私、ショートソングを携えて

歌人枡野浩一氏の近著の「ショートソング」を読んだのですが
青春小説の様相を呈した短歌世界への誘いといった内容で、
普段短歌に馴染みのない方にもその魅力に触れることが出来る、
そんな小説なので興味ある方にはぜひお勧めです。


ショートソング (集英社文庫)

ショートソング (集英社文庫)

先日、枡野さんのトークイベントに足を運んで
実際短歌にまつわる話をあれこれ聞いたんですが、
短歌だけの本は売れないという現実がある中で
こういった間口の広い形式で短歌を世に広めようという
氏の試みは実際成功しているわけですが、
(表紙の中村佑介氏、帯文の宮藤官九郎氏の相乗効果なのか
この作品は売れているそうで、漫画化もされるそうです。
ちなみにクドカンの表記が作者よりもでかいですが・笑)
同時にまた苦悩(?)みたいなのも話の中に垣間見れました。
この作中に枡野さんや彼の短歌入門ブログ出身者の短歌作品が
多数引用されていて(彼の門下生と言って良いのでしょうか)
小説を読むとそれらの短歌も読むことになるわけですが、
読後印象に残るのはやはりそれらクオリティ高い短歌の数々で、
私が一番印象に残ったのは宇都宮敦氏の作品なんですが、
(枡野氏の作品は既出のものですでに読んだことあるやつでしたので)
この日はその宇都宮氏と枡野氏のトークという形で、
朗読なんかも聞けたし、なかなか興味深い内容でしたよ。
かなり内輪の話だったし、苦悩と言った暗い話も出ましたけども(笑)。
31音の言葉の可能性の広さを改めて認識した私ですが、
圧倒的にマイノリティであるという事実もまた認識した次第です。
好きな人は好きな世界ですけどね。


ところで私が枡野氏の名前を初めて認識したのは某音楽誌の
「淋しいのはお前だけじゃな」というコラムのタイトルで、
これって「淋しいのはお前だけじゃない」の誤植かと思ったら、
最後の「い」を取るだけで残酷なる断言に変わるというマジックで、
当時の私は衝撃を受けたものですが、
(余談ですが「俺はこんなもんじゃない」のコピーバンドとかで
「俺はこんなもんじゃな」というバンド名があったら面白いですね。
「え、実際そんなもんなの?」って感じで。)
その後彼の歌集も読んでその言葉のビビッドさにまた驚かされ
今に至るのですが(文庫でも歌集が多数出ているのですぐ読めます)、
彼の作品や活動を初めて知る方はこの「ショートソング」が入門編として
普通にさらっと読めてしまうので良いのではないでしょうか。
短歌への誘いということで。
(CMで加藤あいと短歌を詠んでる彼の姿を見た方も多いと思いますが)


最後にネタばれっぽいですけど私が作中印象に残った
宇都宮氏の短歌をいくつか挙げてみたいと思います。
枡野氏が彼の本を出したいと熱く語っておりましたが私も読みたいです。


「ひらかないほうのとびらにもたれれば僕らはいつでも移動の途中」
「ブラひもがみえることとか そのひもがみせるためのであることとか」
「わたしクラスで最初にピアスあけたんだ 君の昔話にゆれる野あざみ」
「夕立に子供がはしゃぐ 世界とは呼べないなにかが輝いている」
「君は僕のとなりで僕に関係ないことで泣く いいにおいをさせて」
「だいじょうぶ 急ぐ旅ではないのだし 急いでないし 旅でもないし」
(宇都宮敦)


ところで明日はfwjのライブです。
みなさんのご来場、お待ちしております。
だいじょうぶ、急ぐ旅ではないのだし。
急いでないし、旅でもないし。