オアシスへようこそ

地方都市には必ずと言っていいほど存在する
ジャスコという大型ストアがここにもあり、
私は毎日利用しているのですが、
ここのレジ係の山川さんが泣きそうになるほど優しい接客で
疲れた私を笑顔で癒してくれるので、
私はどんなに混んでいようと山川レジをキープするほどで、
山川レジと書いてオアシスと読んでもいい当て字を
勝手に作り上げてしまってるほどなのですが、
今日は1万円で払ったので長い時間山川さんと接したな、
などと思いながらお釣りの紙幣を数えてる彼女を見ているうちに
私はふとこのまま山川さんを店外に連れ出したらどうなるだろう、
あの子僕がロングシュート決めたらどんな顔するだろう、
などと思い、思うや否や私は山川さんの手を取り、
「行こう!」と店外へ連れ出し強く彼女の手を握り、
あり得ないダッシュで国道を超え、
聳え立つ山々を兎の如く走りぬけ、
喧騒に塗れた都会の人ごみを掻き分け、
哀しみという名の雨を傘も差さず濡れながら走り、
彼女の「山川」と書かれた名札や制服のスカートの裾や
彼女の後ろで無造作に纏めた髪の毛が踊るように跳ね上がる様を
ダイヤの煌きにも似た光として見、
私は何度も何度も溢れそうになる涙を堪えながら
この瞬間が永遠に続けば、永遠に続けば良いのに!
と祈りにも似た気持ちで唱えながら
やがて空の色によく似た遥かな蒼を携えた海に辿り着き、
私はようやく膝を地面に付き、その広大な佇まいを目前に
はあはあと息を漏らしながら山川さんの顔を見ると
山川さんはいつもの変わらないスマイルを浮かべて
「毎度ご利用ありがとうございます!」と
優しい口調で私に告げたので
私は「どういたしまして。」とそっと呟いたのです。
海はただただ静かで美しく。
恐ろしいほどに広大で。


気が付くと私は買った後のレジ袋を持ったままぼんやりと
なぜか菓子パンコーナーに佇んでいて。
クリームパン98円の値札を凝視していたのです。
100円で2円お釣りが来るな。
などと思いながら。
たったひとりで。