風鈴アート

伊勢では張子のお面の絵付け教室というのを行っていて、
それの指導みたいな形で私が赴いているのですが、
同時に風鈴の絵付け教室も催しており、そっちも私が見ているのですね。


で、今日風鈴の絵付けをしたいというお客さんが来たんですが、
どうもその方は軽度の知的障害者らしい方で。
きちんと絵付けできるかなーと思って丁寧に説明してあげて筆を渡したら、
やおらその方はささっと描き始めたんですよね。
で、様子を見てたらそれは絵じゃなくて字だったんですけど、
見事な筆裁きで、「海」と大きく書いたかと思うと
今度は「山」「風」「自然」と絶妙なバランスで書き継いで。
見ていて私は吃驚したんですが、一瞬下手に見えるんですが
実は迫力ある凄い筆の動きなんですよ。
しかも絵を描くのかと思っていたこっちの固定観念を壊す勢いで
字を書くという意外性もあって。
その次に色を変えて今度は何を書くのかと思ったらその隙間に
「ソウル」「北京」「パリ」「ニューヨーク」と書いたんですよ(笑)。
しかも絶妙な字体とバランスで。
自然事象を記したと思ったら今度は世界の首都を記すという、
意外なる芸術性とその自然すぎる筆裁きに私は驚いたんですが、
それが風鈴というひとつの小さな空間に収まってる様を見て、
「これってつまり地球ってこと?」と私は悟り、
なんと美しいコンセプチュアルアートであろうかと
すっかり感銘を受けたのですが、
本人は勿論そんなことを微塵にも感じていない風なんですね。
で、そこで筆を置いてしまったので「これで終わりですか?」と聞いたら
声もなく首を縦に振り、終了である意志を伝えられたので
その自然と都市名が記された風鈴という地球を包んで渡してあげたのですが、
ああいう見事な芸術作品て思いもよらないところから生まれるんだなと
何だか感心してしまった次第ですよ。
多分本人は意識もせずささっと思いついたことを書いたと思うんですよね。
しかもきちんと書こうという意識もないので自由な筆使いで、
海は大きいから大きい字で書こう、みたいなタッチが出来ると思うんですよ。
絵付け教室という催しなのでこっちは絵を描くものだと思い込んでますけど
字を書いてもいいし、何を書いても良いのだという自由さを
何だか見失っていたような気もして、
私ははっとさせられたんですねその人の作品に。
招き猫の絵付けとかでも小さな子供がめちゃくちゃに描いた色の使い方が
凄く斬新だったりすることも多々あって、
(そういうのに限って親が手直ししてしまうんですよ)
私はよく自由さをこういう現場で目の当たりにするのですが、
そういうのって大事だよななんて改めて思ったりしました。
その人の名前でも聞いておけば良かったとか思いましたが、
ああいう自由な発想がどこかで活かされると良いなと思ったりしましたよ。
最初「ソウル」って書いたときは魂の方かと思って、
それにも驚いたんですけどね。何でソウルから書いたんだろうって感じで。
「東京」が記されてなかったのは何か意味でもあるんでしょうか。
その意図を考えながら私は伊勢の地にひとり立って居ます。