VHS牧場

先日実家に行った際、「これをどうにか処理せい」と段ボールを寄越され、何ごとかと中を見やればビデオテープなのであり。お笑いや音楽番組や映画など長年録り溜めた無数のVHS群はビデオデッキの故障と共に燃やすゴミとして怒涛の勢いで処分したのですが、自分が映っているビデオだけは捨てられず残しておいたのですね。その中身を確認すると私が昔やっていた各駅停車というバンドのライブ映像や、fwjの初期ライブ映像、張子関連でテレビ出演した際の映像などであり。各駅停車時代に鈴木茂さんのプライベートパーティーで演奏した映像などもあり、それを確認すると共演者に南佳孝、かせきさいだあ、キリンジヒックスヴィルなどの豪華な面々が見られ、資料としても大変貴重なのです。これはさすがに処分するわけにはいかない、DVDに焼くなどして保存せねばと思いつつも、手元には再生するデッキもないし、ダビングする術もないのです。
仕方なしに「VHS DVD ダビング」などと検索するとそれを請け負ってくれる業者がいくつかヒットし。しかし某有名店を見てみると1本ダビングするのに3000円だかかかるのです。テープは7、8本あるのでえらい金額かかるな、もっと安いところはないかと調べると北海道の業者が1本400円弱だかで請け負ってくれるらしく。業者によってこの料金の違いは何なのかとよく見ると画質だのカビの処理だの色々ある中でも特に早さにあるようで、大手のところは頼むとすぐに作業してくれあっという間に手元に届くのですが、その北海道の業者は「時間かかっても良いならこの安さでっせ」と謳っているのです。まあ急がないし安さの方を選ぶかと、今頼むといつ頃仕上がるのか見積もりを問うてみると「仕上がりは7月です」と出て来るのであり。し、しちがつ?この寒風吹き荒ぶ2月に震えながらストーブの温風を貪りながらPCをカチカチと操作し依頼したものが暑さに汗をダラダラかきながら扇風機の強風を貪りながら過ごす7月に届くとは如何なる理由なのか、季節をスキップし過ぎではないか、この業者はたったひとりで経営しビデオデッキも1台しか稼働しておらず全国から届くVHSを1本1本手作業でダビングし発送を行う過酷な零細なのか、それとも全国から途轍もない量のVHSが届き毎日ダビング作業に追われ夜も眠れぬくらい時間がかかるのだろうか、ビデオ文化が廃れてかなり経つ現在に果たしてそんな需要があるのかと訝しんだ私なのですが、まあ夏の自分への思い出ギフトということでいっかと思い、ポチりと依頼したのですが、思えばビデオ文化は昭和から平成までかなり長きに渡って浸透していたわけで、その思い出は無数にあるのかもしれません。これを読んでいる方の家にも再生されぬまま眠っているビデオテープがあるのではないでしょうか。深い夜の闇に呑まれた羊のように。
そんなわけで早速VHS群を北海道の業者宛まで送りひたすら夏を待つ身に投じたのですが、それから1週間も経たぬうちに「ダビング作業が完了しました!」というメールがその業者から届き。は、早っ!7月じゃなかったんかい!と私は驚き、これは予定を遅めに告知しておいてそれよりも早く仕上げて喜ばせようという業者のサプライズ手法なのか、単に暇だったのかよくわかりませんが、何しろすぐに手元にDVDが到着したのです。眠っていた羊が再び牧場へ放たれたのです。一応中身を確認すると画質の粗い中、若き日の己がそこにいるのであり。ギターを弾いて歌ったりしているのであり。しかしいざダビングしたとて、中身を全部見ることはしないのですね。以前このブログにも書きましたが、写ルンですやカセットテープなどと同様、懐かしく振り返るのにはまだ早過ぎるのです。あと10年は寝かさないといけません。折角のDVDですが中身の確認だけをしてそっとケースにしまった私です。私の若き日の歌声を聞いて妻が「ゆうくん、歌ヘタだね」と直球の感想を投げかけたのもその一因ではあるのですが。
しかしその写ルンですやカセットテープのようにビデオテープのリバイバルが起きないのは何故なんでしょうか。単にデッキの生産が終了しているせいなのでしょうか。地方の中古ショップでVHSが投げ売られている光景もやがて見られなくなるかもしれません。ツメを取って永久保存を誓ったはずの映像は何処へ。VHSの消滅を持って初めて私たちの昭和が終わる気がしてなりません。