9月の現状

早いものでもう9月も下旬に差し掛かっているのです。本当に早いのです、時の流れは。季節は来るより行くばっかりで、という柴田聡子さんの歌詞にもありますが、こんなにも早く季節が巡るのは何かの陰謀なのかと疑いたくなるほどなのです。気付けば夏の気配は翳りを見せ、秋の空気が支配するようになりました。すでに私の服装に長袖がレギュラーとして登場しています。このまま秋を通り過ぎ、冬へとまっしぐらなのでしょうか。
そんな9月ですが、冒頭から濃密でございました。まずはmolnで開催している「貸切り図書館」に今年もカーネーション直枝政広さんがゲストに来て下さり、本にまつわる貴重なトークや弾き語りを披露してくれました。直枝さんの読書体験と創作の秘密についてじっくり語っていただき、まるで2時間のラジオ特番を生で聴いているかのような聴き応えのあるライブになりました。直枝さんの豊かで鋭い感性に触れて、個人的にもとても刺激を受けました。直枝さんの部屋で聴いているかのような距離感も含め、とても贅沢な空間だったと思います。この日いただいたカーネーションの新譜「Suburban Baroque」が素晴らしく(現在絶賛発売中です)、次の日から毎日繰り返し聴き続けているのですが、もう今年の9月の風景はすべてカーネーションの音楽に彩られていると言っても過言ではありません。素晴らしすぎるのでぜひお勧めしたい次第です。(この日のライブのレポはまた後日アップ出来ればと思っております。)
そしてその次の日は私が参加しているユニット「草とten shoes」のワンマンライブが世田谷のAmiカレーさんでありました。初めての単独公演と言いつつ全部で8曲しかレパートリーがないという状態でしたが、その全てを出し切りました。これまでの楽曲に加え、書き下ろしの新曲「猫にしか見えない色」も初披露出来ましたし、この日のハイライトとなった友部正人さんのカバー「私の踊り子」も披露出来ました。(molnでの友部さんのライブを聴きながら、ちょうど草tenの編成に合いそうな曲だなとひらめいたのです。)当日はリハからバタバタでしたが、おかげさまで満員御礼で終えることが出来ました。たくさんのご来場をどうもありがとうございました。まだこれが4回目のライブということもあり不慣れな部分も散見され、終演後早速メンバーに駄目出しなどしてしまいましたが(某トランぺッターのような往復ビンタはしませんでしたよ)、まだまだこれからのバンドですので温かい目で見ていただきたく思う次第です。岩崎さんは相変わらずポジティブで終演後「うん、成功成功〜」と笑顔でAmiさんの美味しいカレーを食べておりましたけどね。カレーの辛さと冷たいビールが心に沁みました。草tenの次回ライブは10月8日(日)鎌倉の西御門サローネにて行われる「Jam jam jam MUSIC FESTIVAL」に出演します。午前中の11時頃という健康的な時間に出番の予定です。早起きして鎌倉に出掛けてみるというのも楽しいかもしれません。ちなみにこの日の夜はmolnで直枝さんゲスト会に続く「貸切り図書館」もあり、ゲストに2年振りとなる(しょっちゅう会っているのでそんな間が空いたかと意外でしたが)山田稔明氏が登場します。合わせて見に来ていただければなと。
そんなライブを終えた後は仕事で佐賀の方に出張で出掛けまして。1週間ほど滞在しておりました。それこそ佐賀出身である山田氏に「佐賀でお勧めのスポットってあります?」と聞いたら「うーん、ないかな〜」という返答が来て、「ないんかい」と思いながら佐賀の街をぶらぶら散策していましたが、佐賀城の跡地や博物館、美術館があったりと雰囲気も良く(昼間は仕事だったので中には入れませんでしたが)、またそこかしこに猫がいたのでその姿を写真に撮ったりなどして街歩きを楽しみました。今回は職人展の催事だったんですが、閉店後に仕事場であるデパートから20分ほど歩いてブックオフに行ったり、50分ほど歩いてハードオフに行ったりしましたし。ハードオフに至っては街灯もない暗い夜道をアイフォーンのライトを照らしながらへとへとになりながら歩き、我ながら何をやっているんだろうと途方に暮れましたけどね。デパートから宿泊しているホテルまでさらに15分ほどかかるので夜は延々と歩きっぱなしでした。BGMにずっとカーネーションの新譜を聴いていたので、佐賀の風景と一緒に記憶に刷り込まれました。旅先でブックオフハードオフに行くのは自分の中で恒例行事なのですが、やはり楽しいのです。
昼間はデパートの社食で食べていたのですが、ここの社食のメニューが独特で、「スパゲティナポリタン定食」(ナポリタンをおかずにご飯とみそ汁を食す)、「かき揚げうどん定食」(かき揚げうどんをおかずにご飯とみそ汁を食す)、「焼きビーフン定食」(焼きビーフンをおかずにご飯とみそ汁を食す)といったこちらの定食の常識の斜め上を行く炭水化物過多なメニューで、ナポリタンもかき揚げうどんも焼きビーフンも単独で良いのではと思いながら結局定食以外のメニューのそばを食べていたのですが、定食文化というのは場所によってそれぞれ違うものなのですね。ある日は「生姜焼き定食」というノーマルなメニューが出たのでそれを食したのですが、豚肉よりも玉ねぎが多く、最早玉ねぎ定食の様相を呈しており、玉ねぎの辛さが心に沁みました。
夜はだいたい惣菜をどこかで買ってホテルで食べたり職人さんたちと食べに行ったりなどしたのですが、ハードオフまで歩いた夜は帰る途中に昭和な雰囲気の味のある古い食堂を見つけて。冒険心と共にそこに入ってみたのですが、中に入ると昭和な雰囲気というよりも昭和がそのまんま保存されている感じの店内で。昭和から全てが更新されていない田舎のおばあちゃんの家みたいな様相なのです。良く言えば気取りのない懐かしい感じ、悪く言えば見た目を全く気にしない小汚い感じで、電話も黒電話だし、テーブルもイスも前時代のまんまなのです。そこで店主であるおじさんに炒飯を注文したのですが、出て来た炒飯は良く言えば気取りのない、悪く言えば冷蔵庫の残り物で適当に作ったかのようなみすぼらしい様相であり。しかも凄いボリュームなのです。いざ口にしてみると何と言うかシンプルに美味しくないのであり、肉がほとんど入っておらず、代わりに玉ねぎがこれでもかと入っているのです。昼間の生姜焼き定食に続いての玉ねぎ責めです。佐賀に「五十嵐に積極的に玉ねぎを食べさせる会」なる組織でも存在しているのかと疑いながらも何とか完食したのですが、お腹いっぱいだし結構なダメージを喰らってしまいましたね。玉ねぎの辛さが心に沁みました。店に一見さんが来るのが珍しいのか「お近くですか?」などと案の定おじさんに話しかけられ、宣伝がてら「地方からデパートの職人展の仕事で来てるんです。ぜひ来てみて下さい」と誘うと「明日は孫の運動会なんだよなあ〜、デパートにはあんまり行かないんだよな〜」などとごにょごにょ言いながら遠回しに断られ、旅先での交流は数秒で終わりましたけどね。玉ねぎのほろ苦さにカーネーションの音楽がまた沁みること沁みること。
最終日には妻も休日を利用して佐賀に遊びにやって来て、佐賀でRITMUSというお店をやっている北島さん夫婦と合流して地元の美味しいお店に案内してもらいました。さすが地元の人に聞くと良い店がたくさんあるのですね。粋な小料理屋で佐賀の地酒と共に美味しい料理をいただき、その後お洒落なフルーツパーラーでフルーツパフェを食べ、その後またシックな日本酒バーで地酒を飲むという充実の佐賀ナイトを過ごしました。佐賀の飲み屋街は夜の深い時間になるとそこらに客引きのセクシーなお姉さんが立ち並び、まるで歌舞伎町のような様相になるのですが、立ち並ぶスナックやキャバクラの店の佇まいといい、セクシーお姉さんの佇まいといい、どことなく昭和な雰囲気なのですよね。そこかしこでおじさんによるカラオケの歌声も聞こえて来て。その演歌の調べも相まって風景全体から昭和の香りがし、つい先日の玉ねぎ炒飯を思い出し、何とも言えぬ哀愁を感じてしまった私です。佐賀の地酒による酔いもあったのでしょうか。
佐賀で撮った写真のほとんどが猫の写真で、ミル坊に会えぬ寂しさ故であろうかと思ったのですが、良い面構えの猫が多かったですね、佐賀は。また佐賀の猫たちに再会出来るのであろうかと思いながら帰路に着いた私です。
9月はそんな感じであっという間に半分終わりました。早いのです、時の流れは。