11月のシザー

私には3歳になる姪がいるのですが、
この年頃になるともう大分お喋りするし、
一緒に遊んだり出来るので楽しいです。
遊びに来るといつも
「ゆーくん、ゆーくん、ちょきちょきして遊ぼう!」
とハサミを持ち出して広告紙などをちょきちょき切り出し、
「はいっ!」とその切れ端を渡してくれるのですが、
渡されたところでどうすればいいのか持て余していると
「ハンコ押して!」と言うので
ハンコを押すマイムなどして
「はい、ぺたん。押しましたよー。」
と言うと「ありがとうございましたー。」と
お礼を言って満足げにしてるので
ああ、そういうゲームか。
彼女の中でそういうルールになっているのだな。
と思って切れ端にハンコを押しまくっていると
「ゆーくん、違うでしょ!これは押さないの!」と怒られてしまい、
ああ、違うのか。
しまった、ゆーくんは違うことをしてしまった。
と反省などして再び彼女の指令を待つに至るのですが、
ちょきちょきと紙を切って彼女は何を作っているのでしょうか。
ハサミを使うのが単純に楽しいのでしょうが、
物が切れていく過程に何を感じているのでしょうか。
このまま家を飛び出し、道路や車や公園や木々や青空らを
切って切りまくるハサミを持った小さな切り裂き魔。
に変貌しなければ良いなとか思いつつ
ハンコを押したり押さなかったりする私なのですが、
無邪気なる子供の彼女もゆくゆくは
ルージュで鏡にサヨナラとか書いたりするのかしら、
なんて思っていると不思議な気持ちになってしまうわけで。


ちょきちょきと切られた広告の隙間から覗いてみると
世界は澄み切った11月の空気に満ちていて、
私は小さな切り裂き魔がこの世界を切り出さないように
許可のハンコを押さないように心に決めたのでした。