2年越しのサマー 貸切り図書館58冊目

もう先月のことになってしまいましたが、貸切り図書館の58回目を高橋徹也さんをゲストに迎えてお送りしました。たくさんのご来場をどうもありがとうございました。
今回はペダルスティールの宮下さんとのデュオ編成での出演でしたが、moln店主あやがコーラスで参加したり、客として見に来ていた山田稔明氏がアンコールで飛び入りしたり、宮下さんの歌声披露もあったり、タカテツさんによる本の紹介トークも面白く、気が付けば3時間超えという圧巻のステージでした。タカテツさんとはここ数年、良き友人付き合いをさせて貰っているのですが、自分の企画したライブで素晴らしい演奏をして貰えるというのは何よりも嬉しいものです。分厚い手紙を受け取ったかのような、ずっしりと胸に響くとても素敵なライブでした。
今回は新譜の「Style」のレコ発という名目なのに、前作の「The Endless Summer」を曲順通りに全部演奏するというのがタカテツさんらしいなと思ったのですが、というのも前作のジャケット撮影のロケハンに我々が付き添ったという経緯があるからで、その時の思い出話などを聞きながらタカテツさんと雨の中歩いたロケハンの光景を鮮明に思い出しましたね。本番の撮影にはさすがに我々は立ち会わなかったのですが、あの日タカテツさんが鎌倉に来てくれたところからこのアルバムは始まったという感覚が勝手ながらあるので、それを2年越しでまた鎌倉に持ち帰ってくれたようでじんわり感動してしまいました。「夜明けのフリーウェイ」では思わず客席から手拍子が出るくらいの熱を帯びていましたし。宮下さんが「弾き語りなのにこんな盛り上がるのは凄い」と感嘆していたのが印象的でした。
タカテツさんに貸切り図書館の枠で出演していただくのは久し振りでしたが、前回紹介した本の復習などをしつつ(彼の歌に登場する海はヘミングウェイサマセット・モームの描くそれに影響を受けているという話でした)、今回はここ数年のうちに読んだという本を中心に紹介してくれました。40歳を過ぎてから村上春樹を読むようになったというタカテツさんは小説よりもエッセイや翻訳をきっかけに春樹に好感を持ったとのことで、ジャズレコード愛好家としての顔などを知り、若い頃に苦手だと思っていたのは誤解だったと受け入れるようになったそうです。あとはベースの鹿島さんに紹介してもらったという片岡義男さんの本や、写真家星野道夫さんの本を紹介してくれました。片岡義男の著書に登場する「同級生の女子がヨーグルトの入れ物に花を生けてくれた」という青春エピソードに鹿島さんと「あれ良いですよね〜」とキャッキャと盛り上がったという話が良かったですね。ツアーなどにも持ち歩いているという星野道夫さんのアラスカの旅行記を一部朗読してくれたのですが(宮下さんに「BGMにアラスカっぽい音をよろしく!」と無茶振りするという、彼がたまに見せる先輩キャラが出ておりました)、その後歌ってくれた「ブラックバード」や「雪原のコヨーテ」などの壮大な自然を感じさせる曲に星野さんからの影響もあるのかなと思ったりました。
あと今回は宮下さんも本を紹介してくれて、山之口貘さんの詩集を紹介してくれました。山之口さんは高田渡さんの曲の歌詞に多く使われていることで有名な詩人の方ですが、その高田さんの曲である「生活の柄」も弾き語ってくれました。以前高田渡さんのトリビュート盤に山田氏と私とイトケンさんで参加したことがあったので何となく縁を感じましたね。前に「貸切り図書館」に大森元気さんが出演した時に宮下さんもメンバーで現場にいたのですが、その時の対バンのfwjがメンバー全員本を紹介していたのを見て「あ、メンバーも紹介して良いシステムなんだ」と思って今回本を持って来たのだそうです。面白いから今後もなるべく演者全員に本を紹介してもらうルールにしようと思った次第です。
今回久々にmolnに出演するに当たって「あやさんもぜひコーラスで参加して下さい」とタカテツさんに頼まれたそうで、最後の曲で店主がステージに上がったのですが、緊張しながらも立派にコーラスをつとめておりました。事前に風呂の中などで「ららら〜」としきりに練習していた成果が出たのでしょうか。そしてアンコールでは山田氏が飛び入りして「My Favourite Girl」をデュエットしてくれまして。この2人、お互いのライブに来たら飛び入りするというルールがすでに出来上がっているのでしょうか。息の合った掛け合いで盛り上げてくれました。そしてオーラスにはレコ発なのにまさか表題曲をやらないの?と思われた「スタイル」で締めという充実のセットリストでした。
今回は彼が以前メジャーのレコード会社にいた頃の貴重なフライヤーや短冊形のシングルCDなどの資料も持って来てくれて、本番前にみんなで「痩せてる〜」とか「若い〜」とか「キレッキレやな〜」と感想を言い合っていたのですが、お客さんたちも「懐かしい〜」とか「可愛い〜」とか喜んでくれておりました。最後には彼が紹介するため持って来た文庫本をその場でお客さんにプレゼントをするのにじゃんけん大会まで催されるという盛りだくさんな内容で、かなりスペシャルなライブになったのではないでしょうか。打ち上げでホットな紅茶を飲みながら「楽しかったなあ」と話す彼の笑顔が印象的でした。本当にたくさんのご来場どうもありがとうございました。
貸切り図書館、次回はキンモクセイの伊藤俊吾さんをゲストに迎えてお送りします。こちらもぜひよろしくお願いしますということで。