ポケットのエンジェル

このところずっとレコーディング作業に集中していて、
ギターフレーズを何回も繰り返し弾き、録っては消し録っては消し、
絵の具を塗り重ねるように音を重ねて曲に仕上げていく過程にいるのですが、
なかなか思うようにいかないものです。
こんだけやってまだこれしか出来ないのかと己の歩みの鈍さに愕然としつつ、
でもやるしかないもんなあとまたPCの画面に向かうといった具合です。
来週にはライブが2本入っているので久々に人前で演奏をするのですが、
録音作業で丸まった背中を伸ばしつつ楽しみたいものだと思う次第です。


最近どうもポケットから鍵を落とすことが多く、
注意散漫になっているのだろうか、
鍵をよく落とすお年頃になったのだろうか(どんな年頃だ)と不思議に思っていたのですが、
よくよく調べていたら右のポケットの奥に小さな穴が開いていて、
そこから重たい鍵が落下しているのだと気付くに至り、
もう今後このズボンを履く時は右ポケットに鍵を入れることが出来ないなあと思ったのですが、
そうなるとカバンに入れるか逆の左ポケットに入れるかなど鍵の定位置の変更が余儀なくされるわけで、
「鍵は右ポケット」という習慣の寸断が己に降り掛かるのであり、
しばらくはいざ鍵を使おうと無意識に右ポケットに手を突っ込んでしまう間違いが続くわけで、
そうなると面倒で自ずとこのズボンを履く機会が減ってしまうかもしれないなあと
「この選手を指名する機会が減るかもしれない」と、
チームを見ながら思う野球監督みたいな気持ちで我がズボンを見やったのですが、
ポケットに物を入れる位置の決まっている人はこういう時に困るものですね。
今更左ポケットに移動と言われてもそこには小銭入れが鎮座しているし。
困ったものです、ポケットの穴の登場は。


物を入れられないポケットは手を突っ込んで暖を取るくらいしか機能しないのだなと
その限定された機能性に思いを馳せたりするわけですが、
ビスケットが倍々に増えて行く魔法も所詮穴が開いていたら成立しないわけで、
ポケットにとって穴とは恐ろしい存在なのだなと改めて思った次第です。
魔法も消えてしまうとは。
穴の開いたポケットの虚無や哀愁を何かに例えられないだろうかと思案したところ
翼の折れたエンジェル」が思い浮かんだので、
「あ〜つばさのおれたえんじぇ〜る」と中村あゆみの歌を諳んじてみたのですが、
諳んじてみたところで穴が消えるわけでもなく。
私は今後、右ポケットに開いた穴から大事な物が零れ落ちないよう
注意しながら生きていかねばならないのでしょう。
右ポケットはそれを喚起するきっかけとして穴を私に齎したのかもしれません。
これがドラえもんのポケットだったらえらいことだったなと思いつつ、
またレコーディング作業に戻る私です。
ポケットに穴を携えて。