音楽で表現すること〜永井宏作品展ライブ

先日巣巣にて行われた美術家永井宏さんの作品展オープニングライブ「音楽で表現すること」にオープニングアクトとして、我々草とten shoesも出演させていただきました。この日は満員御礼だったそうで、会場はたくさんの人たちで溢れておりました。ご来場下さった方々、本当にどうもありがとうございました。
我々が会場の巣巣に到着するとすでにこの日のメインアクトである山田氏とヒックスヴィル中森さん、カーネーション直枝さんがリハをしており。この初めて見る3ショットの見た目の豪華さと3人が織り成すギターのアンサンブルとハーモニーのかっこよさに「おお!」と初っ端からテンションが上がってしまいましたね。ウルトラマン仮面ライダーが合流したみたいな、ヒーローの競演といった様相で。そこへこの日のスペシャルゲストである女優の片桐はいりさんが会場に現れまして。はいりさんはとても華やかで可愛らしく、いつもテレビや映画で見ている方が巣巣にいるという見慣れない光景に「おお〜」と思わず感嘆の声を上げてしまった私です。その片桐はいりさんが3人の並びに加わってセッションを始めるのだからそれはもう大変です。ウルトラマン仮面ライダーゴジラが合流するかのような(はいりさんが怪獣ぽいという意味ではないですよ)豪華さで。その場で「キーを下げましょうか?」「ここからはいりさんが歌いましょうか」などと打ち合わせをしながら仕上げており、そのプロの仕事っぷりを見ながら「おおおお〜」と感心してしまった私です。
ここまで「おお」という母音しか発声してない私ですが、続いて草とten shoesもリハーサルを行いまして。短い時間でしたがざっと曲を通しました。この日女子メンバーはSa-Rahの衣装で揃えており、私は普通に白シャツだけだったのですが、「五十嵐くんだけ服のテイストが違うじゃん。私の上着貸してあげようか?」とスタッフのりえさんに急きょ衣装を貸してもらいまして。さらにこの日のために全員分の可愛い花のコサージュを作っていただき、取り敢えず格好だけはいっちょまえになったんですけどね。肝心の演奏の方はどうなることやらという感じで、いよいよ本番を迎えまして。
前回は私が主に喋ったんですが、今回は永井さんをよく知る岩崎さんとアユミさんがメインで喋った方が良いということになり。岩崎さんは「え〜、私うまく喋れない〜、どうしよう〜」と事前にMCの原稿まで用意して備えていたのですが、いざ話し始めると原稿関係なくベラベラと喋りまくり、客席の笑いをドッカンドッカンかっさらっており、「この人の度胸凄いな!」と感心してしまった私です。岩崎さんと永井さんの出会いや、その流れで弟子のアユミさんに出会った話や、「誰にでも表現をすることが出来る」という永井さんの教えによってバンド結成に至った話などを滔々と語り、結果的に一番永井さんと密な関係であったアユミさんが口を挟む余地がないという状況でしたけどね。でも岩崎さんの話によってこの日の音楽会の趣旨が伝わったので良かったのではないでしょうか。ボーカルのあやは満員のお客さんの視線に緊張がマックスになっていたのか前半2曲は声が震えておりましたが、後半は何とか落ち着きを取り戻してしっかり歌えておりました。山田氏のペンによる巣巣のテーマソング「小さな巣をつくるように暮らすこと」を巣巣で鳴らせたのは意義があったかと思います。岩崎さんもアユミさんもバッチリでした。新曲「草とテンシューズ」も初披露出来ましたし。初々しさが良かったという感想をいくつかいただきましたが、今後はその初々しさを残しつつ技術の方も上げていかないとなと思った次第です。曲を書いている私的には直枝さんから「何回か聞いてると曲をすぐ覚えちゃいますよ。とてもキャッチーですね」というありがたい感想をいただいたので、今後はこの言葉をポケットに入れて持ち歩こうと決意した次第です。
前座として草tenが場を温めた(温められたのでしょうか)後は、山田氏と中森さんによるデュオが始まり。永井さんが聞きたがったであろう洋楽のカバーというテーマで、CCRや、永井さんが訳詞をしたジョナサン・リッチマンのカバーなどを披露してくれました。中森さんは「いやー低気圧でね…」という気圧トークでお客さんをつかみ、山田氏もいつもの軽妙なトークで場を盛り上げておりました。そしてアユミさんが加わっての本家による「小さな巣をつくるように暮らすこと」がまたしみじみ良かったですね。中森さんのスライドギターが泣けて。山田氏は「さっきの草tenとは別腹」という表現をしてましたが、この日のお客さんは名曲を2バージョン聞けてある意味お得だったんじゃないでしょうか。
その後はそこに直枝さんが加わりまして。直枝さんは「いやー低気圧がね…」と中森さんが先にネタにしていた気圧話でお客さんをつかんでおりましたが、アレルギーのせいでリハ中はずっと鼻をかんでいて辛そうでしたね。(本番ではそれが止まっていたようなので流石だなと思いました。)ここではAMERICAのカバーを2曲演奏してくれまして。「ヴェンチュラ・ハイウェイ」では中森さんと直枝さんの息の合ったツインギターが炸裂してこれがまたかっこよかったですね。(直枝さんはこれの練習にかなり時間を費やしたそうです。)3人のコーラスが重なるところも鳥肌ものでした。
そしてその後山田氏と中森さんが捌け、直枝さんのソロステージとなりまして。直枝さんも永井さんに向けたカバーということで、まずはトッド・ラングレンニール・ヤングの曲を歌ってくれました。直枝さんのこれまでの生き様が滲み出るような男の色気溢れる歌声にグッと来てしまいましたね。もう日本でニール・ヤングに対抗出来るのは直枝さんしかいないよという感じで。郷ひろみの「ハリウッド・スキャンダル」と島倉千代子の「愛のさざなみ」のカバーも素晴らしく、直枝さんが歌うともはや直枝さんのオリジナルにしか聞こえないのですよね。その凄みのあるパフォーマンスに震えました。直枝さんによる歌謡曲のカバー集とか聴いてみたくなりましたね。ちなみに直枝さんは永井さんの「マーキュリーシティ」という著書を愛読していたそうで、その文章を絶賛されていましたね。その後永井さんの展示も見に行き、中森さんに紹介してもらいご本人にも挨拶出来たという思い出話を語ってくれました。「マーキュリーシティ」は絶対復刊して欲しいと力説しておりましたね。前に「貸切り図書館」に直枝さんに出演していただいた時には永井さんの著書は挙げられてなかったので、次回はその辺の話も詳しく聞きたいなと思った次第です。
その後、再び山田氏と中森さんが合流してビートルズの「Two of Us」を演奏したのですが、冒頭のジョンの台詞から終わりの口笛まで再現していて、直枝さんと中森さんのビートルズ愛が伝わって来ましたね。直枝さん曰く「永井さんはビートルズよりもストーンズ派だったんじゃないかな」とのことでしたけどね。その後山田氏のリクエストによりカーネーションの「Edo River」も演奏してくれまして。これがまたかっこよくてシビれましたね。「ロックンロールッ!」の掛け声に「おおおお!」と我が心に燃え滾るものがありました。この3人でこの曲を演奏するのは勿論初めてとのことなので、とても貴重なものを見られました。
そしてこの3人にこの日のスペシャルゲスト、片桐はいりさんが加わりまして。4人でそれはもうスペシャルなセッションを繰り広げてくれました。そもそもなぜに片桐はいりさんがゲストなのかというと、永井さんがマガジンハウスでブルータスという雑誌の編集の仕事をしていた頃に、はいりさんが劇団の広報担当としてよくマガジンハウスに出入りしていたそうで。その縁で永井さんがバンドでライブをする時にボーカルとしてはいりさんが参加するようになったのだそうです。ちなみにその当時ブルータスでカメラマンの仕事をしていたのが中森さんという繋がりなのだそうで。山田氏は司会役としてはいりさんから上手に話を引き出し、お客さんに永井さんとの関わりをわかりやすく説明していて良かったですね。この日は永井さんのことをよく知らないお客さんが多かったようですしね。当時そのバンドでよく演奏していたという「ローハイド」とドアーズの「Hello,I Love You」とボブ・ディラン「くよくよするなよ」の永井さん訳詞バージョンのカバーを演奏してくれたのですが、はいりさんは舞台女優だけあって歌の発声も表現力も素晴らしく、また見た目にも華があるし、自分がどうパフォーマンスすべきか瞬時に理解して1.2回のリハだけで完璧になっていたので凄いなと思いましたね。歌う姿に思わず釘づけになりました。「くよくよするなよ」は最後が何故か「イッツオールライトやで」と関西弁になっているのですが、実はそこだけはいりさんが訳詞をしたのだそうで、永井さんはそれを気に入ってずっとはいりさん訳詞バージョンを歌い続けて来たのだそうです。はいりさんは関西人ではないのですが、当時フォークソングを歌う役を与えられた時に関西弁で訳詞してこの曲を歌ったことがあり、それをライブでも採用したのだそうで。はいりさん、山田さん、直枝さんと順番に歌い分けていたのですが、3人の「イッツオールライトやで」の歌い方がそれぞれらしい歌い方で何だか沁みましたね。優しく励ましてくれるような、力強く背中を押してくれるような、自らを鼓舞するかのような。はいりさんはこの日のために「くよくよするなよ」の他の部分の歌詞も書き下ろして来てくれたそうで、それも印象に残りました。「桜の花を見ながら思った 死んでも終わりじゃないんだって」という内容でしたが、はいりさんが語っていた「死んだ人って凄い、生きている人には出来ないことが出来るんだもの」という発言にはなるほどなと思いましたね。実際永井さんの亡き後にも未だこうしてイベントが行われ、永井さんを知らない人たちが新たにその作品に触れたり、これをきっかけにして知り合う人たちがいたりと世界が広がっているわけですからね。このイベントを定期的に催している岩崎さんからしたら、はいりさんが歌いに来てくれたことはとても感慨深かったことでしょう。私もこのようなライブに少しでも関わらせていただき感謝です。良い夜でした。
終演後は長男堂さんの美味しいご飯をみんなでいただきまして。この日は元フィッシュマンズの小嶋さんとか高橋徹也さんとか色々な方が見に来ていて、よくこんなステージで初心者の草tenは堂々とライブをやったなと思いましたけどね。山田氏からもタカテツさんからも「俺らは直枝さんと共演するのに何年もかかった(笑)」と言われましたけどね。私もバンドでカーネーションと共演するのに7年かかって、この日共演するのはそれ以来16年振りだったので、そういう意味でも感慨深かったですけどね。直枝さんと中森さんは「俺はタカテツになりたいよ、理想だよ〜」とタカテツさんをイジっており、「いやーそんなこと言わないで下さいよ〜」と恐縮していたのが可愛くて面白かったです。良い光景を見ました。
巣巣での永井宏さんの展示は4月23日まで続いてますので、興味ある方はぜひご来場下さい。草tenのライブも夏頃あるかと思います。そちらもぜひにということで。