早春ハイク

先日は俳人の堀本裕樹さんを講師にお迎えして、モルン句会の2回目を開催いたしました。前回ですっかり俳句の面白さに目覚めてしまい、春からNHK俳句の選者に抜擢されますますお忙しい堀本さんに何とか時間を作って鎌倉に来ていただき開催にこぎつけた次第ですが、参加者のみなさんも気合が入っており今回も力作揃いでしたね。
今回のお題は「早春」「ぶらんこ」「自由題」の3つで。早春というのが間口が広過ぎてなかなか作るのが難しかったのですが、蓋を開けてみれば私の作った句が最高得点(!)をいただくという驚きの結果になりました。ちなみに私の作った句と得点は以下の3つです。
「早春やひょいと日向を羽織りけり」(12点)
無重力ぶらんこの子よ旅に出よ」(4点)
「画廊にて絵も客もあくび目借り時」(得点なし)
参加者全員がランダムに並べられた句の中から気に入ったもの佳作4句特選1句を選び、佳作は1点特選が2点それぞれ入るシステムなのですが、そんな中12点を得るというのはなかなかな好成績なのであり、思わず「えっへん!」と心の中のリトル五十嵐が自慢気に胸を張った次第です。
早春というとちょうど今時分のことで、まだまだ寒いけど少し春の気配も感じられる季節の狭間であり、その春っぽさを「日向」という言葉で表現し、しかもそれを上着のように見立てて羽織るというスケール感のある動作、「ひょいと」で身軽さを演出するという私なりの早春の感覚を17音に仕立てたのですが、それがたくさんの方に支持されたので普通に嬉しかったですね。しかし堀本先生の添削によると「この句には切れ字が2つ入っている」とのことで。切れ字というのは「かな」とか「なり」などの感嘆を表す言葉で、句の中ではひとつだけに留めた方が良いとのことなのですね。この句では「や」と「けり」がそれに当たるんですが。あと表記は旧仮名遣いで統一した方が良いとのことで結果、
「早春やひょいと日向を羽織りけり」から
「早春やひよいと日向を羽織りたる」
と改善されました。確かにこちらの方が句としては良いですよね。のうのうと切れ字を2つ使っちゃう辺りまだまだ素人の域を出ないなと私の心の中のリトル五十嵐が「がっかり…」とうなだれたのですが(旧仮名遣いだと「がつかり」でしょうか)、内容は評価していただいたので良しとしたいところです。
もう1つのぶらんこの句に関しては無重力というワードを活かすために言葉を入れ替えたら良いとのアドバイスをいただき、
無重力ぶらんこの子よ旅に出よ」から
「旅に出よぶらんこの子の無重力
と改善されました。なるほどという感じですね。言葉を前後するだけでも印象が変わるものです。
もう1つ自由題の句は季語の意味がわからないと何のこっちゃな句だったんですが、これは「蛙の目借り時」という季語があって、それを使って一句詠もうと作ったものなのです。「蛙の目借り時」とは暖かくなる春先の、ついうとうとしてしまう眠たい状態のことで、なぜ眠たくなるかというと蛙が人間の目を借りて行くからだという俗説から来ているらしいのです。なんで蛙が人間の目を借りるのか、借りると眠くなるのかよくわからない言葉なんですが、れっきとした季語なのですよね。それを使って
「画廊にて絵も客もあくび目借り時」
というのを詠んだのですが、堀本先生曰く「あくび」という状態がすでに「目借り時」という季語の中に意味合いが含まれているのでカットした方が良いとのことで。それよりもその画廊にどんな客がいるとか、どんな絵が飾られているとかの描写を入れた方がより具体的に伝わるとのことで、なるほどなと感心してしまった次第です。俳句というのは省略の表現なので、なるべく季語で伝わる意味合いの言葉は入れないのがコツなのですね。ただ目借り時という季語の俳句に「画廊」を使うというのは面白いという評価をいただき、再びリトル五十嵐が「えっへん!」したのは言うまでもありません。
ちなみに他の方の句で高得点だったものは
「焼き海苔を手紙のごとくそっと折り」
「薄氷を透かして見ゆる空のあを」
「早春の藁のひなたを猫がゆく」
「ふらここが鳴く怪獣の子の如く」
「早春の予感いそいそスカートに」
などでした。最初の句は焼き海苔を手紙のように折るという所作に暮らしを丁寧に紡いでいる様が伝わり、情緒のある句だなと感心しちゃいましたね。あと「怪獣の子の如く」という句は、錆びたぶらんこのきーきー言う音を怪獣の鳴き声と見立てるのと同時に、乗っている子供のやんちゃさも怪獣にかけているのが巧みな表現だと思いました。他のもみなさん上手でしたね。
句会の後は打ち上げということで参加者の方大勢で飲んだのですが、みなさん真面目なのかずっと俳句の話をしており、年齢も職業も異なる人たちがこうして集まるというのもなかなかない機会で、句会というのは面白いものだなと改めて思った次第です。あと「フリースタイルダンジョン」というラップの即興バトル番組を私は熱心に視聴しているのですが、同じく見ている方々が結構いて、言葉を扱うという点ではラップも俳句も同じであり、「あれは面白い」という話で盛り上がりました。日本語というのは奥が深いものだなと句会とフリースタイルダンジョンで実感した私です。
モルン句会、堀本さんがお忙しいので次回いつになるか未定ですが、また開催される時はぜひご参加いただきたく思う次第です。私も再び臨みたいものです。フリースタイル気分で。