宇宙経由の黄昏

それにしても寒いですね。
私は泣きそうです。寒すぎて。
灰皿などの鈍器でこの寒さを殴殺し、その後指紋を拭き取り凶器を処分し、
遺体を車のトランクに積み、山の中腹まで運び深く穴を掘って埋め、
綿密なるアリバイ工作を施し、何食わぬ顔で葬儀に顔を出し、
「まさかあの寒さが亡くなるなんて!」と涙のひとつでも流し、
警察の執拗なる取り調べにも
「あの日は冬将軍の到来に備えてストーブの灯油を補充しておりました」などと恍け、
寒さがいなくなると折角補充したストーブも用なしね、などと言いつつ
来るべき常夏の世界に備え派手なアロハシャツなど誂え、
やがて迷宮入りする事件の捜査を横目にのうのうと暮らし、
完全犯罪成功の余韻と共に永久に寒さのない気候を満喫したい衝動にも駆られるのですが、
そもそも灰皿如きで殴ったくらいではこのしぶとい寒さは死なないし、
完全犯罪が容易く成立するほど日本の警察は甘くないのであり、
私は寒さが何かの拍子で自ら命を絶ったりしないかなと思いつつ
この執拗なる寒さに耐えしのいでいます。
寒さにディレイがかかってる感じです。
その残響が痛いです。
指先やハートに。


ところで「紙飛行機は宇宙から帰還出来るのか」という実験が行われたそうですが、
こういう子供が思いつくような疑問が大人たちの研究によって明らかにされるというのは
なかなか面白いというか、ある種のロマンをも感じてしまう私です。
日本折り紙ヒコーキ協会なんてアナクロな団体が
先進の宇宙関係の研究に一役買うというのもなかなか良い話じゃないかと思ったりして。
子供の飛ばした紙飛行機が宇宙へ飛び、大気圏を抜けて舞い戻ってくるという
壮大なロマンがそのうち実現するんでしょうか。
「この紙飛行機、宇宙を見て来たんだぜ」
なんて言いながら宇宙から帰還した飛行機を夕焼けに向かって飛ばしたいものです。


宇宙経由の黄昏とは。
何てロマンチックなんでしょう。