「14.8℃カマクラ」ミルブックス藤原康二さんからのコメント

fishing with johnの新譜「14.8℃カマクラ」に向けて色々な方からコメントをいただいておりますが、今回はミルブックス藤原さんがインスタグラムに書いてくれた感想をご紹介したいと思います。(感想をここに掲載しても良いよと許可をもらいました。)

藤原さんとは近年落語をよく見に行く仲で、「こんな良い公演がありますよ」「春風亭一之輔のチケット取れましたよ」とかちょこちょこ誘ってくれるので、毎回我々夫婦と藤原さんと藤原さんの知り合いの方など3,4人で落語を見ては食事をするというふわっとした落語サークルみたいな感じになっていたのですが、それもコロナの影響でぱったりと機会がなくなってしまったのが残念でなりません。落語を見終わった後に藤原さんによるネタの解説など聞きながら酒を飲むという時間が小粋でとても心地良いのです。コロナで失われた豊かな時間のひとつと言えるでしょう。落語だけにコロナも早くオチ着くと良いのですが。
藤原さんはご存知ひとりでミルブックスという出版社を運営しており、年に数冊というペースで良書を生み出しているわけですが、考えてみたら私もカマクラ張子として2年前に独立してひとりで運営しているし、fwjもソロユニットとして基本ひとりで活動しているわけです。ひとりで物を作るというのは自分の思想とか情熱とかセンスや力量などすべて注ぎ込むということで、結局アーティストなるものは根本には自分の身ひとつだなと思うのです。ひとりゆえ責任も全て自分で負うわけで、覚悟を持って仕事をしなければならないわけですが、藤原さんの仕事を見ていると同じひとり仕事人としてとても刺激を受けるし、共感もするし尊敬の念を抱くのです。藤原さんは編集という立場なので、筆者の個性を上手に立てて引き出すという立場なわけですが、ミルブックスのラインナップを見ているとどこか共通したカラーが見えるし、しなやかな強さも感じます。それが藤原さんの個性なのでしょう。かといってミルブックスの本はどれも我の強さを感じさせないし、むしろ手に取る人に寄り添った優しさを感じるのです。本の値段を抑えるためにこういう工夫をしたとか、印刷所と掛け合ってこの方式にしてみたとか、こういう宣伝を仕掛けてみたとかよく食事の際に裏話を聞くのですが、自分も物作りに於いてそうしたアプローチをしてみようとか、個人的にヒントをもらったりしています。私の「世界一猫が好きな張子作家」というキャッチも藤原さんに付けてもらいました。(実際そうなので間違いではないのです。)
去年コロナの影響もあり自宅で映画をたくさん見たのですが、ジム・ジャームッシュ監督の「パターソン」という作品が一番印象に残りました。郊外の街でバス運転手として働く主人公の何てことのない日常を綴った作品なのですが、妻と食事したり仕事でバスで街を走り回ったり犬の散歩をしたりバーでビールを飲んだりする傍ら、ノートに自作の詩を書き綴るのです。詩を発表して承認されたいとか、これで名を上げてやるとかの野心ではなく、誰に見せるでもなく美しい言葉を探し詩を書く毎日。私はここにアートの本質や豊かさがあるような気がして、映像の美しさも相まってとても感動しました。そしてfsihing with johnの音楽はパターソンが詩を綴る日常でささやかに鳴っていて欲しいと思いました。そういう音楽を愛でてくれる人が世界にたくさんいるとも思っています。またパターソンみたいな人が手に取るのがミルブックスの本なのではないかと思ったりもします。
molnのお客さんが関心を持ってくれて、ぽつぽつCDもお買い上げいただいているのですが、中には「とても良くて毎日のように聴いています!」とか熱い感想をくれる方もいて、おそらく音楽に詳しいわけでもないであろう人にこんなジャンル分けしずらい歌詞のない音楽が響くこともあるのかと思うと嬉しくなります。詩を褒められたパターソンのような気持ちです。そういえばパターソンが詩を書き留めた紙を愛犬がくしゃくしゃに破いてしまったくだりは自分が録音したデータがパソコンの故障で消失した時の気持ちと重なり、そのやるせなさが伝わりました(笑)。
また落語を見に行く豊かな時間が戻れば良いなと思っています。

 

 

美味しいコーヒーや紅茶みたいな音楽だと思いました。
なかなかやめられない人も多く、それで身を滅ぼしてしまう人もいるお酒のような中毒性はない。
水のように生きていくために絶対に必要でもない。
だけど、毎日のように飲んでいる、コーヒーや紅茶。
きっと、なくても生きていけるけれど、それがあることで毎日がちょっとだけ楽しくなる。毎日聴き続けられる。そんなアルバムだと思います。


ミルブックスが作っている本とどこか似ているのかもしれない。


最近忙しくて、音楽なんてゆっくり聴いてないなって人におすすめしたいです。聴いて何かが変わるわけではないけど、日々が豊かになる音楽です。

藤原康二(ミルブックス)

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