言の葉の事の端

昨日書いた「ビートルズに対する小西康陽氏の発言」って
どこで目にしたんだっけなーと思って
彼の「これは恋ではない」という著書を読み返してみたのですが、
そこにちょっと興味深い発言を見つけてしまいました。
彼のいとうせいこう氏の「MESS/AGE」に対する批評文なんですが、
「いとう氏のラップは不器用でかっこ悪く、
言葉の量も並じゃないし、声にも恵まれていない」と
恨みでもあるのかと思うほどさんざ落とした後に
「でもこのアルバムを聴いて感動して泣いてしまった。」
と賞賛しており、この屈折した感情は何なのかと疑問に思ったのですが
「何度聴いても痛々しいあざといアルバムだ。」という締めの文に
ある種の近親憎悪みたいなものがあるんじゃないかと
勝手に小西氏の感情を推測するに至ったのですが、
彼をここまで動揺させるとは凄い作品だなと改めて思ったりしました。
(この文章を読んでいたのに私は内容をすっかり忘れていたのですね)
いとう氏の膨大な情報量とインテリジェンスに反感みたいなものを
覚えたりするのかもしれないなんて思ったりしましたけどね。


ところでライムスター宇多丸氏といとうせいこう氏の対談を
先週ラジオで聞いたんですが、
宇多丸氏がいかにいとう氏のことを尊敬していて
影響を受けたか熱弁していて、そのリスペクトぶりが伺えたんですが、
その割に時折「でもさ、いとうさんさー」とフランクにタメ口が交じり、
敬語にタメ口をサンドウィッチした感じで話している様が
何だかちょっと微笑ましく思えたのですが、
同じラッパーとしての親しみがそこに見えるんだけど
尊敬する人なのでなるべく丁寧語で話してるという感じがして、
こういう微妙な距離感で話すミュージシャンて結構多いよなーとか
ふと思ったりしました。


何となく敬語で話すけど時折タメ口で話して距離を伺ってます、
みたいな関係性って結構私の周りにもあるのですが、
いつタメ口に移行して大丈夫なのか
見極めが難しいことってたまにありますよね。
すぐにフランクに敬語の枠から外れることの出来る人って
人柄もあるんでしょうけど、技だよなーとか思ってしまうのですよね。
なんで私には敬語で話すのこの人は、もっとフランクで良いのにー。
とかじれったく思うこともあれば
お互いあんまり知らないのだし敬語で話しませんかひとまずは。
と思うことも稀にあるので難しいですけどね。
なるべく距離を縮めて親しくなりたいなと思いつつも
なるべく相手に不快な印象与えないように気を付けなくちゃな、
なんて思ったりしていますけどね。


ところで敬語といえば今日「笑っていいとも」に出ていた
B21某とかにいたお笑い芸人で今はラーメン屋の店主の人が
やたらタモさんにタメ口でキレたり乱暴な口の利き方をしていて、
それがことごとくスベっていたので哀れに思ったのですが、
同じB21のヒロミとか清水圭とかのクラスの、
元お笑い芸人で今はタレントの人がたまにお笑いの現場に出ると
妙に張り切って若手並に手腕を発揮しようと頑張りつつ、
「俺はタモさんとこれだけ親しい間柄なんだぜ」とでも言いたげな
フランクな口の利き方をするのが見ていて何だか哀れで、
しかも大抵スベっているのでとても痛々しいのですが、
今日もそんな印象を受けましたね。
(いいともの客は笑いに対してのレベルが低いので
そこそこ受けてしまうのがまた始末が悪いのですね。
エンタの神様」と同じ粗悪な環境だと思います。)
目上の人に乱暴に発言してキレたりして笑いを取る手法は
実はかなりの力量が問われるのであり、
「実は本人にそういう口を利けるほど親しい間柄」とか
「実は裏では礼儀正しい人」というのを視聴者にあざとくなく匂わせ、
さらに確実に笑いに転換出来る言葉選びを適切な間でしないと
単に口の利き方がなってない礼儀の知らない奴になってしまうので
かなり難しいし危険な手法なんですよね。
山田花子が無礼な発言をして横でツッコミを入れる人がいるとか、
カンニング竹山がキレて司会者にツッコミを入れられるとか、
ツッコミのいる現場は割と成立しやすいですけどね)
今日のデビット伊東とかいう人はそういう観点において
芸人としての才能はすでに枯渇しているような印象を覚えました。
私がもし彼のマネージャーなら
「タモさんにそんな口を利くなんて35年早い!」
と3時間ほど説教していたことでしょう。
お笑い芸人がいかに言葉に対して自覚的でなければならないか
改めて認識した次第です。


何か話が大分ずれましたけども、
言葉って結局その人の教養なんじゃないかと思ったりするのですよね。
それはその人をチャーミングに見せるし、
感動させて泣かせるくらい心を動揺させるものじゃないかと思うのです。


「キサマの背後に立ちながら
俺はキサマを前から撃つだろう
きっとキサマの上に立ちながら
俺はキサマを下から突くだろう
コトバの響きで触れずに溶かし去る
コトバのカタチで打ちくだく
俺は光 俺は力
俺は速度 俺は響き
俺はカタチ 俺は熱
俺はコトバだ」
いとうせいこう「VERBALIEN」)