農作業RPG

先日の大雨による影響は春日部の方でも大きく、あちこちで道路が冠水し電車も止まり、様子を見に行こうにも行けない状況だったんですが、聞くと実家や店の周りにも水が膝くらいまで溢れ、床上浸水はあと数センチのところでで免れたものの外にあった室外機や自動販売機などが死亡に至り、自然災害のおそろしさを実感した次第です。水が引いた数日後に行って掃除をしたのですが、道路は泥の色になっており、ここらがまるで池のように水で溢れていた様子を想像し改めてぞっとした次第です。みなさまの住まわれている地域は無事だったのでしょうか。果たして。
鬼怒川決壊により茨城県常総市が甚大な被害を受けたというニュースが連日報道されておりましたが、知り合いのお米農家の山崎さんの田んぼがまさに常総市にあり、刈り取ってない3分の2の稲を残したまま冠水してしまい(水位が170センチもあったとのことで大人用プールの中にすっぽり田んぼが沈んでるような感じでしょうか)、復旧作業に人手が必要とのことで先日妻と鎌倉在住の馬酔木さん夫妻と鎌倉チーム4人で参加して来ました。
といっても車を持っていない我々は電車で行くしかなく、初めてとなるつくばエクスプレスに乗り込み、着替えや長靴やタオルなどぎゅうぎゅうに詰め込まれたリュックを背負い半ば遠足のような様相でつくば駅まで行き。同じく手伝いに行くというFさん(この日初対面だったんですが)に駅で拾っていただき、そこから車で向かいまして。
車内から初めて見るつくばの街並は自衛隊や警察の車両や復旧作業に向かうトラックなどが道路を行き交い、空には報道や自衛隊のヘリが飛び、被災地の様相でしたね。ガードレールが軒並み超能力者に曲げられたスプーンの如くグニャリと倒されており、もの凄い水威だったことを思わせ。そんな光景を見ながら駅から1時間ほど走り、グーグルマップによると田んぼはこの辺というところまで来たものの、この一帯は一般人は立ち入り禁止になっており。信号も復旧しておらず行きたい道が通行止めになっているという状況で。コーンの前に立ちふさがる警備員さんに「農家の田んぼの手伝いで通りたいんですけど」と聞くも「いや通行止めになってるんで駄目ですね」と返され、「いやすぐそこなんですけどね。先にもう農家の人通ってるんですけど」「いや私が怒られちゃうんで」「いやでも通りたいんで」などと問答してるうちにも後ろから横から車が来て「通れます?」みたいな問い合わせが相次ぎ面倒くさくなったのか「あー、すぐあそこの道を曲がって下さいね!」と通してくれて。その道をしばし走り目印の看板も見つかり、あそこだなと目的の田んぼも見つかったのですが、いざそこに至る道も封鎖されており。取りあえず交渉するかと警察の人に「農家の田んぼの手伝いで通りたいんですけど」と聞くも「いや通行止めになってるんで駄目ですね」と返され、「いやすぐそこなんですけどね」と言うと「あー今忙しいから警備員の人に聞いて!」とまさかの交渉を放棄され。仕方なく近くにいた女性警備員に「農家の田んぼの手伝いで通りたいんですけど」と聞くも「いや通行止めになってるんで駄目ですね」と返され(コピペ問答3回目)、ここはRPGの世界なのだろうか、何かのアイテムがないと道が通れないのであろうか、いっそこの警備員をベギラマなどの呪文で倒せば良いのかしらんと思うも「いや私が怒られるんで!」という先ほども聞いたフレーズが飛び出し、融通という言葉のない世界にこの人たちは生きているのだなと思いつつも勝手にガードを動かして車を通れるようにしているとその人も面倒くさくなったのか「ハザードつけてゆっくり走ってくれれば良いですよ!」と通してくれ。ようやく目的の田んぼに辿り着きまして。(もう気分はドラクエです。)
いざ着くとすでに大勢の車が集結していて、大勢の方が作業を手伝っており。(みんな先ほどのような交渉をして通り抜けたのでしょうか。)取りあえず山崎さんに挨拶をし、どのような作業をすれば良いか聞くとまずは稲刈りとのことで。水浸しになった稲は奇跡的に無事で立っており(!)、これを刈って炊いて果たして食べられるのか、商品になるのかを調べるとのことで。雨でぐしょぐしょになった田んぼでの稲刈りなので当然長靴着用なんですが、私が持参した長靴は水が侵入するとのことでNGで山崎さんのを借りることになり。また持参した帽子もそれでは日に焼けるとのことでつばの長いものを借りることになり、持参したマイアイテムの脆弱さに「俺って…」とくじけそうになるも早速田んぼに入り。通常乾いているはずの田んぼもこの時ばかりは一面ぬかるみでかなり足を持って行かれるのであり。あやうく転びそうになりながらも何とか耐えて鎌で稲をざくざく刈り取り。それを田んぼの端に歩いて持って行くのですが何しろ歩くのが大変なのです。泥の怪獣が水面下に隠れて我が足を引っ張っているようなのです。普段使わない筋肉を駆使し何度かやっているうちに慣れて来ましたが、大変な作業なのであるなと実感した次第です。中腰になるので腰にも負担が来ますしね。田んぼにはザリガニが何匹もいて、「シャー!」と威嚇するようにハサミをあげる様が家に来たばかりの仔猫のミルクを彷彿とさせ、「ミル坊みたいで可愛いな〜」と言ったら馬酔木さんに呆れられましたけどね。ザリガニが猫に見えたらもう重傷だよと。
そんなユルい感じで作業しているうちにお昼になり。一応お弁当を持参して来た我々ですが、Fさんが自作の美味しいおにぎりや漬け物などをたくさん持って来てくれており。ついついそっちの方に手が伸びバクバク食べていると持参したものを食べるまでもなくお腹いっぱいになってしまい。しかもこの日は浅草のオーセンティックさんというベトナム料理屋さんがフォーを振る舞ってくれたり、パンを焼いて来てくれた方もいたり、タンドリーチキンを炭火で焼いてくれた方もいて、田んぼだというのに結構なごちそうが揃っており。うわ余裕残しておけば良かった!全部食べたかった!と己の小さき胃袋を呪ったのですが、こういう助け合いは嬉しいものだなあと食べ物の偉大さを実感した次第です。ちなみにこの食事時、今日ボランティアで手伝いに来ている方々の紹介が山崎さんからあったのですが、そんな飲食店の方やお店のオーナーさんや作家さんやミュージシャンなど多岐に渡り(HARCOくんも来ておりました)、総勢40名ほどはいたでしょうか。これも山崎さん夫妻の人柄によるものだなと感心してしまった次第です。
午後は我ら鎌倉チームは小屋の掃除をまかされ。何しろ170センチの水位ですから全部の物が水に浸かって散乱しており。勿論電気系の機材や乗り物などは死亡しており、被害の大きさを目の当たりにした次第です。小屋内の藁や道具やダンボールの残骸など片付けたのですが、まあここは虫たちの天国で。コオロギやバッタやかえるやゲジゲジやミミズや巨大な蛇やモグラなどもいて、それらに「ひえ〜」などと悲鳴を上げつつ作業をして。途中ベギラマなどの呪文を唱えて対処しましたけどね。(気分はドラクエです。)こんなに蛇って普通にいるもんなの?と衝撃を受けましたね。もう1年で会うべき量の虫たちに1日で会ってしまったので今後はノー虫な日々をお願いしたく思った次第です。あと小屋の中には自転車が置いてあったのですが、泥にまみれて全体が白い色になっており。まるでドリフのコントの小道具みたいなのですよね。他の物も水と泥によってだいぶダメージを受けており。恐ろしいことだなと改めて思った次第です。
白い色といえば山崎さんの田んぼだけ刈り取り作業が進み、隣の田んぼは手つかずで稲が風に揺られていたのですが、やはり色が白っぽいのは泥が付着したせいであろうかと話しているとその通りだそうで、普通は美しい黄金色でなびいているのだそうで。浸水したせいでこのようなくすんだ色になってしまったとのことで、その光景を見ながら何とも言えない気持ちになってしまいましたね。そのような田んぼが見渡す限り広がっているのです。
そんなことを思いながら作業していたらいつの間にか夕方になっていて。ふと見れば刈り取り作業はかなりの段階まで進んでおり。夕暮れ時、田んぼに佇む人々の姿はミレーの落ち穂拾いの絵画を思わせ、何だかはっとさせられるようでしたね。働く人々の姿とはかくも美しいものなのかと。我々が掃除をしている間に脱穀作業も行われており、ふと見るとHARCOくんがその作業を手伝っていたりして、いつもとは別な凛々しさを感じました。思わず彼の代表曲「世界でいちばん頑張ってるきみに」の歌詞が口をついたほどです。
作業後には全員で田んぼで記念写真を撮り。お疲れさまでしたと拍手をして。何ともいえない達成感がありましたが、我々など今日一日ちょこっと手伝った程度ですからね。山崎さん一家は今後も戦いが続くわけです。我々も微力ながら今後も引き続き応援したく思った次第です。
そして我々はFさんに再び駅まで送っていただき、つくばエキスプレス車内にて早速ビールなど飲みつつ、また遠足気分で帰路に着きました。帰り道を阻む者はなく呪文は唱える必要がありませんでしたが、冷えたビールがベホイミなどの回復の呪文の代わりになりました。(帰りでさえ気分はドラクエです。)その後爆睡したのは言うまでもありません。
まだ復旧には時間がかかることでしょうが、一日も早く平穏な日常を取り戻せるよう願ってやまぬ私です。お米は日本の宝なのです。