二度見ペットショップ

田舎の道を長距離運転していると道中、
不思議なものに出くわしたりするのですが、
大きな国道からちょっと外れた寂れた細い道沿いに
なぜか唐突にペットショップがあったりするのですね。
え?こんなところに?と二度見必至の存在感で。
道のり的に車じゃないと行けないところなのに
見た所駐車場もないし、何よりも店構えが小汚いし、
こんな場所で家族の一員となる大事なペットを
買う気が全然しねえ!とか思うのですが
不思議と潰れずに営業が成り立っているのですね。
ひょっとしてペットショップは仮の姿で
どこぞの団体の秘密基地とかではなかろうか、
などと思ったりするのですが、非常に謎なんですよね。
普通は道すがら見えるようにガラス張りか何かで
わんちゃんやにゃんちゃんの愛くるしい姿を
披露しているものですが、そういうのも見当たらないし。
ペットたちは店の奥にでも秘蔵しているのでしょうか。
実はひょっとしたら愛犬家たちの間で伝説となっている店で、
凄い血統の名犬が数多く集まることで有名で、
各界の著名人がお忍びで訪れるという
名店なのかもしれないですが。
誰も訪れることのない鄙びた小さなペットショップの片隅で
世界的な血筋の名犬や名猫が凛とした佇まいで
上等の買い手を待ちわびている姿を想像すると
なかなか興味深いものがありますね。
もしくは店内に踏み入るとそこにいるのは
百獣の王ライオンか何かで、「ライオン1匹くださいな。」
「はい、350万円です。」みたいなやりとりが
日常的に行われていると思うと大変面白いですが。


その店の近くに住む老人のスミ子さん(78)が
「一人暮らしで寂しいから」とライオンを買いに来て
「ハート」と命名し、その日からアパートで一緒に暮らし始め、
スミ子さんの強い愛情によってハートもすっかりなついていき、
スミ子さんが布団に入るとハートも「がるる」と言って潜り込み、
スミ子さんが本を読んでるとハートも「がるる」と
膝に乗って来てじゃれ、
スミ子さんが「ハートや、もうすっかり秋になったねえ。」
などと話し掛けるとハートも「がるる」と答え、という
老人とライオンの可愛い日常が淡々と回り出したりという
そんな情景がそのペットショップ周辺には
多く見られるのではなかろうかなどと思ったりしたのですが、
そんなことはないのでしょうか。
私は運転しながらスミ子さんとハートの別離にまで想像を及ばせ、
思わずもらい泣きまでしたところで
「ああ、そんなことは現実にはない!」
と気付いてひとり苦笑するに至ったのですが、
そんなライオンと老人の静かな日常を描いた映画があったら
私は劇場にひっそりと足を運ぶに違いありません。
それはきっとユニークな映画です。
ラストは老人が餌を与えようとしたら
そのまま老人が餌もろとも食べられてしまう。といった
ブラックなものだったら!
私はどうリアクションするでしょうか。


まあそれはそれとしてあのペットショップに一度、
ぜひ立ち寄ってみたいものです。
ライオンを。
ライオンのハートを買いに。