私、折り紙付きで

ここ何日か池袋東武の9階の呉服売り場にて
ひっそりと張子の実演を行なっておるのですが、
(他にも何人か職人さん出てますけど割と小規模な催しなのです)
ステージで熱くラップした次の日に何気ない顔してデパート出て
職人然と仕事してると不思議な気分にもなるものです。
世界が違い過ぎるなあという感じで。
まあいつものことですけどね。


先日そんな池袋からの帰り道、電車に乗って本など読んでいると、
ふと私の足下でカランカランと物が落ちる音がしたのですね。
何事かと見やると小さな缶のケースが落ちていて。
蓋が開いて中に入っていたものが散らばっている状態だったのです。
どうやら私の斜め前に座ってた人が不注意で落とした物らしく、
ちょうど慌ててそれらを拾おうとしているところだったので、
私は行きがかり上、拾うのを手伝ってあげたのですね。
ほとんどが自分の足下に散らばっていることだし。
で、拾いながら何気なく物を見てみたらそれが小さな折り紙だったのですよ。
一センチ四方くらいの、極小の。
折られる前の物もあれば丁寧に鶴の形に折られた物もあって。
へえ折り紙かあ、こんな小さいのあるんだなあなどと驚きながらも
それらを拾ってケースに戻してあげると、
「ありがとうございました」と持ち主らしき人の野太い声がするので
ふと顔を見てみたら40代くらいのサラリーマン風のおじさんなのですね。
およそ折り紙を持ち歩くようには見えない風貌の。
こんな人が随分可愛い物を持ち歩いてるんだなと感心(?)したのですが、
その人、よく見てみると電車内でずっと折り紙を折っていたのですね。
小さな紙をちまちまと器用に折り曲げて。
いくつもの折り鶴をせっせと作っていたのですよ。
出来てはケースに収納、みたいな感じで。
私はその様子を見ながら、こうして帰宅途中に趣味の折り紙を楽しむとは
なかなか時間を有効に使っている人じゃないのと感心したのですが、
一方でこの人は会社では「変わった人」扱いされてるんじゃないかしら、
部下の女子社員たちから「係長の鈴木さん、休憩室で折り鶴折ってたよ」
「何それキモいー、お見舞いかよー」とか言われてるんじゃないかしらと
ふと彼に対する周囲の評価が気になってしまったのですが、
果たして大丈夫なんでしょうか彼は。
折り紙に夢中になってたりして。
ひょっとして会社でやるのが憚れるので電車内で折り紙をしているのか、
家は家で妻から「あなた折り紙ばっかりしてないで家のことやってよ」
と説教を受けてしまうので仕方なく電車内で趣味に興じているのかなどと
彼の人生にふと想いを馳せてしまったのですが、
余計なお世話というものですかね。
しかし「趣味が折り紙です」という人に悪い人はいなさそうというか、
そんな趣味持ってる人って意外に素敵度高いような気もしたのですが、
どうなんでしょうかね。
「係長の鈴木さん、休憩室で折り鶴折ってたよ」
「何それキュートじゃん、少年かよー」と、
子供のハートを持った大人扱いされてモテたりもするのでしょうか。
モテアイテムとして折り紙が流行る時がやって来るのでしょうか。
いずれにせよ彼は作った鶴たちを一体どうするのかが気になりますね。
千羽鶴のミニチュアとして機能させるつもりでしょうか。
やはりお見舞い用なんでしょうか。
缶のケースに詰められたいくつもの折り鶴。
それらが羽撃く時はどんな時なんでしょうか。
その様をぜひ目撃したいものです。