Gトーク

先日、マイブラを見に行く前にちょっとしたバー
(昼はカフェで夜はアルコール出す系の店)に立ち寄ったんですが、
そこでハイボールなんぞちびちび飲んでいたら
ふと隣のスーツ着たサラリーマン風のおじさんの背中に何やら違和感を抱きまして。
おやと思ってよく見たら何とおじさんの背中に害虫Gが乗っているのですよね。
あの台所によく出没するでお馴染みの。
人類が誕生する前から地球に居るでお馴染みの。
スプレーかけるとささささ!と冷蔵庫の下に逃げ込むあの黒い戦士です。
そのGがおじさんの背中を悠々と這っているのです。
その悠々さと言ったらあなた。
それはもう文豪が次作のアイデアを練りながら森を散歩をしているかのような厳格さと優雅さで。
私は一瞬意味がわからず、おじさんの余りの動じなさにこのおじさんはGを飼っているか何かで、
我が背中を散歩コースとして提供しているのかしら、
今日はペットとバーで一服洒落込んでいるのかしらと思ったのですが、
飲食店でそんな非常識なことはしないはずですし。
(まあ飲食店以外でもGを持ち歩く趣味は常識の範疇から外れますが)
どうやらおじさんは己が背中に黒い戦士が居て、
文字通り羽根を休めている事態に気が付いていないようなのですね。
スーツの生地が分厚いから感触が伝わらないのでしょうか。
戦士の休息の舞台になっているとはつゆ知らずハイボールなんど暢気に飲んでいるのです。
私は「8時だョ!全員集合」のコントのある場面を思い出し、
「志村、うしろ〜、うしろ〜!」とブラウン管に向かって叫び
志村の身に襲いかかる惨劇を阻止しようと叫んだ幼少時代の記憶を甦らせ、
「おじさん、せなか〜、せなか〜!」と心の中で叫びつつ、
次にGが跳び、私の背中へと散歩コースを変更する事態を是が非でも避けたい思いで
Gよ、今すぐマッハのスピードで天に召されてくれ、
或いは醜い毛虫が美しい羽根を持った蝶へと変身するかの如く
その黒いおぞましい姿を美しい何かに変えてくれないか、
奇跡よ起こってくれ!と、
神か仏かそれっぽい存在に祈ったりしたのですが、
Gはその後おじさんの背中からお尻の方へ移動し、
何とスーツの内側へ入り込もうとしているではありませんか!
ひええ〜と思わず声が出そうになったところでなぜかGは床に落下し、
仰向けになったまま動かなくなり。
おやどうしたのだと観察するとどうやら本当に天に召されたようなのですよね。
突然息絶えた感じなのです。
考えるにこういう飲食店では勿論バルサンなど炊いているだろうし、
ひょっとしたら店側による害虫攻撃にたまたま生き残った強豪がたまたま天井からおじさんの背中に落ち、
たまたま背中がしばしの散歩コースになっていただけなのかもしれません。
その後事態に気が付いた店員さんが忍びの者の如き様相で近付きこっそりと死骸を片付け、
「失礼致しました!」と一部始終を見ていた我々に声を掛けたのですが、
本当に声を掛けなければならなかったのは当のおじさんであり、
勘定をサービスにしてもバチが当たらないくらいだったのですが、
まさかおじさんに「あなたの背中をGが這ってて内側に入ろうとしてましたよ」とは口が裂けても言えません。
そして店員さんに「このおじさんにGサービスでもしたら如何か」とも言えません。
(当のおじさんはこの騒ぎには全く気が付いていないのです!)
これは内緒にしておくのがおじさんのためだと
その後すぐに何も言わずに店を出たのですが
(その後流石におわかりをする勇気は出ませんでした)、
帰り際ふと振り返るとおじさんはポテトフライをむしゃむしゃ喰らい、
ハイボールをぐびぐび飲んでおり。
スーツを着込んだその姿は働くおじさんのまさに戦士の休息といった様相で。
あなたは今戦士の羽根を休めているところでしょうが、
あなたの背中でもさっきまで黒い戦士が羽を休めていたんですよ、と
心の中で声を掛けながらバーを出てマイブラのライブに向かったのです。
このバーにはもう二度と来ないだろうなあなどと思いながら。
こうして店は顧客を失うのですね。
恐ろしい存在です。
Gという奴は。
あのおじさんはあのスーツを着て大事な会議に臨んだり、
部下と飲みに行って説教かましたりするのでしょうか。
あのGがさんざ這ったスーツを着て。
世の中にそんな哀しいことがあるのでしょうか。
そんな不幸が今後起こらないよう強く祈りを捧げたく思った私です。
神や仏やそれっぽい存在に。