貸切り図書館 この夏の記録

molnにて定期的に行われている本と音楽にまつわるイベント「貸切り図書館」ですが、ここ最近のレポをまとめてご紹介したいと思います。
まずはさる6月24日に行われた「貸切り図書館47冊目」ですが、この日は柴田聡子さんにご出演いただきました。柴田さんは「愛の休日」という新譜を引っさげての登場でしたが、ここ最近テレビやラジオなどメディアでの露出も増えて注目を集めており、会場は満員御礼でございました。私も「愛の休日」を事前に聴き込んでおり、その内容の素晴らしさに感激していたところだったので、全曲再現してくれたのは嬉しかったですね。その可愛らしい歌声もさながら、歌詞の世界観も独特で言葉のチョイスも素晴らしく(「さばーく」という詩集も発表されているのです)、その才能に惚れ惚れしながらステージを堪能しました。今回は全編弾き語りでしたが、いちギタリストとしても繊細なアルペジオやビートを感じさせるカッティングの腕前が凄いのです。今回の新譜に入っている「後悔」という曲の切なさに毎回聴きながら泣くという行為を繰り返していた私ですが、生で聴いて改めて泣いたのは言うまでもありません。(この曲、tofubeatsさんがテレビで2017上半期ベストソングのひとつとして選んでいたそうです。)
そして本の紹介のくだりではX-Japanの伝記本「不滅のX JAPAN大全」を挙げてくれました。最近XJapanのファンになったという柴田さんだそうですが、この本に書かれている「Toshiがお祭りが好きで地元のお祭りに参加したいがためにバレー部の練習を休んだ」という高校時代のユルいエピソードを紹介してくれました。柴田さん、映画「We are X」も鑑賞したそうで、「最高でした!」と感想を述べておられました。
今後の彼女のブレーク具合によってはmolnのような小さいキャパでのライブは難しくなるのかなと思ったのですが、「ぜひまたmolnさんでやらせて下さい!」とご本人に言っていただいたので、また次回も出演していただけるかと思います。次は何の本を紹介してくれるのでしょうか。今から楽しみです。
そして7月1日に行われた「貸切り図書館48冊目」ですが、この日はOishii Oishiiさんに出演していただきました。MUSIC FROM THE MARSの藤井さんご夫妻とceroのサポートでもお馴染みベースの厚海さん、空気公団などのサポートでもお馴染みドラムのオータコージさんによるバンドですが、fwjでも何度か共演してセッションなどもしており、今回molnでのライブが実現してとても嬉しかったですね。久々に聴くボーカルのチカさんの歌声も素晴らしかったし、藤井さんのいぶし銀のギタープレイも最高でした。ceroのライブも何度か見ているので厚海さんの超絶のベースプレイを間近で見られて良かったです。チカさんがまだ小さいお子さんを抱いてステージで歌う姿に母の偉大さと強さを感じて、こういうお母さんの元ではきっと素晴らしいミュージシャンに育つに違いないと思ってしまった私です。ライブ後もずっとメンバーさんとお喋りしててスルーしてしまったのですが、そういえば本を紹介して貰ってなかったことに帰りに気が付きまして。でもまあ次回出演の際に紹介して貰うかと相成った次第です。本を忘れて来る方も多いですし、こういうユルい側面もあるのです、貸切り図書館は。
そして7月29日に行われた「貸切り図書館49冊目」は友部正人さんをゲストにお迎えしてお送りしました。毎年恒例となりつつある友部さんのライブですが、今回は「月」や「星」が歌詞に出て来る曲をたくさん歌ってくれました。というのも紹介してくれた本が田中美穂さんの「星とくらす」という著書で、こちらは倉敷の蟲文庫という古本屋さんのオーナーでもある田中さんの天文にまつわるエッセイなのですが、折角なので本にまつわるセットリストにしてくれたそうなのです。友部さんの歌う「月」や「星」はとてもロマンチックで、同じ月でも曲によってこういう異なる描き方をするのかと言葉の使い方の見事さに聴き入ってしまいました。友部さんには月や星を題材にした名曲がたくさんあるのです。星といえば「地球のいちばんはげた場所」も歌えば良かったねと終演後に奥さんのユミさんが話していて、この曲をマーシーがカバーしていて友部さんも参加している名盤「夏のぬけがら」がアナログになった話をしたら友部さんは「それは知らなかったなあ」と、当時のマーシーの楽屋での普段の様子など話してくれてマーシーファンとしても嬉しかったですね。友部さんはあのアルバムに入らなかった「ジャラマドーラ」という曲が印象に残っているそうです。(この曲は後に「岡本くん」というタイトルでハイロウズのアルバムに収録されました)
この日はライブ中に土砂降りの雨になったのですが、その雨音を聞きながら「昔谷川俊太郎さんとトークライブ中に谷川さんが会場に響く雨音に聞き入って途中黙り込んだ瞬間があった」というエピソードを話してくれて、会場にいた我々がみなその時の谷川さんと一緒の気持ちになったような不思議な時間がありました。新しい曲も古い曲も同じように友部さんだし、どれも新鮮に響くのは言葉が普遍的で力を持っているからでしょうか。前日に森山直太朗氏のライブを見に行ったという友部さんですが、直太朗作品の作詞をしている御徒町凧氏のペンネームの由来が友部さんの曲「こわれてしまった1日」からだと知り、改めて友部さんの影響力の凄さを認識した次第です。ライブの最後に客席からのリクエストで「あいてるドアから失礼しますよ」を歌ってくれたのですが、私が初めてこの曲を聴いたのが中学3年生の頃で、「凄い詩人がいる!」と当時受けた衝撃を思い出しました。時を経てこうしてご本人と交流させていただくことが出来るとは嬉しいことだなと改めて思った次第です。ちなみに他に紹介してくれた本は安西水丸和田誠著「テーブルの上の犬や猫」比嘉良治 、北島角子著「砂浜にのこり、歌にきざまれた人々の夢・沖縄」でした。
そして8月20日に行われた「貸切り図書館50冊目」にはこちらも1年振りの登場となる中山うりさんをゲストにお迎えしました。うりさんの歌声は勿論、ベースの南さん、ギターの福澤さんによるトリオ編成での演奏は鉄壁のアンサンブルで、素晴らしかったです。うりさんはアコーディオン、トランペット、ギターと様々な楽器を駆使して、どれも巧いので見てて惚れ惚れしてしまうのです。今回福澤さんはクアトロというプエルトリコの10弦ギターを初披露してくれましたが、その魅惑の音色に思わず欲しくなってしまいました。(終演後にちょっと弾かせて貰っちゃいました)
紹介してくれた本は内田百けん著「ノラや」で、ご自身も猫を飼っているうりさんからしたらいちいち感情移入してしまってなかなか読み進められなかったそうです。私も猫を飼う前は「何で猫がいなくなっただけで毎日こんなに泣き暮らすのであろう」と思っていたのですが、ミル坊と暮らすようになってから読み直すと切なくてつらくてたまらないのです。もし当時SNSがあったら呼びかけたんだろうな、とうりさんなりの見解を述べておられました。うりさんのところにも通い猫が何年も来ていて、ついに一緒に暮らせそうか、という状況なのだそうで、猫と人の関係に改めて想いを馳せてしまいました。あまり本を読まないといううりさんですが、次回はどんな本を紹介してくれるのでしょうか。
ざっと駆け足で紹介して来ましたここ数回の「貸切り図書館」ですが、次回は9月3日にカーネーション直枝政広さんをゲストに迎えてお送りします。こちらも貴重な本トークを聴けるのではないでしょうか。こちらもぜひよろしくお願いしますということで。