音楽再生スクールバス

図書館を出て自転車に跨がり大通りに出ると
オーケストラによる切ない旋律が突然周囲に鳴り響いたので
何事かと見やるとちょうど一台のスクールバスがふわりと浮かび上がり
そのまま飛行船のようにゆっくりと飛んで行こうとするところで、
私は驚きつつもバスが飛ぶ光景を目にするのは初めてだったので
「へえこうやって飛ぶのかバスは」などと思いながら
その優雅な動きをパシャッと目に写し、ハートに保存し、
車体の鮮やかな桜カラーが遠くに見えなくなるまで見送ったのですが、
その間オーケストラによる音楽はずっと鳴りっぱなしで
それがとても美しくて私は泣きそうだったのです。
バスの飛ぶ光景に鳴り響く。
オーケストラ曲が美しくて。
あ、ちなみに夢の中の話ですけどもね。


さっきの音楽はバスが飛ぶ度に鳴らされるのであろうかと思いながら
音の余韻と共に目を覚ましたのですが、
その時の曲を再生するべくギターを手にしてもどうも違う印象で、
うつつの世界では明確に再現出来ないのですね。
再びそいつを耳にする為に同じ場所に行こうかと思案もしたのですが
同じ場所に行ったところでその音楽を聞けるとは限りませんし、
どうやって同じ場所に行けば良いのかわかりませんしね。
夢の中だし。
ぜひもう一度聞きたいところなんですが。
「恐い夢を見た」とか「面白い夢を見た」という印象だけで
その細かい内容は覚めた瞬間に忘れてしまったりするものですが、
夢の中で聞いた音楽も「切ない曲だった」という印象だけで
細かくは思い出せないものなんでしょうか。
「夢で聞いた音楽再生ボタン」とかあったら押しまくるんですけどね。
高橋名人ばりに。
スクールバスを見かけると「あれ飛ばないかな」と期待してしまうのですが
彼は飛ぶことなく新入生の期待と不安を乗せて
排気ガスを撒き散らしながら街を駆け抜けるばかりです。