星降る街から

先日は王子北とぴあプラネタリウムホールにて行われた山田稔明ライブ
「夜の科学extra〜星空ナイトスイミング」に
夜の科学オーケストラの一員として参加させていただき。
満天の星空の下で演奏させていただきました。
全国各地からたくさんのお客さんにお集まりいただき本当にありがとうございました。
チケットも即完だったそうで。
お客さんにとってもですが、我々演者にとっても特別な一夜になりました。


今回は残念ながら欠席となったベースのエビちゃんに代わりKIRINJIの千ヶ崎さんが初参加とのことで、
事前にリハも2回に渡り入念に行いまして。
みなさんそれぞれ機材が多いので全員で協力して搬入搬出するんですが、
毎回プチ引越しみたいな様相を呈するのですよね。
大きなキーボードやらアンプやらスピーカーやらをせっせと持ち運んで。
それが本番ではさらにPA機材も追加されるのでより引越し度が増すわけです。
そんなわけで当日は昼過ぎに会場入りし、
今回PAを担当していただいた古賀さんやスタッフさんやメンバー総勢で全機材を運びこむ作業から始まりまして。
言わば山田引越しセンターの稼働です。
それがまた6階会場へ搬入するのに地下の駐車場から一度業務用エレベーターで7階へ上がってから
改めて客用エレベーターで6階へ下りるという、
スパイ大作戦かこれ、というようなややこしい手順を踏まねばならず。
(また業務用と客用エレベーターが離れてるんですよね)
しかし一行はそんな手順にもめげず粛々と任務を遂行し機材を運び。
そのプロフェッショナルぶりに私は思わず
「やーまーだーひっこしーセンターへ〜」と社のテーマソングを口ずさんでしまったほどです。
(心の中で。)
そんなセンター総勢で会場のプラネタリウムに運び込んだ機材を今度はせっせと組む作業があり。
組んだら音が鳴るようにセッティングする作業あり。
結局実際に音を鳴らし始めたのが15時過ぎだったんですが、
その頃には一同お腹も減るとのことでスタッフさんに買い出しをお願いし。
山田氏からは「センスでよろしく!」と、買い出しを頼まれた後輩が先輩から言われて一番困る台詞が放たれ、
イトケンさんからは「チョコよろしく!」とリクエストがあり、
果たして買って来ていただいた食料はおにぎりやサンドやお菓子などナイスセンスな物ばかりで、
充実したケータリングとなり。
イトケンさんが早速それを椅子の上に広げ「店開きました〜」と告げると一同わらわらと群がり、
それをつまみながらリハに勤しみまして。
山田氏も「俺バナナ持って来た!」と告げると一同わらわらと群がりバナナを食べるなどし。
その後結局ご飯を食べる時間がなく、リハの合間につまんだ食料で本番に臨むことになったので
確かに買い出しセンスは重要だなと思った次第です。
(リハから歌いっぱなしの山田氏の体力の源がバナナだと思うとバナナの威力侮れないですね)
果たしてセッティングされたステージ上にはメンバー7人が点々と並び。
(オリオン座をイメージしたそうです)
山田氏は高野寛さんやスミスや大瀧詠一さんの曲などをウォームアップで歌い。
彼の足元に敷いた絨毯が結界のようであり、夜空を舞う魔法の絨毯のようでもあり。
足元のライトに光る惑星のひとつのようでもあり印象的でありました。
バンドはそれから全曲の通しリハを行い、さらに会場入りのリハやナレーションのリハ、
照明の打ち合わせ(今回はこれがキモなので)、
PAの調整などをみっちりやってたらいつの間にか開場5分前となっており。
急いで荷物片付けて!と、わらわらと準備してるうちに開場し、いよいよ本番を迎えまして。
(いつの間にか来ていたミルブックス藤原さんが会場準備をしてくれました)


今回はエビちゃんが事前に録音したナレーションを開演前に流すという山田氏の粋な計らいがあり、
会場にも柔らかな笑いが起こり。
「可愛いと思われようとしているな」
「若干甘噛みしてるな」などと不在なのにメンバーにいじられているエビちゃんという(笑)。
そして星空の下、メンバーが定位置に着き、開演と相成りまして。
今回は山田氏の朗読を挟みながらの演奏で、曲も歌詞に星が出てくるものが多く、
ステージが進むにつれて夜へ夜へと深く入り込むような演出で、
まるで頭上に広がる星の灯りが音の響きのひとつとして聞こえて来るようでしたね。
私は朗読の間に何度か星を見上げながら、小学生の頃毎晩星座を定点観測していた時の気分とか、
帰り道にわけもなく星を見ながら泣きそうになって走って帰った時の気分など思い出し、
山田氏が子供の頃書いたポエムが元になったという「夜のカーテン」では
ゆらゆらと静かに会場に下りるカーテンのこちら側で少年であった自分と再会した気分にもなったのですが、
星を見て子供の頃を思い出すというのは大人になってからあまり熱心に星を見ていない証でもあるわけだなとふと一抹の寂しさも感じた次第です。
基本譜面灯で手元が明るい状態でステージが進んでたんですが、
途中山田氏が「一回真っ暗にしてみましょう」と告げ、譜面灯も全て消灯するくだりがあり。
会場全体が深い闇に包まれると「おお〜」と小さいどよめきが起き。
大勢の人と暗闇を共有するというのは秘密を共有するようでもあり、
何か不思議な連帯を感じるものですね。
井戸の底に入り込むようであり、押し入れの奥に隠れるようであり。
タップの光など普段は気にしない少しの光でも存在感を感じるのですよね。
闇に浸るとより光が際立つのだなと実感した次第です。
途中の朗読では原発に触れるくだりなんかもあり、
そういえば我々は大人になってから計画停電という暗闇に包まれた経験があるんだったと思い出し、
あの時もこんな星空の下で大勢で不安な夜を共有したんだったなと、
3年前の気分を思い出したりもしました。
そんな暗闇と星明かりの世界に真里さんのピアノと上野さんのフルートが実に相性が良く、
幻想的な響きが美しかったですね。
ライブタイトルにもなった「月あかりのナイトスイミング」はハイライトになったんじゃないかと思います。
今回ピアノと歌で始まる曲が多く、歌い出しは2人で息を合わせないといけないんですが、
何しろ暗くて目配せが出来ないわけです。
「上野さんが立ってると山田くんの顔が見えない〜」とこぼす真里さんに
上野さんが恐縮して後ろに下がる場面などあったんですが(笑)、
それでも暗くて顔が見えないと困っていたところ、
イトケンさんが「合図にブレス入れたら?」と提案し。
ライブ終盤で披露された「星降る街」のイントロでは歌い出しに山田氏がすっ、とひと呼吸を入れて歌い出し、タイミングはばっちりでしたね。
幼少の頃声優としてトッポジージョの声をしていたという経歴を持つ真里さんの可憐なピアノと歌が暗闇に鳴り響く中、頭上を見上げれば満天の星空で。
私は「あーもうライブも終わっちゃうのか」と寂しくなり、
ぐっと込み上げてくる感情を抑えつつ、静かにアルペジオを奏でました。
この曲中では本当に星が降る演出があったようですね。
(プラネタリウムで星を操作する係の方の名前が星さんという嘘みたいな話もライブに花を添えた気がします)
そうこうしてるうちにライブも無事終演を迎えまして。
何しろあっという間でしたね。
楽しい時間はすぐに過ぎてしまうものです。
この日は会場を21時完全撤収せねばならなかったんですが、ふと時計を見れば残り30分で。
今さっき演奏を終えたばかりのメンバーとスタッフはすぐに会場に戻り片付けに入り、
客席にいた巣巣岩崎さんや高橋久美子さんや高橋徹也氏なども急きょ山田引越しセンターに一員として撤収作業に加わり。
大人数入り乱れての怒涛の引越し作業と相成りました。
私は真里さんと2人で台車を地下に運んだんですが、途中7階の業務用エレベーターの場所がどこかわからなくなるというトラブルに見舞われ、
どこだ!エレベーターはどこだっ!と彷徨った挙句、真理さんが「あった〜」とトッポジージョの声で叫んだので、何とか機材を運び出すことが出来ました。
(単に2人とも方向音痴だった説が浮上しましたが)
その後再び現場に戻るとセンターの人たちの力で何と21時までに機材の撤収を終えており。
そのチームワークの良さに私は思わず
「やーまだーひっこしーセンターへ〜」と再び社のテーマソングを歌うに至った次第です。
(今度は口に出して。)


そんな怒濤の撤収を終え一同は近くの居酒屋に移動し、全体の打ち上げを行いました。
何しろビールが美味しかったですね。
ついぐびぐびと進んでしまいました。
打ち上げでは安宅さんと千ヶ崎さんの風貌が似過ぎてる!と話題になり、
「2人でユニット組みなよ」「ユニット名はチガータにしなよ」
「頭にラを付けてラ・チガータだな」と新ユニットが結成(?)されました。
そんなこんなで盛り上がり、夜も更けた頃にようやく家路に着きました。


帰り道に於いて空を見上げてみればビルのネオンに紛れてあまり星が見えず。
都会ではネオンの灯りが星の代わりになるのかしら、などとぼんやり思いながら、
「ほしーふるーまちーからー」と先ほど演奏した口ずさみながら、とぼとぼと帰りました。
闇と光を抱えながらこうして私たちは日々を歩いていくのでありましょう。
お客さんの中にもし闇を抱いている人がいたら、
ライブを見た後そこに一筋の光が差し込めば良いなあと思った次第です。