愚か者のダンス

今頃がバーゲンの季節であるなと私にも伺い知れるのは
「おかいものっおかいものっ」と熊みたいな生き物がデパート内でご陽気に歌うためであり、
獣であるところの熊でさえショッピングに興ずるのであれば私が興じても良いのではないかと
仕事終わりに洋服屋さんに足を踏み入れてみたところみなシャツやズボンなどを熱く物色し、
熊の如きテンションで「おかいものっ」とダンスしているので、
私もついその熱気に押され何か小洒落たアウターだのインナーだの購入してみようかと挑むも
服を手に取り「洋服くーださいっ」と告げてすぐに買えるものでもなく(買えるんでしょうが)、
試着してサイズを見たり自分に似合うのか一応見定めなくてはならないわけであり、
「これより下のサイズだときついですかね?」だの「これの色違いってありますか?」だの
それなりのやり取りを経ていざ購入に至るみたいなイメージが私の中にあり、
それが何だか面倒だという思いが常にどこかにあり。
しかしそれを乗り切らないと新しい服が買えないのであり、毎回同じ洋服でステージに立つと
「五十嵐はいつも同じシャツに同じカーディガンを羽織っているな」
「あれ以外の洋服を持っていないのであろう」
「愚かだなあ」「うん、愚かだ」
と、熊じみた生き物に「おろかものっおろかものっ」とご陽気に歌われてしまう恐れがあり、
それは避けたいなあというレベルくらいの洒落っ気は持ち合わせているわけで。
うちのfwjバンドの面々は毎回会う度に服装が違うというくらい洋服持ちで、
みんないつどのタイミングで洋服を買っているのだろう、
ひょっとして空から新しい洋服が降って来るのか?と疑問を抱きながら
10年は着ている己の古カーディガンにそっと目をやるリハの時間、といった様相なのであり、
これを機におニューな洋服を買いたいものだとバーゲンのゲンバに足を踏み入れてみたわけです。
しかしバーゲンは「何?40%オフだと?4000円もお得だ!」などと値段ばかり見てしまうきらいがあり、
安いから買うのか欲しい服があるから買うのかどっちなのだと己に問い、
折角なら気に入った物があれば買おうと物色するも、いざ気に入った物は「セール対象外」と明記してあり。
「セール対象外」という言葉がこんなにも人をがっかりさせるものなのだろうかと私は嘆き、
そこのセール対象外、なぜきみはセールの対象から外れているのだ?と何度も問い、
「セール対象外の品がセール対象内に変わる呪文」を心の内に唱えてみたり、
店員さんが「五十嵐さんですね?貴方にはこの服をセール対象内にしましょう!」と
「五十嵐だけセール対象内にしてくれる奇跡」をしばし待ったりしてみるも、
そんな奇跡はなかなか起こらず。
そんな奇跡を待ちながら水族館の水槽をぐるぐる回遊する魚の如く店内を回り、
まあこれなら購入しても良かろうと思うお手頃なカーディガンじみた上着を手にし、
マッハの勢いで試着し、サイズだけささっと確認し、
こ、これ下さい!とマッハの勢いで購入に至り、何とかバーゲン初めに成功(?)を収めたのですが、
私が洋服をあまり持っていないのは店で買うのが苦手だからだと認識していただければ幸いです。
新年早々そんな言い訳を述べながらカーディガンじみたニュー洋服に袖を通し、
ライブに臨もうかと目論んでいる私です。