私、時間や気分を盗まれて

先日、夜の11時頃に自転車を走らせて家に向かっていたところ、
突然、お巡りさんらしき制服を着た人に
「ちょっとお兄さん、止まって。」と声を掛けられ、
何事かと思えば「この自転車って防犯登録とかしてます?」
などと言いつつ懐中電灯で自転車と私を照らし付け、
私を自転車窃盗犯ではないかとの疑いの目で見てるので、
こんな善良な市民の私を疑うとはどこに目をつけてるのか
この税金泥棒め、ヤンキーを取り締まれよ、
こんないい大人が窃盗するかばかっ、
と思ったのですが「はあ、良かったらお調べ下さい。」と
言われがままにしていたらそのお巡りさんは番号を調べつつ
「どこ住んでんの?名前は?」
などと横柄に職務質問的な行為に及んだので
何してんだこのお巡り、こっちは忙しいんだ大人なんだ私は、
他に取り締まるべき暴走族がいるだろばかっ、
と思いつつも言われる質問に答えつつ大人しくしていたのですが、
番号を無線で問い合わせてる間、
「自転車盗まれたんですか?」
などと聞いてみると「毎日どっかしらで盗まれてるんだよねー。」
などと答えたので
「僕も前に盗まれましてね。ひどいですよホント。
犯人を早く捕まえてほしいですよ。
お巡りさん『十五の夜』って歌知ってます?
『盗んだバイクで走り出すー』ていうの。
ああいう窃盗を美化するような歌が存在するから
自転車泥棒が減らないんですよ。
盗むなよ、十五の夜に。とか思いません?
人が一生懸命働いてローンで購入したバイクを。
命の次に大切なバイクを。
軋むベッドの上に優しさを持ち寄る前に
持ち主にバイクと謝罪を持ち寄るべきじゃないかと思うんですよね。
バイクを盗まれた者の痛みもわかんないやつが愛とか自由とか
歌ってるんじゃないよって話ですよ。
あいつに面と向かって『泥棒!』と言ってやりたいですよ。
この泥棒が!泥棒!泥棒!」
などと微妙にお巡りさんの顔を見ながら捲し立てていたら
無線で番号の確認が取れたらしく、
「あ、もういいですよ。確認取れましたから。」
などと言って「お時間取らせて申し訳ございません」だの
「ご協力ありがとうございました」などのひと言もなく
その場を終わらせようとしていたので
こっちは忙しいのに待ってたんだぞこの時間泥棒!と、
そのお巡りさんの腰から拳銃を奪い取り、彼のこめかみにあてがい、
「手間取らせて何のひと言もないのか、
何か言わないと人差し指に力入れてこの世からララバイさせるぞ、
5、4、3、2!」と命のカウントダウンを試みようとしたのですが
そんなことをしたら家に帰れずに刑務所に直行となってしまうので
大人しく笑いながら「あ、そうですか、ご苦労様です。
まったくけしからんですよね。この泥棒め!
反省しろ、泥棒!」などと微妙にお巡りさんを見ながら言い捨てて
その場を去ったのですが、
私の盗まれた時間と税金と何かしらの気分は
お巡りさんから返されることはなく、
「ああ、きっと十五の夜に走り去られてしまったのだな。」
などと思いながら私はペダルを漕いで家路を急いだのです。
そう、ひとりで。
夜に塗れて。


まあ「泥棒。」と面と向かって言えたので良かったですけどね。
(良くはないか・笑)