「14.8℃カマクラ」古川誠さんからのコメント

fishing with johnの新譜「14.8℃カマクラ」が発売になり、「毎日聴いています」とか「とても心地良いです」とか色々感想をいただいております。インストなので歌ものと違って歌詞を考察するとか、一緒に口ずさむとかのアプローチが出来ない分、どう聴いて良いのか迷う方もいるかもしれないですが、何も考えず聴いていただければと思います。作業中のBGMとして何となく耳にして心地良いとか、街歩きのBGMとして普段見ている景色が少し変わるとか、そんな感じで日々に鳴らしてもらえたらと思います。もちろんヘッドフォンをして繊細な音の構築をディープに楽しんでいただいても良いですし。

今回アルバムに向けて元オズマガジン編集長、現メトロミニッツ編集長の古川誠さんにコメントを寄せていただきました。私に近しい人の中で最も美しい文章を書く人が古川さんで、編集者としての鋭い視点に加え、自身も小説家として本を出版されたり、ブランドを立ち上げTシャツを販売する表現者としても豊かな才能を発揮されている古川さんにぜひアルバムに向けて言葉をいただけたらと思いお願いしました。旅先で何度も聴いてくれたという古川さんの美しい言葉に、このアルバムを作って本当に良かったと報われる思いがしました。言葉のないインスト音楽は聴く人の感性やイメージに頼る部分が多いのですが、古川さんの言葉にはこのアルバムを深く味わうきっかけのようなものがあるように感じます。「知らない町の誰かの日常が、色を得て動き出す。」という文末の一節はそのままこのアルバムのキャッチコピーになり得ると思いました。古川誠さん、本当に素敵な言葉をありがとうございました。

 

日本中のあちこちの知らない町を歩くのが好きです。

新幹線の車窓に流れる景色の向こうにある家々の暮らしを思うのが好きです。

月夜を歩くときに、あの人はどこかで見ているかなと思うのが好きです。

アルバムを聴くたびに、ここではないどこかのことを思いました。

1曲1曲に、世界があった。

ある町には雨が降っていて、ある路地では猫が日向ぼっこをしている、

ラーメン屋で漫画を読みながらラーメンをすする人がいて、

駅前でティッシュを配っている若者は絶望的な片思いをしている。

そうしてそれは同時並行的に、この広い世界のなかにある。

世界が多面的で多義的であること。そのシンプルなルール。

アルバムを聴きながらずっと感じていたのは、そのことでした。

それがどうしてかはぜんぜんわからないけど、

答えがあることが正しいこととはちょっと違うから、

僕はわからないまま、また1曲目に戻る。

知らない町の誰かの日常が、色を得て動き出す。

 

古川誠(編集者・小説家)

 

 

 

 

 

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