草とten shoes 台湾ツアー記その1 台北編

11月1日、記念すべきアルバム発売日から幕を開けた草とten shoes台湾ツアーですが、初日はまず台北入りするところから始まりました。成田空港でメンバーと、今回ガイド兼お手伝いで同行してくれるあやこさん(岩崎さんのお姉さん)と合流し、一同台北行きの飛行機に乗り込みまして。あやこさんは過去8回ほど台湾を旅しているという強者で、今回のツアー日程と宿泊先、交通手段など詳細が書き込まれた旅のしおりを作成して来てくれて、とても心強かったです。(我々毎日これを参照しながら行動しておりました。)岩崎さん、アユミさん、あやとメンバーみんなは「台湾の食べ物楽しみ〜」「何食べよう〜」と演奏とは若干違うベクトルでテンション高めでした。初めてのツアーがいきなり海外というのもこのバンドらしいといえばらしいのでしょうか。
台北までは3時間弱のフライトで、私は落語を聞きながら過ごしていたのですが、聞いているうちにウトウトしてしまい。「芝浜」の「やめとこう、また夢になるといけねえ」のサゲの部分でふと目を覚まし、一気に江戸の世界から台北への機上へと引き戻され、まだ少し時間があるので再び寝ようかと思ったのですが、「やめとこう、このフライトが夢になるといけねえ」と江戸の心意気でしおりなどを眺めているうちに台北に到着しまして。
空港では入国審査のゲートを通って台北の地に降り立つのですが、どうやらパスポートを見せつつ顔を撮影し、指紋を採取するシステムらしいのです。私が並んだゲートの担当の方がメガネをかけた「ちょっとSっ気のある美人教師レイコ」といった風情のお姉さんで、やけに客に対して当たりが強い感じが見て取れたので、「私はあの女教師レイコの審査をうまく切り抜けることが出来るだろうか」とドキドキしながら並んでいると私の番になり。いざレイコ先生の前に立つと「パスポート!」といきなり強く上から言われ、「は、はいっ!」と気弱な生徒の如くおずおずと差し出すと「新人バンドのくせに生意気に台湾ツアーだなんて!」となじられているような雰囲気で顔を見られ、撮影され、次に指紋を採取される段になり。採取の際、自分の両手の人差し指をカメラに当てるのですが、これがまたなかなかうまく撮影出来ないのです。カメラがピッと小気味良い音を一向に鳴らさないのです。「オレの指紋、頑張れ!己の刻んできた44年の歴史をレイコとカメラにぶつけろ!」とマイ人差し指をこれでもかとグイグイカメラに押し付けているとレイコから「左手っ!」と体言止めによる上からの命令が飛び。思わず「は、はいっ〜!」とビクッとしながら左手の指をさらにこれでもかとカメラに当てるとピッと鳴り、ようやく撮影が成功したらしく。「もういいわよ、行きなさい!」とレイコ先生に言われ、「はいっ!う、うわ〜ようやく終わった〜」とホッとしながらエスカレーターを降り、待っていたみんなと合流し、さあタクシーに乗ろうかという段になってある異変に気付いたのです。そう、私のパスポートが手元にないのです。先ほどレイコ先生から戻されずにゲートをくぐり抜けて来てしまったのです。
「おいおいおいおいおい、マジかっ!」となり、急いで戻ろうとするも警備の人たちに「ここからはもう戻れないぞ!」と何度も止められたのですが、その度に「こちとらパスポートが戻って来てないんじゃ!ボケ!緊急事態なんじゃ!!」とルー大柴並みの英語力を駆使し各地をするりと潜り抜けながら先ほどのゲートまでダッシュで戻り。ハアハアと息を切らせながら再びレイコ先生のところへ行き、「あの〜私のパスポート戻されてないんですけどっ!?」と言うと、レイコ先生はこちらを振り返り、「遅かったわね」みたいな表情の後、指でメガネをくいっと上げながらニヤリと笑みを浮かべ、「1番ゲートにあるから取りに行きなさい〜」と静かに言うのです。何じゃその放置プレイは!ていうかパスポート渡し損ねたのならその場で声掛けて呼び戻せや!何笑みを浮かべながらこちらの動揺を眺めとんねん!メガネをくいっと上げながらニヤリじゃねーよ!こちとらパスポートなしで移動しちゃうところだったんだぞ!わーんわーん!と(心の内に)叫びながらダッシュで1番ゲートに走り、「私のパスポートがここにあるって聞いたんですがっ!?」と問うと担当の人がデスクに無造作に置かれたパスポートを手に取り「え、これお前のか?」と見せると確かに私の物であり。「イッツマイン!!」とルー大柴の如きテンションで叫びながらダッシュで担当者の手から奪い取り、私のパスポートは無事手元に戻ったのでした。いやー危ないところでした。レイコ先生の放置プレイに弄ばれ、興奮する人もいるのでしょうが(いるのかしら)、私はもうこの手の授業はノーサンキューだと思った次第です。
そんなレイコ先生の個人授業を終え、一行はようやくタクシーで宿泊先に向かいまして。車中から看板に並んだ漢字の数々を見て「あ〜、台湾に来たんだな〜」と実感しましたね。この間ラトヴィアに降り立った時とはまた違う感動がありました。やがて到着した宿泊先は入口こそ古めかしい感じでしたが中は小綺麗なとても良い感じのホテルで。(今回岩崎さんが宿泊先を全員分手配してくれました。)みんなチェックインし、いざ自分たちの部屋に入ろうとしたのですが、ここのドアの鍵がなかなか開かないのです。何度どう回してもビクともしないのです。「オレの腕、頑張れ!己の刻んできた44年の歴史をドアと鍵にぶつけろ!」とこれでもかと鍵を回すのですが開かないのです。「ゆうくんは鍵開けるの下手だな〜」と代わりにあやが開けようとするもやはり開かないのです。これは「五十嵐に台湾のホテルの部屋に入らせないの会」の会員による妨害なのか?ひょっとしたらレイコ先生のSプレイがここにまで及んでいるのか?いずれにせよ部屋に入らないことには休めないぞとあせり、再度フロントに戻り「鍵が開かないんですけど?」と言うとフロントの可愛いお姉さんが「では一緒に部屋まで行きますね!」と付いて来てくれて。お姉さんは私のギターケースを見て「バイオリンですか?コンサートでいらしたんですか?」と聞くので「いや、これはギターです。今回はバンドのツアーで来たんです。私はギターを弾くのです。ふっふっふっ」と話しながら「台湾の美人ホテルマンと会話する日本のギタリスト」をつい小粋に演出してしまったのですが、それくらいの小粋は許して欲しいものです。なにせレイコ先生の地獄授業の後ですもの。結局鍵はお姉さんに開けてもらったのですが、この鍵はクセが強いらしくその後も度々開かなくなり、何度かトライするうちに開けるコツがわかりました。まあこういうのも旅の醍醐味というものです。
そしてようやく荷物を置いた一行はツアー最終日にライブをする予定のBoven雑誌図書館という書店に機材の下見と挨拶を兼ねて行くことにしまして。MRTという地下鉄に乗って移動したのですが、旅慣れたあやこさんがみんなに悠遊カードなるものを買って配布してくれまして。これは日本で言うPASMOみたいなカードで、これにチャージするとコンビニなどでの買い物でも利用出来るのです。それを改札にかざし、地下鉄で移動する草テン一行。早速ツアーぽい雰囲気になって来ました。ちょうどラッシュ時だったのか電車内はなかなか混んでおり。あやこさんによると「台湾では地下鉄は飲食禁止」とのことで、国によってルールが違うのだなあと思った次第です。
そして着いたBovenはお洒落なブックカフェで。店内には日本の雑誌がたくさん並べられているのです。こんな素敵な場所でライブをするのか〜と数日後の自分たちを想像して身の引き締まる思いがしたのですが、同時に楽しみにもなり。スタッフさんたちに挨拶し、機材の確認をし、記念撮影もし、会場を後にしました。そして敏腕ガイドのあやこさんに連れられ、お楽しみの夕食タイムになり。そこから10分ほど歩いて行った先はあやこさん推薦のお店ということで人気店なのか平日なのに混んでいて、しばらく待ってから入店したのですが、小籠包などどれも美味しくて満足でした。(この日はあやの誕生日だったのでお祝いも兼ねて乾杯しました。)台湾ビールも飲みやすくて、滞在中はずっと台湾ビールばかり飲んでおりました。メンバーみんなのテンションも美味しい台湾料理によって保たれておりました。ツアーに於いて食は大事なのだなと実感した次第です。台北の街は車も人通りも多く、たくさんのスクーターが溢れんばかりに道路を走っており、20年前に台湾に来た時と変わらない光景だなと思いました。(1台のスクーターに3人乗って爆走している様は爽快でした)
そして満腹でホテルに戻り。ようやく旅の初日は終わりました。寝る前には「この旅が夢になるといけねえ、否、レイコ先生の地獄授業はむしろ夢になってくれい」と逆芝浜状態を望みながら眠りにつきました。
草テン台湾ツアー、明日からがいよいよ本番なのです。