演芸と音楽 貸切り図書館68冊目

 

 

先日は貸切り図書館68冊目、直枝政広さんのライブにたくさんのご来場ありがとうございました。moln的にはタカテツさんの翌日に直枝さんという実に濃ゆい2デイズでしたが、たっぷりと堪能させていただきました。前日の江ノ島カーネーション公演と連続して来られた方もいたようなので、お客さん的にも濃ゆい2デイズだったことでしょう。

直枝さんは最近アコギの音をラインで出すのが嫌になったそうで、出来るだけ生の鳴りを聴かせたいと今回マイクで音を拾ったのですが、アルペジオストロークの強弱やプレイの細かいニュアンスが生々しく伝わって来て、すごく良かったですね。歌唱の凄みも部屋で聴いているかのように間近で体感出来ました。

リハの時に「明日は満月だそうですよ」という話をしたら「あ、じゃああの曲やろう」と歌詞に満月が出て来る「LOVERS & SISTERS」を歌ってくれましたが、基本弾き語りのセットリストは客席を見ながら全部その場で選んで決めているのだそうです。そんなセトリですが、弾き語りバージョンで初めて聴いた「サンセット・モンスターズ」も感動的だったし(暑い&熱い野音を思い出しました)、「Strange Days」「十字路」「やるせなく果てしなく」などみんな良かったのですが、何よりもこの日の「ANGEL」は胸を打つ名演でしたね。本の紹介のくだりでは演芸の話題が多かったですが、まさに落語家の名人芸を見ているかのようでした。語り、息遣いに生き様が現れているなあと。直枝さんご本人も「今日のANGELは良かった〜」としみじみ仰っておりましたしね。

今回直枝さんは本の他にもDVDやレコードも持って来てくれて、色々と紹介してくれました。(以下、リストは直枝さんのインスタからの引用です。)

 

「赤めだか」(DVD)
二宮友和、ビートたけし主演 TVドラマ版
昭和元禄落語心中」(TVドラマ)
「やっぱ志ん生だな!」ビートたけし(書籍)
立川談志と落語の想像力」平岡正明(書籍)
「野ざらし」三代目 春風亭柳好(LP)
カーネーション 35周年記念パンフレット
「~35 YEARS OF CARNATION~THE BOOK OF SUNSET MONSTERS」(書籍)
中央公論」1960年12月号 (雑誌)深沢七郎「風流夢譚」掲載号
「講談入門」神田松之丞(書籍)「週刊文春WOMAN」(雑誌)「地べたの二人」玉川太福(CD)「木馬亭浪曲師たち」(DVD)「Elliott Smith Songbook」(書籍)
「時間は実在するか」入不二基義(書籍)
落語を愛する直枝さんはかつて本気で小三治師匠に弟子入りも考えたくらいだそうで、今回は落語を題材にした作品をたくさん紹介してくれました。談志師匠は当時生で見ることが叶わなかったので、後追いで本や映像で勉強しているのだそうです。歌に関しては自分が作っているものなので自己流で表現するだけですが、落語は代々古典を引き継いで時代に合わせて表現していくという難しさがあり、それを追求する姿に憧れを覚えると語ってくれました。直枝さんは噺を身体に入れるとはどういうことなのかを考え、三代目春風亭柳好の「野ざらし」を車の中で繰り返し聴きながら練習して、遂には「身体に入れた」のだそうです。客席からも「聴きたい〜」と声が上がっていましたが、直枝さんバージョンの「野ざらし」をいつか聴ける日が来るのでしょうか。(以前ポップ鈴木さんに落語をやらないかと誘われたこともあったそうですが。)いっそmolnで高座を作って本気で直枝さんの落語会を企画しようかなとちょっと思ったりした私です。直枝さんは以前の貸切り図書館でも上林暁の小説「花の精」を丸々書き写して文章を身体に入れたと語ってくれましたが、表現の会得のためにコピーするという行為が直枝さんにはきっと必然としてあるのでしょう。作品を客前で仕上げていくという一人芸として、落語に学びながら弾き語りを極めていきたいとのことでしたが、この日の「ANGEL」にはその直枝さんの「芸」がまさに現れていたように思います。素晴らしい弾き語りでした。
あとは去年のカーネーション野音公演で販売されたパンフレットの裏話や(本当にギリギリ進行だったそう)、たまたまmolnの隣の古本屋で買った中央公論の話から語ってくれた深沢七郎のエピソードなども面白かったですね。
あと直枝さんは落語の他にも講談、浪曲にも興味があるそうで、神田松之丞さん、今度カーネーションと共演する玉川太福さんを強く推しておりました。神田松之丞はラジオでの強烈な毒舌と小気味好いトークが人気ですが、直枝さんは「対談に於いて人から話を聞き出す手腕に優れている」とか、「講談の面白さを伝えようとする意識の高さが素晴らしい」とか、芸の観点からきちんと彼を評価していて流石だなと思った次第です。私も神田松之丞さんのラジオを毎週聴いていますが、「おもろいな〜」とただただケラケラ笑ってるだけですからね。玉川太福さんはサンキュータツオさんが絶賛していたので気になっていたのですが、直枝さんも推しているとなればチェックせねばと思いました。演芸界の若い才能をきちんと押さえている直枝さんのアンテナが素晴らしいなと思いましたね。2人とも音源をサブスクで聴けるとのことなので、気になった方はチェックしてみてはいかがでしょうか。
あとエリオット・スミスのスコアはライブで彼の曲をカバーするのに参考にしたとのことで、今回も歌ってくれましたが、やはり学ぶ際には一度身体に入れるという行為が必要になるのだなと思いましたね。
直枝さんはライブの終盤で、今も13歳の時の気持ちのままで物を作っていると語っておりましたが、作品の瑞々しさや演芸や文学、音楽へのあくなき探究心など、まさにそうなのだろうなと思いました。そこに年齢や経験を重ねた円熟が加味されてますます深い表現になっていくのではないでしょうか。直枝さんが70代になってからの「ANGEL」はどんな表現になるのだろうかとふと想いを馳せた私です。
 

私も落語が好きなので、終演後には直枝さんと落語の話で盛り上がりました。そもそも神田松之丞をラジオパーソナリティに抜擢したトナミディレクターが凄いとか、あの回は神回だったとかラジオの話も出来て楽しかったです。直枝さんの落語もいつか聴いてみたいものです。直枝版「野ざらし」の初披露の機会は果たしてやって来るのでしょうか。楽しみに待ちたいと思います。

 

深い話がたくさん聴けた貸切り図書館、ぜひ次回もお楽しみにということで。

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