アオハル探偵物語

先日の早朝、ゴミを出そうと家を出たら数メートル先の河村さん(仮名)のお宅の前に見知らぬ車が止まっており。果て、こんな朝早くに誰が訪ねて来たのだろうと思って後ろから見ていると運転席から煙がぷかぷかと出ているのです。運転手が煙草を吸っているのです。夏の朝の爽やかな空気を台無しにするようで「やれやれ誰だよ煙草吸ってるのは〜」と少しいらつきながら車を追い越しゴミを捨てて。踵を返して戻ろうとするとその車がこちらに向かって来るのです。運転席には若い男の子がひとり乗っており、これから帰るところなのでしょうか。その車を横目に見送り河村さんのお宅の前をふと見ると、ひとりの女の子が一心不乱に手を振ってるのです。先ほどすれ違った車に向かってバイバイをしているようなのです。その女の子は河村さんの娘さん(多分大学生くらい)で、おそらく自宅まで男の子の車で送ってもらったのでしょう。ゴミ捨てを終えて戻って来る私のことなど眼中になく、その先の車を見送りながら懸命に手を振るその姿はまさに恋する女の子のキラキラに満ちており。「ははーんこれは彼氏に自宅まで送ってもらっての朝帰りだな!」と恋愛探偵五十嵐はピンと来たのですが、いかんせん寝起きでよれよれのトレーナーを着た小汚いご近所のおじさん状態の私です。朝からふいにアオハルな光景を目にして面食らってしまい、娘さんとすれ違い様に「お、お、お、おはようございます!」とDJのスクラッチのような不審者然とした挨拶をしてしまったのですが、その娘さんが素晴らしいのは近所の小汚いおじさんa.k.a恋愛探偵五十嵐に朝帰りを目撃されたのに、堂々と彼氏の車が見えなくなるまで手を振り続けていたことなのです。その姿を見ながら私は「嗚呼、彼女は本当にあの彼のことが大好きなのだなあ」と朝から感動してしまったのでした。女の子が好きな彼氏を見送る姿ほど美しいものがあるでしょうか。しかもキラキラと輝く夏の朝に。

夏の夜のストーリーをふたりで作りあげた帰り道の朝。彼女の自宅前に車を止めて「昨夜は楽しかったね」などと思い出を語る彼氏。助手席にはまだシートベルトを外したくない、名残惜しい気持ちの彼女。運転席でおもむろに煙草を吸う彼。昨夜からの特別な空気をまだ味わっていたいという気持ちから煙をくゆらせたのでしょうか。夏の朝の空気に消えて行く煙。魔法のようなふたりの物語は永遠だよね、インスタのストーリーのように一日で消えたりしないよね、と切ない想いの彼女。彼氏は「じゃあ俺、バイトがあるから帰るね」とエンジンを入れ、彼女は車から降りて「気を付けてね!」と別れを告げるのです。恋するふたりのキラキラでサイダーのように弾ける朝の空気。彼氏の車が去って行く後ろ姿に向かって「じゃあね〜!」と手を振る彼女。手がちぎれんばかりに一生懸命に手を振り、この気持ちって本当(リアル)だよね、と問う彼女。その横をよれよれのトレーナーを着た寝起きの小汚い近所のおじさん(a.k.a私)が通り過ぎて台無しにしてしまったのです。今なら言えるのですが。その気持ち本当(リアル)だよと!
私だったらご近所さんに朝帰りを目撃されたらバツが悪いので、「じゃ!またラインするから!」とそそくさと下車して、もし小汚い近所のおじさんとすれ違ったら「おはようございます…」と人間に感知されぬレベルの周波数の小さな声でささやき、忍びの者の如く去ってしまうだろうと思ったのですが、彼女は車が見えなくなるまで堂々と手を振っていたのです。もうおじさん泣きそうです。キラキラに押しつぶされて。
最近FODにてドラマ「北の国から」を見直している私なのですが、運転席で煙草をくゆらせる彼氏とか、見えなくなるまで手を振る彼女とかの描写がリアルに「北の国から」の演出のように思え、本当(リアル)の恋愛ってこんなドラマチックなのだなあと感心してしまった次第です。

ご近所さんa.k.a恋愛探偵五十嵐としては今後も河村さん(仮名)の娘さんの恋愛事情を注視して行く所存です。コロナ禍で会えなかった恋人たちには辛い時期だったことでしょう。手を振って見送る彼女たちに幸あれと祈るばかりです。そんな7月の終わりです。f:id:fishingwithjohn:20200727211331j:image
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