私、搭乗騒動の果てに

飛行機に乗る際には危険物を持ち込まぬようゲートをくぐり、
「ピンポーン」と鳴った際には再度所持品チェックを行い、
安全を確認してからようやく搭乗が可能になるシステムなわけですが、
福岡からの帰り、私はそのシステムになぜか引っかかったのですね。


搭乗口に入るに当たり、携帯やiPodや財布などポケットの物を出し、
金属類は持ってないよね、安全だよね、と自ら確認及びオーケーを出し、
さあいざ東京へ帰ろうぞ。とゲートをくぐると、
「ピンポーン」という小気味良い音が私の足を止めて。
すると係員が目の鋭さを増しながら寄って来て、
「何か金属類持っていませんか?」と聞くので
「いやー持ってないと思うんですけど。」と言いつつ、
慌ててポケットを探ったのですが心当たりがないのですね。
ひょっとしてと思って札入れの方も出し、
それで再度くぐってみたのですがやはり「ピンポーン」と鳴って。
係員の目がそこでさらに「こやつあやしい!」という強い光線を増し、
「調べさせてもらって良いですか!」と金属探知機を持って来たので、
再度自分でもポケットを探ってみるとそこにはペットボトルの
飲みかけの「おーいお茶」が入っていて。
まさかこれが?という疑惑を抱きつつもそれを出すと係員は
「一応調べさせてもらいます!」と
私の飲みかけの、あと一口で飲み干せる程度しか残っていない、
すっかりぬるくなった「おーいお茶」を疑惑と共に私から取り上げ、
何やら液体の成分を調べるためのハイテク機器に私の飲みかけの、
あと一口で飲み干せる程度しか残っていないすっかりぬるくなった
疑惑に包まれた哀しみの「おーいお茶」をあてがっておるのですね。
ただのお茶なのに。
静岡辺りで穫られた茶葉を原料にした伊藤園のお茶なのに。
私にはこの「おーいお茶」の「おーい」という呼びかけが
「おーい、俺は無実だよう〜」のおーいにも思え、
私は「おーい、ごめんよう、僕が不甲斐ないばっかりにー。」
と「おーいお茶」に違う意味のおーいを呼びかけてみたのですが、
「おーいお茶」は何も応えてはくれないのですね。
だって単なるお茶なんですもの。
私はこのおーいはこの世で最も哀しいおーいではないかと思い、
その場でおいおいと泣き出したくなってしまったのですが、
そうしてる間にも係員は「ボディチェックよろしいでしょうか!」と、
映画で見たことあるぞ、このシーン。みたいな
ボディチェックを私に仕掛けて来るのですね。
何か私、犯人みたいなんですけど!とか思いながらもここで
「てめえ、何触ってんだおらあ!」と、
校舎の窓ガラスを割ったり、盗んだバイクで走り出したりしたら
すぐにポリスマンがやって来て私は拘束され、
東京に帰れなくなってしまうのは明らかなので
借りて来た猫のようにおとなしく従っていたのですが、
「ベルトのチェックいいですか!」
「マフラー取ってもらっていいですか!」など、
「いいですか」という許可を得る前にすでに行動に移すという強引さで
私はおとなしくせざるを得ない状況だったのですね。
しかも取ったマフラーを「検査してもよろしいでしょうか!」と
X線に通しているのであり、
ああ何もないのに。普通のマフラーなのに。
3990円(税込み)で購入したお気に入りのマフラーなのに。
と、マフラーに寄せられた疑惑の目に私は哀しみを覚えたのですが、
当然異常は何もないのであり、
また「おーいお茶」も異常無しでおーいと戻って来たのであり、
そこで初めて係員は「あれ、こいつ別にあやしくないかも、てへ!」
という目線に戻り、「はい、大丈夫です〜。」と私に許可を与え、
そこで私はようやく搭乗可能な状態になったのです。
ハイテク機器によって調べられた「おーいお茶」とマフラーを
私は再び身に付け、財布や携帯もポケットに戻し、
這々の体でようやく飛行機に乗り込んだのですが、
これらは神が与えた試練か何かなのでしょうか。
果たして。
まあ結局何で鳴ったのか原因はわからずじまいだったのですが、
ここまで念入りに調べる辺り、安全強化されている証拠なので
逆に感心した次第ですけどね。
空の安全が問われているご時世ですし。


機内に乗り込み、一息ついた私はポケットから「おーいお茶」を出し、
一口でごくりと飲み干したのですが、
ぬるくはなっていましたが緊張で喉が渇いていたので
それはすごく美味しく、思わず
「おーい、美味しいよー」と、
「おーいお茶」に呼びかけてしまった私です。
おーい。