キミはいつでもシークレット

Perfumeの「シークレットシークレット」という曲が良いのですよ。
アルバムざっと聞きましたけどね。
バッキバキのテクノ曲の「GAME」とかアイドル路線から外れてるのもありますけど
バランスとしてアルバムの中にあの手の曲があっても良いだろうし
ああいうのをアイドルが演じる試みも有りだとは思うんですが、
アイドルであることを前提とするとこれがベストトラックだと思うのですよね。

イントロの音がふわっと始まって一旦消えてからまた出て来て、
三巡目で凶暴に歪んだシンセベースが入る不穏な導入から
ブレイクを挟んで煌めくようなシンセの上昇音が畳み掛け、
70〜80年代ぽい歌謡曲マナーに乗った哀愁のリフが
四つ打ちのビートと共に奏でられるこのイントロ部だけで
私はもうがっちりハートを掴まされてしまいましたよ。
サビの二巡目の頭のキックとベースの位置とかも気が利いてるし、
最初のサビ後のブレイクのベースの低音の出し方とか尋常じゃないし
可愛いくてキャッチーなメロとサウンドのアンバランスさが良いのですよね。
(しかしアルバム全体の音がシャリシャリ硬過ぎるようにも思うんですが
マスタリングも中田氏本人がやってるので意図的なんですかね)
一回目のAメロの「切ない」の語尾がやさぐれた感じにフェイクしてるのが
妙に人間味があって耳に残るのですが、
あれって失敗テイクをあえて使ったんじゃないかと思うのですよね。
(多分あーちゃんの声だと思うんですが。そういう指示だったんですかね)
そこら辺の細かいところを聞いてくと面白いのです。
私はこの曲を10回連続で聞いて20回胸キュンしました。
あと中田氏って実は作詞家としても優れてるんじゃないかと思うのですが
この曲って謎めいた恋愛対象者に「本当のキミを知りたい」と語る
半分片想いみたいなもどかしい恋心を歌っておるわけですが、
最初から最後まで「僕」とか「私」とかの一人称が出て来ないのですね。
どっちで聞いても通用するような歌詞になってるのですよ。
主人公を男の子とするとまた違った印象の曲になるのです。
(「マカロニ」もどっち目線でも聞ける構成ですけどね)
「キラキラで目が眩むけど」というフレーズが特に秀逸だと思ったのですが
よく少女漫画に於いてコマの隅にキラキラとした光が描かれる
独特の描写がありますけど、それをまんま書いてる感じというか、
「キラキラ」という直球な単語をあえて使用してるのが凄いというか
恋心の高揚感を描くのに見事に成功していると思うのですよね。
まず耳に飛び込んで来るし。
実際キラキラした電子音がバックに散りばめられてますしね。
「斜めから恋をしてる」っていうまっすぐじゃないニュアンスも
切なさを感じさせてとても良いのです。
「マカロニ」の「恋してるけど不安で朧げな感じ」の描き方も巧いし、
「マカロニ」という単語の使い方の微妙なバランス感覚も優れてるのですよ。
これって「パスタ」とか「スパゲティ」とかだと急激につまんないのです。
マカロニという単語がポンと配置されてるところに妙味があるわけです。
(振り付けでまんまマカロニの形を現してて凄いなと思いましたけどね)
まあ私が一番吃驚したのが「Puppy love」という曲の
ツンデレーション」という言葉なんですけどね。
思い付いたとしても使うのに躊躇するような言葉が
ばしっと巧く決まっちゃってるのですよ。
下手したら大コケする言葉を絶妙な位置に配置してあるのですよね。
イヤーキャッチ度の高さを追求してここに至ったと思うのですが
相当な言語センスがないと書けない歌詞じゃないかと思うのですよね。
私が人の歌詞でこれだけ感心したのはいしわたり淳治氏以来です。
世紀末感溢れる「エレクトロワールド」の歌詞も素晴らしいですが
(それこそあの世界観って「夢際のラストボーイ」の系譜ですよね)
アイドルを使って如何に先鋭的な表現を試みるのかという点で
謡曲っぽいこの「シークレット」は最高なんじゃないかと思う次第です。
中田ヤスタカ恐るべしといった感じです。
Perfumeがスターへの階段を上って行く過程を描いたPVも秀逸ですが
(途中で過去の曲の振り付けが出て来たり、
彼女たちを無名時代から推してきたライムスター宇多丸氏が出て来たり、
なかなか芸が細かいのですよね)
猫みたいな妙なポージングを含めた振り付けがまた良いのですよね。
ちゃんとpinoの広告として機能しているし。


アイドルそのものが短命であるのも確かですが
中田ヤスタカPerfumeの奇跡のバランスがいつまで持続し
進化(もしくは深化)していくのか読めないし、
頂点を極めたあとの進み方が難しいのも明らかであるし、
この存在の危うい儚気な感じがそのままPerfumeの魅力になってるというか
リスナーが熱中する理由なんじゃないかと思うのですけどね。
一方でパフィーみたいな持続の仕方もあるわけだし、
彼女たちが大人の女性になって結婚したりしても
ユニットとして機能する可能性も多いにありますけどね。
まあ取りあえずライブのチケットはますます取れにくいということで。
まあ一回見たから良いですけどね。