地図の上のサウダージ 貸切り図書館70冊目

先日は貸切り図書館70冊目、yojikとwandaさん、NRQさんのライブにたくさんのご来場をありがとうございました。ヨーワンさんがmolnに出演するのはもう3回目でしょうか。今回はイトケンさんも加わってフルバンド編成で出演してくれました。3曲も披露してくれた新曲はどれも良かったし、2人の息の合ったハーモニーに寄り添い、時に暴走する吉田さんの二胡、服部さんイトケンさんのしなやかなリズム隊も素晴らしかったです。歌詞に図書館が出て来る「ブライアンイーノ」という曲がカーティスのようで、実にかっこよかったですね。私がリクエストした超名曲「I Love You」にも落涙しました。(聴くと毎回泣いちゃうんですが)本の紹介ですが、wandaさんは雑誌「STUDIO VOICE」の「Flood of Sounds from Asia いまアジアから生まれる音楽」という特集を紹介してくれました。いまどき雑誌で音楽を紹介するなんて珍しいと手に取ったそうで、久々に雑誌を買った体験と音楽を知るツールがネットになって久しいというリスナーとしての雑感を語ってくれました。コラムのようなその語り口がwandaさんらしくて良かったですね。
yojikさんは町田尚子著「ネコヅメのよる」という絵本を紹介してくれ、朗読もしてくれました。猫の描写のアングルや夜の色味が迫力あって強く惹かれる本でしたね。yojikさんは仕事で子供の本の編集に携わっており、よく「子供たちが怖がるので暗い色は使わないで欲しい」というクレームを受けるのだそうです。自分は幼い頃に絵本の暗い世界に惹かれたし、子供の読むものが明るい健全なものだけでは感性が育まれないのではと違和感を抱いたという話をしてくれました。私も絵本など子供向けの本の夜の暗い世界の話にときめいたものでしたが、そんなクレームが来て作品作りに配慮されてしまうのは勿体ない気がしてしまいますね。「ネコヅメのよる」は猫好きにはたまらない怪しさがあって、手に取ってみようと思いました。
イトケンさんは普段あまり本を読まないけれど、安部公房だけは大好きで最近は全集まで揃えているという話をしてくれました。イトケンさんとは付き合い長いですが、安部公房好きだとは初耳でした。教科書に載っているのを読んで興味を惹かれたのだそうです。安部公房はシンセを使って音楽も作っているとのことで、後で検索したら本人と機材の映っている映像がありました。安部公房の機材をいじる姿はどこかイトケンさんに通ずるものがありましたね。
そして続いての登場はNRQさんです。昨年リリースされたアルバム「レトロニム」も素晴らしく、ぜひまたお呼びしたいと思っていたのでライブが実現して嬉しかったです。二胡とサックスとギターが奏でるいつの時代かどこの国籍かわからないけど、どこか懐かしいメロディーに惹かれてしまうのです。これをサウダージと呼ぶのでしょうか。グレッチをアンプ直差しの牧野さんの職人のようなギタープレイも良かったし、中尾さんのハイハットのキレの鋭さも凄かったです。(中尾さんのドラム聴くといつもチャーリーワッツを思い出します。)NRQの音楽を聴く度に、旅の途上にこういう曲が流れていたような気がすると旅の光景を回想してしまうのです。そして人生は旅であるとその旋律を聴きながら実感するのです。本当に素晴らしいライブでした。
本の紹介のくだりでは、まず服部さんが奥さんの実家から発掘したという「懐かしのメロディー66」という手のひらサイズの歌本を紹介してくれました。こういうコードも載っていない、歌詞だけ書かれた本で歌を共有出来た時代があったのですね。(と、解説を振られた中尾さんが語ってくれました。)
吉田さんは保坂和志著「カンバセーションピース」を紹介してくれました。この小説、何てことのない会話の連なりが主な内容ですが、作中に出て来る横浜ベイスターズについての会話に吉田さんがファン目線からツッコミを入れていて面白かったですね。野球好きが読むとそういう感想を抱くのかと新鮮でした。
牧野さんは本の現物を忘れて来たものの、内容だけ紹介してくれました。ナショナルジオグラフィック社から出ている「世界をまどわせた地図」という本で、古今東西に存在した嘘偽り、誤り、妄想、でっち上げなどによる幻の地図を紹介しているのですが、実際2000年代にメキシコ近辺にあるとされていてグーグルマップにも載っている島が存在していなかったことがわかり、マップから削除された例なんかもあるそうです。最近でもそんな話があるのだから過去にはあり得ない形の地図がたくさん出回っていたことでしょう。世界各国で地図に主観を入れていた時代があったはずです。聞いていてかなり興味を惹かれましたね。
中尾さんも牧野さんに続き本を忘れて来たのですが、さらにはタイトルも作者も忘れたという話には笑いました。内容だけ紹介してくれて、「タイトルは各自調べて下さい」とのことでしたが、調べたらおそらくラルフ・ジョルダーノ著「第二の罪 ドイツ人であることの重荷」という本のようですね。ヒトラー支配下での罪を心理的に否定する第二の罪についての話で、「ヒトラーもそんなに悪くなかった」と肯定することが罪であるというジャーナリストによる提言が書かれているようです。紹介にもメンバーの個性が出ていて面白かったですね。
最後の両者によるセッションもそれぞれの個性が出ていて素晴らしかったです。yojikさんの歌う「のーまんずらんど」では牧野さんがリハでイトケンさんに「めちゃくちゃに叩いて下さい」みたいな注文してて、実際本番でめちゃくちゃにかっこよく崩して叩いていたの最高でしたね。「それいけ探検隊」という曲では牧野さんのギターもyojikさんのリコーダーも炸裂していたし、みんなの掛け声も決まっておりました。先ほどの地図の話じゃないですが、幻の地図を片手にバンドが探検に出かけているような勇ましさと楽しさがありました。
yojikさんが服部さんのことをひそかにハッチと呼んでいるという話から、ヨッチだのマッチだのNRQ内でニックネームをつけ合う展開になったり、両者の良き関係が演奏に現れていてとても面白かったです。良きライブでした。
貸切り図書館、次回は3月16日ゲストに次松大助さん(THE MICETEETH)、難波里奈さん(純喫茶コレクション)を迎えてお送りします。こちらもぜひよろしくお願いしますということで。f:id:fishingwithjohn:20190212151516j:image
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