ディランのヴィジョン

ボブ・ディランのドキュメント映画
「ノー・ディレクション・ホーム」を先日見たのですが、
3時間半(!)という満点のボリュームで見応え充分でしたね。
彼の生い立ちからデビュー、そしてブレイク、
バイク事故を経てツアーをやめるまでの60年代半ばまでの活動を、
当時の関係者の証言やディラン自身のインタビュー、
そして貴重な映像で丁寧に描いていて、とても楽しめました。
アメリカの政治的な背景や思想、それとフォークソングの関わりなど
歴史的な流れもきちんと追っているし、
彼がプロテストソングのカリスマに(望まざる熱度で)
なっていった様や、
その後エレキでバンドを従えて登場した時の観客のブーイングなど、
ディランと観客の方向性の違いがリアルに語られていて
大変興味深かったですね。
今の感覚ではアコギからエレキに転向してバンド編成になったくらいで
「裏切り者」扱いされるなんて大げさじゃないですかって感じですが、
当時は衝撃的だったんですね。
(ここら辺の経緯は映画を見ると詳しく理解出来ます)
しかしブーイングにヘコむディランとか、弱音を吐くディランとか
珍しい映像満載で驚きましたよ。
66年のツアードキュメントとかコンプリートで見たいですもん。
生意気そうなロビー・ロバートソンとか若き日のアル・クーパーとか
(アルの「ライク・ア・ローリング・ストーン」のレコーディング秘話は
ファンなら実に興味深いですよ)
演奏もかっこいいし、ディラン含めみな佇まいが最高です。
みうらじゅん氏が「ディランがロック」という名言を残しておりますが、
観客のブーイングに対し「でっかい音でいこうぜ!」と
堂々と「ライク・ア・ローリング・ストーン」を演奏する姿は
まさしくロックそのもので痺れましたよ。
いやーディランに惚れ直しちゃったなあこれは。
前にも書いた「サブタレニアン・ホームシック・ブルース」の
PVの別テイクとか、街中で即興で詩を読むディランとか、
とにかく初めて見る映像ばっかりで、
こういうのもっとあるなら全部見せてほしいですね。
70年代のローリングサンダーレビューの映像とか
たくさんあるでしょうし、そのうちDVDで出ないんでしょうか。
しかし当時の関係者って当然今は老けてるわけなんですが(笑)、
アレン・ギンズバーグが貧相になってて若干の哀愁を感じました。
(これって亡くなる直前くらいの頃だからでしょうか)
「フリーホイーリン」のジャケでお馴染みの
ディランの元カノの人は今でも綺麗でした。
とりあえずこれ、ディランファンなら必見の作品です。
ただ3時間半あるので(笑)、初心者の方はこれの前にまず
「ドント・ルック・バック」からですね。


Good and bad, I define these terms
Quite clear, no doubt, somehow.
Ah, but I was so much older then,
I'm younger than that now.
Bob Dylan「My Back Pages」)