古本ロマン

先日は台風による大雨の中、鎌倉駅前にある古書ウサギノフクシュウさんへ行って来ました。ウサフクさんはこの日を最後にお店の営業を終えるとのことで、店主の小栗さんにご挨拶をせねばと思ったのです。ウサフクさんはmolnの並びにあるというのもあり、度々本を買ったり本を買い取って貰ったりと日頃からお世話になっていたのですが、何より小栗さんが日本のヒップホップに明るく、会うとお互い「このラッパーが良いですよ」なんて話をして交流があったのです。貸切り図書館にミュージシャンが来ると「この並びに良い古本屋がありますよ」と勧めるようにしていて、曽我部恵一さんが来た時にも勧めたらすぐにお店に行き、たくさん本を買ってくれて、曽我部さんの大ファンである小栗さんは喜んでおりました。そんなご近所さんであり、馴染みのお店であるウサフクさんが営業を終えるというのはとても残念なことです。好きなお店がなくなる度にもっと頻繁に通えば良かったと思うのですが、思った時にはもう遅いのですよね。営業最終日の少なくなった本棚を眺めながら、強くなる外の雨音を聞きながら、「もうこの光景を見ることはないのか」とさみしくなりましたが、誰よりもそう感じているのは小栗さん当人でありましょう。
もうなくなってしまったお気に入りにのお店のことは度々思い出すし、そこで買った物を見る度に自然と思い出されるものです。「ああ、これはウサフクで小栗さんから買った本だ」と今後も自宅の本棚を見る度思い出すことでしょう。紙の本の利点はそういう記憶の装置となることかもしれません。 ちなみにウサフクさんには大量に私の本を買い取って貰い、あらかたお店で売って貰ったと思うのですが、最終日まで店頭に残っていたものが1冊ありました。「あ、これ自分が売ったやつだ」とわかり、最後まで売れ残ったのは残念とちょっと思いましたが、お店の最後を見届けられたという意味では良かったのかもしれません。この本がまた別なお店の本棚に並ぶのでしょうか。そして知らない誰かの本棚へと運ばれて行くのでしょうか。そう思うと古本てロマンだなあと大雨の音を聞きながら思った次第です。
そんなロマン気分で本を見ていたら小栗さんが「五十嵐さん、この本ぜひ読んでみて下さい」と、「ラップは何を映しているのか」という本をくれまして。本を買いに来たのに本をいただくとはこれいかにという感じでしたが、ありがたくいただき、買った本と一緒に持ち帰りました。季節の終わりは次の季節の始まりでもあるわけで、小栗さんの次の季節がまた始まるわけです。本棚に並ぶ思い出を眺めつつエールを送った私です。