スマホレスデイ 自由と孤独

先日我がアイフォーンを操作していると急に画面がゆっくり薄暗くなり、そのまま電源が切れてしまったので、にゃんだにゃんだと思いながら再起動を2、3度試みるも全く動かず、にゃんだにゃんだと今度は振ってみたりさすってみたり叩いてみたり冷やしてみたり「頑張って!動いて!」と声援を送ったり「てめーこらいい加減にしろ動け馬鹿野郎!」と罵声を浴びせたりあらゆる手立てを講じてみたのですが我がアイフォーンは微動だにしないのです。その時点でもう9割方これは臨終であるなと悟りつつ一応専門の人に見て貰おうとしたのですが、肝心のアップルストアの場所がわからないのです。
その時はちょうど催事で新宿の伊勢丹の売り場にいたので、「新宿 アップルストア」で検索しようと思ったのですがアイフォーンが動かないので検索出来ないのです。誰かに聞くかとラインやメールをしようと思ったのですがアイフォーンが動かないのでそれも出来ないのです。何というかアイフォーンがないと何も出来ない無力な己がいるのです。家に固定電話もないので誰とも連絡がつかないし、今現在私は糸の切れた凧のように宇宙を彷徨っている孤独な存在なのだと思うと急に心細くなり、早急にアイフォーンを復活させねばならないと対策委員会を立ち上げ(委員長も委員も私のみですが)、まずは伊勢丹の店員さんに「この近くにアップルストアってあります?」と聞くと店員さんは「ちょっと待って下さい、今調べますね」とスマホで検索を始め。嗚呼、今の私にはその行為が出来ぬのだと思いながら見ていたら「あ、目の前の丸井の1階にありますね」と言うのです。何と目と鼻の先にあったのです。
ダッシュで私は林檎ストアに向かい、スタッフさんに事情を説明すると「えーとでは4時間後にご来店下さい」と言われ。店内は激混みなので待たされるのです。その後また伊勢丹の売り場に戻り4時間糸の切れた凧状態で過ごし、再びストアに赴き爽やかなスタッフのお兄さんにアイフォーンを見て貰うと「起動しないのでこれは交換になりますね」とのことで。覚悟はしていたもののかくも簡単に判決が出るとは、もっとこうメスを入れたりネジを外したり生命再生措置を発動するなど何かしら決死の作業がないものかと思いながら聞けば「交換には3万3千円ほどかかりますがよろしいですか?」とお兄さんは軽やかに言うのです。よろしいわけないだろう、そんな金額出すなら新しいのを買えるじゃないかと「それなら機種変更した方が良いですよね?」と問うと「ああ、そうですねー、お客様はもう3年使用されてるのでその方が良いかもしれませんねー」と言うのです。よろしいですかの前に即座にそのアドバイスをお届けしては如何かと思いながらソフトバンクに行こうとしたのですが、場所がわからないのです。「新宿 ソフトバンク」で検索しようにもアイフォーンが動かないので出来ないのです。ただひたすらに無力なのです。仕方なくお兄さんに「この近くにソフトバンクってあります?」と聞くと「ちょっと待って下さい、今調べますね」とアイパッドで検索を始め。嗚呼、今の私にはその行為が出来ぬのだと思いながら見ていたら「えーとすぐそこにありますね」と言うのです。これまた目と鼻の先にあったのです。
ダッシュで私はソフトバンクに向かい、店員さんに事情を話すと「では2時間後にご来店下さい」と言われ。店内は激混みなので待たされるのです。その後また伊勢丹の売り場に戻り2時間糸の切れた凧状態で過ごし、再びソフトバンクに赴くと「どういうプランにします?」と聞かれ。機種変更していないこの3年の間にプランが様変わりしているのです。店員さんはギガだかメガだかデータのでかさを乗せて来るので「いらないっす」と下ろし、「この写真を保存出来るなんちゃらと立てて充電出来るなんちゃらとなんちゃらイヤフォンは付けますよね?」とグッズも乗せて来るので「それ全部いらないっす」と下ろし。店員さんが乗っけて来るものをことごとく下ろすという謎のゲームの末に無事新しいアイフォーンとアイパッドが我が手中に収められたのでした。(アイパッドは欲しかったので乗せられたまま下ろしませんでした。)
そしてまた伊勢丹の売り場に戻り、「無事アイフォーンが戻りました!」と店員さんに報告し。ただ(バックアップしてなかったんかいの総ツッコミを覚悟で書きますが)中の連絡先が全部消えてしまったので、半分まだ糸の切れた凧状態なのです。こちらから誰にも連絡出来ないのです。家族の携帯番号でさえわからないのです。別れた恋人の電話番号未だ諳んじることが出来るよ、みたいな昭和の歌詞の世界は遥か彼方に追いやられてしまったのです。利便性の裏に「番号を一切覚えない」という弊害が隠れていたのです。
しかし連絡先がひとつも入ってない携帯というのはある意味清々しいものです。新しいノートを下ろしたばかりの気分です。今はSNSという便利なものがあり、メールも電話もそこで出来るので連絡先が消えてもそんなに支障がないということにも気付き。仕事関係の人もPCのメールでやり取りするのが主なのでそちらもあまり支障がないのです。とりあえずあやにSNSを通じて「こういう事情なのでまずは電話番号を教えてくれ」と呼びかけると、「む、詐欺かっ!」と怪しまれ。「ゆうくん本人であることを証明せよ!」と問われ、合言葉のようなものをいくつかやり取りし、何とか妻の電話番号をゲットし。
たまたまその夜は新宿でタカテツさんと会う約束があったので、タカテツさんに事情を説明すると「大変でしたね」と言ってくれて。その場でタカテツさんに番号を教えて貰い、家族以外で初の連絡先ゲットとなったのですが、連絡先の他に写真もごっそり消えてしまったのです。幸い過去の写真はPCの方へバックアップを取っていたのですが、現時点でアイフォーンの中に写真は皆無なのです。「タカテツさん、このスマホで初の写真良いですか?」と彼の爽やかな笑顔を撮り。写真第一号をタカテツさんで迎えることが出来ました。この写真の彼の笑顔を見る度に、この日のアイフォーン騒動を思い出すのだろうなと思った私です。(彼の指差す炙り煮豚と共に)
帰りに電車の乗り換え情報などを検索しながら、アイフォーンがないと何も出来ない無力な体とは恐ろしいなと一方で思った次第です。人の連絡先も持たずネットで情報も得ず日々を生き抜くタフさ。孤独になるには無人島に行くよりスマホを捨てる方が手っ取り早いのかもしれません。糸の切れた凧になってみて、自由とは何なのかについてふと想いを馳せた私です。