オープンド・マイ・アイズ

fishingwithjohn2005-03-15

なんとなくぽつりぽつりとギターを弾きながら
ふと思い出されたのがこの間新宿で見た
市川準の「トニー滝谷」という映画で、
見終わった後しばらくして印象が深まってくる感じが
今自分が作ってる曲に似ているといえば似ているので、
だから思い出されてくるのかなと思ったのですが、
きっとそういう映画だったのだろうなとか思ったりしました。
市川準の作品は「東京兄妹」とか「トキワ荘の青春」とか
どれも好きで見ているのですが、
(「トキワ荘」は阿部サダヲが藤子F不二雄役なんですよー)
一言で言うと地味。というか、
見る人によってはだからどうしたの的なものが多くて、
今回の「トニー滝谷」を見た時は正直ファンである僕も
「ふ−んこんなもんすか」というほどの感じで
帰ったのですが、どうもしばらくしてふとした時に
主演のイッセー尾形の表情とか、宮沢りえの泣き声とか、
印象が深くなってきて、「あーいい映画だったな。」
とか改めて思えてきてしょうがなくなってしまったのでした。
これは村上春樹の短編が原作なんですが、
ジャズミュージシャンの父を持つトニー滝谷という男が
ある女性を好きになって長年の孤独な生活にピリオドを打ち
結婚するのですが、この女性が異常なまでに洋服を買う人で、
家に洋服が溢れてしまうのですが、
彼女がある日事故で突然亡くなってしまって、
その喪失を受け入れるために
残された洋服を彼女の代わりに着てくれる女性をアルバイトに雇う、
といった話で、父親とトニー滝谷の二役をイッセー尾形が、
トニーの妻とその代わりに服を着るバイトの女性の二役を
宮沢りえがそれぞれ演じていて、ほとんど二人の会話と、
西島秀俊によるナレーションで構成されていて、
(このナレーションの声が実にいいんですねー)
映画というより演劇に近い作りになっているのですが、
(舞台の刑務所や事務所、キッチン、衣装部屋などが
同じような空間サイズで描かれているのです、多分あえて。)
じわじわと染みてくるいい作品だなと思いました。
異常なまでに洋服を買う女とか、何かに執着する人物って
村上春樹の作品に多く登場しますが、
女性にとっては服というものが特別なものであるというのが
ここでは重要なポイントになっていて、
妻が死後に残した膨大な(自身の抜け殻のような)服を
代わりに着てもらうべく雇った女の子が
その膨大な量の服を見て突然泣き出すんですね。
声を上げて。
これだけの服を残して死ぬなんて。
と言って。
滝谷はなんで見知らぬ人が残された服を見て泣くのか
わかりかねるのですが、
女性にはその哀しみが理解出来たということなのかなと
僕は思ったのですが、
この泣くシーンがとてもいいんですよ。
で、結局滝谷が思い直して一方的にそのバイトを取りやめて
服も全部始末してしまうのですが、
小説では最後に滝谷が孤独になってそのまま終わるのですが、
映画ではそのバイトの女性に再び電話をかけるシーンが
付け足されていて、(結局電話は自ら切ってしまうのですが)
ちょっと未来のある終わり方になっているのですが、
僕はこの終わり方のほうが
救いがあっていいような印象を受けました。
(滝谷の父親もその後亡くなって、
その父のコレクションのジャズレコードも、あらゆるものを
始末してしまうのですが、唯一始末する寸前に残したのが
そのバイトの女性の連絡先のメモだった。ってのが
その直前に描かれていて、それもいいんですよ)
結局死後に残された物体はその人そのものではないわけですが、
その人の生前の意思みたいなのが残されているわけで
それを始末するか残しておくのか、
僕はまだそのような事象を経験していないですが、
なんとなくそういう事についてもぼんやり考えたりしました。
あと劇中の音楽は坂本龍一なのですが、
音数が少ないピアノ曲で、過度にドラマチックじゃないのが
いいなーと思いました。
教授はいい仕事しますね(笑)。
そんなわけで凄くいい!というよりは
なんとなくそっと良かったな。とか思い出される感じでしたが
そういう作品て僕、割と好きなんですよね。