描き方でしたけどね。
ボクシングシーンは98%が本物で2%がCGなんだそうですが、
なかなか迫力ある描き方で良かったように思います。
力石との試合は後半ノーガードで動きがなくなるのでどうなるかと思いましたが
程よいところで決着付けてましたね。
しかし「右のダブルクロスで勝負」という有名なジョーの台詞をカットしてましたが、
(それ以外にも基本ジョーの試合中のモノローグは入れてませんでしたね)
あれなくて初めて見る人は勝負の内容がわかったんでしょうかね。
私は全部のシーンを知ってるので台詞を補完しながら見ていましたが。
ぶれるのであえて試合の主観を客と段平サイドに統一させていたんでしょうけどね。
ウルフ戦でのトリプルクロスのタイミングをはかっていたというくだりも
映画ではジョーの本能で勝っちゃったみたいになっていましたが。
あそこら辺本当は訓練を積んで勝ったんだけどなあと教えてあげたい思いに駆られました(笑)。
しかし試合中の力石の半分死相が出ている表情は良かったですね。
後頭部を打って死に至るところとか、最後の握手がすれ違いになるくだりも
丁寧な描き方で良かったように思います。
ジョーが段平(『おっちゃん』じゃなくて正確に『おっつぁん』と呼んでいたのは良かったですね)に
ありがとうと言うくだりも泣かせましたね。
しかし真っ白に燃え尽きる発言を出しちゃうのかと思ったら映画内では出しませんでしたね。
最初の台本にはあったらしいですが、ちば先生が「ここでは出すべきではない」と忠告したそうで。
まあその発言出るの紀ちゃんとのデートシーンなのでずっと後ですしね。
その代わりの感謝の言葉だったと思うんですが、あれはなかなか良い台詞だったと思います。
力石の死んだ控え室の人物の配置が漫画でのそれをそのまま踏襲していて、
そこはぐっと来ましたね。
葉子のしなだれ具合も漫画そのままで。
原作でのジョーのうおおおおおおという叫びはさすがに再現出来てなかったですけどね。
これで映画自体をどうやって終わらせるのかと思ったら1年放浪して戻って来るという、
アニメ版ジョー2のオープニングを踏襲してましたね。
結果「あした」を感じさせるエンディングで良い終わり方だったと思います。
最後終わるまでが若干長かったようにも思いましたが。
しかし主題歌の宇多田ヒカルという人選はどこをどうなったらそうなるんでしょうかね。
どういう大人の話し合いが成されたんでしょうか。
宇多田ヒカルの要素ありましたかね、ここまで見て来て。
これを聞くとしみじみおぼたけしの「美しき狼たち」が名曲であると再認識させられますね。
あとジョー山中の「明日への叫び」と荒木一郎の「傷だらけの栄光」ですよ。
元祖寺山修司のテーマ曲はやはり外さなかったのはえらいですけどね。


長々と書いてしまいましたがジョーのわかる方と飲みに行きたい衝動に駆られますね(笑)。
何よりも私はあしたのジョーの話そのものが大好きなので
見ていて改めてその時代を超える作品そのものの強度に感動してしまった次第です。
映画云々というよりあしたのジョー自体が途轍もない名作であるという再認識に至りました。
それを確認出来ただけでも映画化は良いきっかけであったように思います。
興味ある方はぜひ劇場へ足をお運び下さい。
取りあえず私はアニメ版あしたのジョー2を見直したい気持ちを抑えられずにいます。
こんな私のあしたはどっちなんでしょうか。
果たして。