純喫茶空間と文体と音楽 貸切り図書館71冊目

ちょっと時間が経過してしまいましたが、先日行われた「貸切り図書館71冊目〜純喫茶トーク&ライブ クリームソーダ編」にたくさんのご来場をどうもありがとうございました。難波里奈さんによる純喫茶トークと次松大助さんの弾き語りライブ、どちらも素晴らしく聴き応えありました。

難波さんはこれまで1700軒以上の喫茶店を訪ね、純喫茶についての本も多数出版されており、沼田元氣さんから東京喫茶店研究所2代目所長を受け継いだという真の純喫茶マスターなのです。そんなお方の純喫茶トークが面白くないわけがないのです。難波さんはスライドでお勧めの喫茶店や名物マスターの写真コレクションなどを紹介してくれたり、90年代に発売されたコンピCDシリーズ「喫茶ロック」のジャケットに使われたお店の現状を追跡したレポを聞かせてくれたり、純喫茶にまつわる興味深い話満載でした。また閉店が続く老舗喫茶店についても触れられ、好きな店には行ける時に行っておかないと二度と空間を味わえないという主張には深く頷かされるものがありました。この日は純喫茶好きなお客さんが多く、みなさんメモを取ったりしながら熱心に聞いていたのが印象的でしたね。難波さんは単独でのトークも上手ですが、次松さんとのトークでも彼の読書観や言葉について興味深い話をたくさん引き出していて、とても面白かったです。(本でも新聞でも広報紙でも人が校正した文章を読むのが好きという次松さんの姿勢に真の読書家だなという印象を持ちました)

そんな次松さんのライブ、ボーカリストのイメージが強かったんですが、ピアノの演奏もとても素晴らしく、魅了されました。マイスティースのファンである私からしたら今回難波さんとの縁で生で歌声を聴けて感涙でした。(先に難波さんをお誘いしたら彼女が次松さんを指名してくれたのです。)

ちなみに今回次松さんが紹介してくれた本は

悪童日記アゴタ・クリストフ

「季節のない街」山本周五郎

「芽むしり仔撃ち」 大江健三郎

イスラエルに揺れる」東野翠れん

「ギッちょん」山下澄人

「水銀灯が消えるまで」東直子

というラインナップでした。

次松さんは物語というよりも文章の言語感覚に惹かれるのだそうで、「悪童日記」はハンガリー出身の作者がスイスに亡命し慣れないフランス語で書いたという作品で、その慣れない言語による文体が心地良いとのことでした。東野翠れんさんも日本人とイスラエル人とのハーフの方で、少し片言ぽいような日本語感覚に魅力を感じるのだそうです。大江健三郎も言葉と言葉の組み合わせの妙に惹かれるし、山本周五郎は整った文体が読むのに気持ち良いとのことで、マイスティースの歌詞って意外な読書体験から生まれているのだなと聞いていて新鮮でした。(山本周五郎の文章は「バッティングセンターで気持ち良くボールを打ち続ける感覚ですいすい読める」という独特な表現されていて面白かったです。)山下澄人も独自な文体だし、歌人東直子も女性性が溢れる言語感覚に惹かれるとのことで、物語性よりも文体で文字を追うのに快感を覚えるというスタンスは、旋律ではなく楽器群の音色、サウンドの方に気持ち良さを感じる音楽家ぽいアプローチなのかなとちょっと思ったりしました。今回次松さんはピアノのインスト曲をたくさん演奏してくれましたが(多分即興部分が多かったと思うのですが)、そういう独自な言語の並びの心地良さみたいなものをピアノで表現していたのかなと思ったりしました。素晴らしかったです。

ライブ中、ステージドリンクが水かと思ったら実は焼酎だったという(難波さんが暴露してました)次松さんと打ち上げで飲んだのですが、真の酒飲みであることがひしひしと伝わって来て最高でした。難波さんも喫茶と共に酒もいける人で最高だなと思った次第です。(そこか。)難波さんは普段サラリーマンとして働きながらたくさんの純喫茶を訪れ、著書を何冊も出されていて、そのエネルギーに感心してしまうのですが、本当に純喫茶が好きだからこその活動なのだなと今回お話を聞いていて思いました。好きを原動力に活動する強みを感じ、私も見習わなければならないと思った次第です。

貸切り図書館、次回は4月7日に青木慶則さん、杉瀬陽子さんをゲストに迎えてお送りします。ぜひこちらもよろしくお願いしますということで。f:id:fishingwithjohn:20190330192247j:image
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