テクノ踏切、ノイズ電車

私の近所にある大通りには普通の押しボタンの他に
目の不自由な人向けの音声ボタンも付いており、
それは信号が青になると「青になりました。」と告げ、
赤のときはピッピッ、という電子音が鳴るのですが、
この電子音というのが何だか妙にキュートな音色で、
こちら側と道を挟んだ向こう側で交互に鳴ると
まるでリズムを刻んでいるようで、
ちょっとしたテクノの曲みたいに聞こえるのですが、
これを聞きながら踊りたくなる人もいるんだろうな、
なんてふと思ったりした私です。
(いないですかね・笑)
これって昼間は喧噪に紛れてそんなに良く聞こえないんですが
夜になると電子音が綺麗に響いてかなり良い感じなのですね。
今度レコーディングしに行こうかと思ったりしています。


ところで踏切の警鐘音も線路のこちらと向こうで鳴るものですが、
あれはテンポが微妙に揺れるし、スタートポイントも違うし、
まれに両者がシンクロする時もあるんですが
大抵は無秩序に向こうとこちらで鳴り続けて
耳に不快な印象を与えるものですが、
もしあれがテクノのように電子音が一定のBPMで鳴ってたら
心地良くて線路に飛び込んでしまう人が多数現れるので
ああいう無秩序が保たれているのだろうと考察するのですが、
そういう秩序ある線路があったら素敵ですよね。
テクノ踏切みたいな。
一日中踏切で過ごす人が現れそうですね。
あえて一定の変拍子で鳴り続ける踏切とか、
尋常じゃなくテンポの速い踏切とか、
ジョン・ケージの「4分33秒」が鳴る踏切とか、
色々な種類があったら面白いと思います。
4分33秒、沈黙が続くだけですけどねそれって。
4分も開かない踏切は充分開かずの踏切ですけども。
「踏切の向こうとこっちで子供たちがキャッチボールをしている」
という井上陽水氏の歌がありましたが、
(「開かずの踏切」というタイトルでした、確か。)
あの警鐘音のやりとりを例えたセンテンスだとしたら
実に秀逸な表現だと思います。
踏切の警鐘音マニアも世界中探せばいるのでしょうね。


ところでちょっと前に「タモリ倶楽部」という番組に
くるりの岸田氏が出演した際、
電車の床に耳を当ててモーター音を聞くという行為に及んでいましたが、
あれは音楽家として正しい行為なんじゃないかと思いました。
昔、線路に耳を当てて遠い故郷の電車の響きを感じた、
なんて郷愁を込めた行為が描かれたりしましたが、
今は危険極まりないのでそういう行為は出来ないわけですが、
彼の行為はそれに近い郷愁を感じさせるもので、
私は岸田氏の行動に感動を覚えました。
彼が聞いていたのはモーター音だけではないでしょう。
時間や記憶、それにまつわる感傷もです。


私は特に電車マニアではないのでわかりませんが、
世界のどこかには向こうとこちらで正確にリズムを刻む
音楽的秩序の整った踏切があるのかもしれません。
そこに差し込まれる電車通過音のノイズ。
これほどの高い構築美を見せる環境音楽があるでしょうか。
私はそれがあるのなら聞きに出かけたいです。
二泊三日くらいで。