その名誉は鍋敷きに過ぎなくもない世界

先日「五反田団」なる劇団の芝居をNHKにて鑑賞して来たのですが、
ここの主宰の前田司郎氏は先程岸田國士戯曲賞を受賞されたんだそうで
へえと思いながら鑑賞に至ったのですが
本人が本人役で出ており、本人の書く脚本の中に本人がいるという設定で、
洋服が乱雑に置かれた日常の舞台から
なぜかロードムービーに展開していくシュールな内容で、
日常のちまちましたやりとりの描写や台詞の妙が笑えたし、
かなり面白かったですね。
NHKで放送することを逆手に取ったと思われる
企業名ぽい名前の入ったシャツを着てたりする演出や
トップランナー」のパロディや
「ドイツ製の高級外車」などといった言い回しも良かったし。
演出上舞台が斜めになっているのを
「この店は斜めなんですね」と言ったりするある種の楽屋オチとか
ガムにカレーなどという発想なんかも良かったですね。
何気ない言葉のやりとりでじわじわくるような笑いの手法が
バナナマンに似たようなものを感じました個人的には。
岸田戯曲賞をふたつも貰ったのでひとつをマターンという外国の
恵まれない人にあげに行くという筋なんですが、
岸田戯曲賞という名誉が鍋の下敷きに使われそうになる描写とか、
全体的に演劇とか芸術なんて現実社会では何の役にも立たないという
ある種の自虐というかわきまえというか逆ギレみたいな視線から
お芝居という形式を解体して笑いに昇華しているような印象で、
そういう目線に何だか共振するものがありました。
「ネクタイも締められないのに芸術とか言ってんじゃないわよ」
という台詞が個人的にはツボでしたけどね。
それと同じようなこと数日前に思ったし、という感じで。
音楽はまだ日常においてCDなどで再生されて何度も消費されますけど
演劇って劇場まで足を運ばないと見られないし、
お金を払って目にするまでハードル高いですしね。
「お芝居って嘘の話を人前でするものだ」
という台詞も劇中にありましたが、
そういう作られた形式の「所詮演劇だろ」みたいな位置から
それを壊して再構築していくような手法って
チェルフィッチュとかポツドールとかもそうなんでしょうが
空気感としてそういうものが共通して存在するような印象を受けました。
まあでもそういう手法があったとして普遍的な言葉の強度や
センスや組み立て方などがあるから面白いのであって、
最終的には作家個人のセンスなんだろうなと思ったりします。
この脚本は再演で、これで岸田戯曲賞取ったわけではないそうですが、
(取った後に岸田賞をネタにしたこの作品を再演するのも
感慨深かっただろうと思いますが)
この前田司郎氏の作家性は注目すべきじゃないかと思ったりしました。


しかし昨日は底冷えで終演後に劇場出たらものすごい雪の降り方で、
雪は沈黙のように降り注ぐと前回書きましたが
凶暴に音を立てて降ることもあるのだなと思ったりしました。
あんな大雪の感じは久しぶりでしたね。
そんな大雪の中同行したライターの土佐くんや歌人の枡野さんらと
温かい鍋料理食べてから帰りました。
美味しかったです。
枡野さんが何かいいこと言ったような気がしますが忘れてしまったので
彼が何かいいこと言ったような気がするという
感触だけ記しておこうと思います。


ところで五反田団のサイトがすごい簡素で、
チラシもものすごく簡素なのが何だか潔いような印象を受けました。
演劇の人はチラシにとてもお金をかけている印象が強いのですが
別にお金かけなくても情報は伝わるもんな、と思った次第です。