仙台ピリ辛ナイト

気が付けば10月なわけです。
え、今年も残り3ヶ月なのっ?と、
時の経過の早さに思わずカレンダーを二度見した次第です。
まあまだ3ヶ月あるという考え方で残りの時間をフル活用しないとなと、
軽く決意してみる次第ですが。
何しろ時間てやつはすぐに去ってしまうのです。
困ったものです。


先日は海外のバイヤーとの商談会に出席するため一泊二日で仙台に行って来たのですが、
仙台駅を降りるとパルコだのロフトだのH&Mだのブックオフだの見覚えのあるショップばかりで、
地方都市の景観の均一化は安定のクオリティであるなと実感させられますね。
折角ならば地元ならではの店を訪ねたいものだと街をぶらついてみたりしたのですが、
商店街なんかも東京や他の都市と似たようなチェーン店やコンビニばかりで。
私の街に対する感受性が鈍ったのか、街が面白くなくなってるのかどちらかはわかりませんが。
まあ仙台は新幹線の止まる駅だし、都会だから仕方ないのかもしれませんが。
それでも道の奥や横をずんずん歩き、ようやく地元の人御用達の市場を覗いたり、
細く入り組んだ飲み屋街をぶらついたり、何とか雰囲気を味わいましたけどね。
私が以前仙台に赴いたのはもう15年程前で、
仙台からさらにローカル線に30分くらい乗った田舎の方のデパートでの職人展の仕事だったんですが、
季節がちょうど真冬だったので雪が凄く、吹雪く夜なんかもあり。
寒さに震えながら「俺この街には住めねえ〜」と思った覚えがあるのですが、
泊まってるホテルの1階がなぜか中古レコード屋で、
そこでフィッシュマンズの「空中キャンプ」のアナログを買ったのを鮮明に覚えています。
(この話前にも書いたような気がしますが)
空中キャンプのアナログ盤を見る度に雪に埋もれた仙台の風景を思い出すのです。


しかし仙台駅周辺はやはり都会なのであり、あの時のような雪の田舎町といった風情はなく。
(まあ季節も秋ですし)
スターバックスだのユニクロだのの東京と変わらぬ看板を眺めながら歩き、
その後調べて訪ねた中古レコード屋で古本を1冊購入したりなどしたのですが、
ここもまあ値段なども相場だし、セレクトも東京とさほど変わらないわけです。
何かこう仙台ならではの出会いみたいなのが一発欲しいなと思い、
「仙台 大衆酒場」で検索し、安くて雰囲気の良さそうな店を見付けたので、
よし今宵はこの店で「五十嵐酒場放浪記」を展開し、
吉田類ばりに酒場詩人ぶりを発揮し仙台をポエジーに彩ろうじゃないかと来店に至ったのですが、
その店、いざ入ってみるとカウンターだけの小さな店内で雰囲気は良かったんですが、
私以外明らかに常連さんばかりで何だかアウェイ感が凄いのですよね。
知らない人が迷い込んで来た感があり。
おばあちゃんがカウンターを切り盛りしてるんですが、
私が「ビール」と頼んでも「え?」と聞き返され、
「モツ煮下さい」と頼んでも「え?」といちいち聞き返され、
私の声が小さいのかおばあちゃんの耳が遠いのか、
それとも五十嵐の注文を一度跳ね返す会の会員による妨害行為なのかはわかりませんが、
何しろ一発で通らないのです。
そこでもうだいぶ私も萎縮してしまってるわけです。
でまた最初に頼んだモツ煮が予想よりも5割り増しのピリ辛で、
ビールが進むのは良いとしても口に辛いという感覚しか残らず辛いのです。
辛くて辛いのです(からくてつらいのです)。
これは辛いから口が爽やかになるものを頼もうと思い、
「やっこ下さい!」と今度は少し大きめな声でおばあちゃんに告げると
今度は「え?酒?」と聞き返して来るのであり、通らないのです。
はて、なぜ「YAKKO」が「SAKE」に聞こえるんだい?
一文字も合ってないし韻も踏んでないし、
どういう空気振動を経るとそのような言葉として認識されるんだい?
ホワイ?教えておじいさん(おばあさんだけど)、教えてアルムのもみの木よ〜と、
思わずハイジの主題歌が口をついたのですが、
「いや、やっこです!!やっこ!!」と、
私は人生に於いて史上最も大声で「YAKKO」という単語を発声し、
何とかやっこが手元に来るに至ったのですが、
このやっこがまた予想の7割り増しでピリ辛なのです。
この上にかかってるピリ辛のタレいらない!下のまっさらな豆腐だけで良いの!
あなたの厚化粧も派手なドレスもいらない!素顔のあなたが欲しいの!
目を覚まして!素顔のあなたが一番美しいの!と、
心のうちに訴えた私ですがやっこさんはピリ辛ドレスをびっしりまとっているのだから仕方ありません。
素朴で清楚だった彼女も都会に出て派手なドレスに濃いメイクで夜の女になってしまったのです。
あのまっさらな豆腐がピリ辛のタレで汚されてしまったのです。
何と哀しい都会の夜のワンシーンでしょうか。
そんなピリ辛の2品をビールで何とか流し込むような感じになり、
ポエジーも何もあったもんじゃありません。
「店のセレクト間違えたな」と私は食べログなどという俗な情報サイトを頼りにした己を恥じ、
坂上忍が物件を探すという番組を映し続けるテレビをぼんやり眺め、
2杯目のビールでほろ酔いになり(ピリ辛過ぎて1杯ではおさまり切らず)、
夜の女にしてやられたな、などと思いながら店を後にし、
そのまままっすぐ宿に帰るに至ったのです。
仙台ピリ辛の夜です。


次の日の商談会の様子も書こうと思ったんですが、
ここまでのピリ辛話がだいぶ長くなってしまったので、
それはまた別な機会に書こうと思います。
ぜひとも仙台の酒場リベンジを試みたいものですが。
その機会は再び訪れるのでしょうか。
果たして。