1789円のフランス革命

大谷能生のフランス革命

大谷能生のフランス革命

大谷さんが様々なジャンルの表現者と語っている対談集なんですが、
これは元々ライブやパフォーマンスなども交えて客の前でトークする
大谷能生フランス革命」というイベントを文字起こしした本なので、
単純に対談というだけでなくドキュメントとしても読めるし、
なかなかメディアに取り上げられない人の表現に触れることが出来るし、
音楽や映画、演劇などアート全般に興味ある方にぜひお勧めしたい内容です。
特に若い子なんかには。
まあ別に若い子じゃなくても構わないですが。
当時大谷さんがこういうイベントやってたのは知ってたんですけど
見に行く機会がなかったので今回の書籍化で初めて触れたわけですが、
「音がバンド名」の混沌と狂気とくだらなさが同居したライブの模様も
いちいち丁寧に文字起こしされていて、仕事が細かいなと感心した次第です。
この本の中で唯一私が共演したことあるのが「音がバンド名」なんですが、
彼らをここまで大きく取り上げたのってこれが初めてじゃないでしょうかね。
他のゲストの並び見ても大谷さんの独特な嗜好が伺えるというか
界隈では有名だけど世間一般ではそれほど知名度のないというチョイスなんですが、
読むと「表現」についての様々な観点からの見解が雑多に詰まれていながらも
大谷さんの批評家、主催者としての目線が一貫しているし、
年齢差は微妙にありますが「同時代性」みたいなのが
きちんと立ち現れている印象を受けました。
ゲストそれぞれはリンクしてそうでしてなかったりするんでしょうけどね。
ここでの大谷さんはしかし批評家然とした佇まいというよりは
単純にゲストに興味があるので話を聞く、
その人と一緒に表現について考えるというようなスタンスで
時には客と同じ目線で話を展開していて、
わかりやすいし話し振りも優し気で(笑)全体的に読み易かったですね。
なかなか鋭い言葉が飛び交っていて刺激を受けました。
個人的には堀江敏幸氏との朗読についての対談が興味深かったんですが、
大谷さんが堀江氏の小説を朗読した
『「河岸忘日抄」より』というアルバムを出した時は
「こんなCDを新譜で出す人がいるんだ」と衝撃を受けたものだし、
紛れもない傑作じゃないかと個人的に賞賛の声も送ったのですが
それについての堀江氏の感想や音読に対する見解もなるほどという感じだし
(ラッパーの志人氏がゲストの回でも音読と黙読について語られてますが)
大谷さんの朗読にまつわる「音と言葉」についての見解も
共感するところが多々あり面白かったですね。
あのCDを聞かれた方は読むべきテキストじゃないかと思いました。
あとはニートやフリーターといった社会的な問題を
ビッグバンドからビーバップへの変遷というジャズの歴史から、
またカフカの「変身」から音楽に於ける身体性を絡めて語るくだりが
新鮮というか目から鱗というか、この回が読んでて一番面白かったんですが、
このテーマでもっと深く語って欲しいなとか思ったりしました。
まあでも一番良いなと思ったのは大谷さんがこのイベントをやるきっかけが
「同世代の友達が欲しくて」という理由だったというところでしょうかね。
イベントの基本ですよね、それは(笑)。
あと菊地成孔氏による帯文コピー、
「まだ読んでないけど、凄いに決まってる。」が実に秀逸というか、
どこかで使いたくなる言い回しだなと感心した次第です。
当時このイベントの入場料は1789円だったそうなんですが
(タイトルにあるフランス革命の起きた年号とかけてるのですね)
いっそこの本の定価も1789円にすれば気が利いてたと思うんですけどね。
そこまで融通利かなかったんでしょうかね。
まあ「読んでみたけど、凄いに決まってた。」
ということで。
興味ある方はぜひに。