love the world  あたしとキミと世界

love the world(初回限定盤)(DVD付)

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待望の新曲ですが、煌めくようなポップチューンで期待を裏切らない出来ですね。
2巡目のAメロからさり気なく転調してたり、
3回出て来るサビの節回しが全部微妙に違ってたり、
相変わらず細かいひねりが利いてますね。
サウンドはもう言うまでもないという感じですが、
歌詞にますます凄みが増しているような気がしますね。
作詞家としてさらに進化してるんじゃないでしょうか中田氏は。


彼の書く歌詞は曲毎に主役のキャラ設定がきちんと出来ていて、
男女どちらでも取れるような描き方とか細かい言葉遣いが巧みなんですが、
今回の曲では主役が女の子と明確になっていて、
ポイントなのが彼氏との距離や世界との関係性なのですね。
ここでは一人称が「あたし」になっていて二人称が「キミ」なんですね。
これが単純に「私」と「君」だと微妙なニュアンスが出ないのです。
あえて「あたし」という言い方を持って来ているのですね。
(ちなみにカップリングの「edge」では「わたし」になっているのに注目です)
主役は彼氏のこと片仮名で「キミ」と呼んじゃうキャラであり、
彼氏とはそういう距離感で立っているのですねこの子は。
より親密度と大人感に満ちた「あなた」とかではないのです。
これって全体的に恋愛ベースの歌ではあるんですが、
彼氏にべったりというよりは女子が自立して世界に生きていて、
彼氏であるキミと一緒に歩みながら世界を受け入れて肯定していこうとする
希望に溢れた目線の歌になっているのですね。
(一緒と言うか少し女子の方が引っ張っていくスタンスですかね。
「やっぱりチャンスをあげるわ」という上から目線のくだりからして)
「刺激的 ほらステキ 見える世界がきらめくわ」という
韻を踏みながらのキャッチーな歌詞に私は胸打たれましたよ。
電子音のきらめきと相まって視界が広がって行くようなサビ展開です。
ただ中田ヤスタカ氏独特の哀愁というか希望だけに光を当てない
「まだ この先が見えない 一番星さがす 手が震えても」
という不安げな一節をサビ前に配置する辺りがまた良いのですよね。
そもそも「love the world」というタイトルが素晴らしいじゃないですか。
Perfumeがこのタイトルを掲げることに私は意義を感じますよ。


またこの曲って全編会話調の言葉で構成されているんですが、
絶妙にひねりが加えられているのですね。
キミに向かって投げられた言葉と自分に向けられている言葉と
世界に向かって発信されている言葉の3つが交じり合って配置されているのです。
よく聞くとどっちにも向かってたり、独り言のような質問だったり、
あえてよくわからないようになっているのですよね。
サビの「あきらめないで」という呼びかけは文脈からすると
「一番星さがす手が震えてもあきらめないで」という
自分に向けられた言葉になっているのですが、
「大切なのはすこしの意地とキミよ」という確認の後に「ダーリン」がくっ付く時点で
最後は「キミ」に向けられた言葉に転換しているという構成なのですね。
「あきらめないで」はキミに向けられてもいる形になるのです。
(そしてぱっと耳に入る時点で世界やリスナーにも向けられているように聞こえるのです)
Aメロの「誰か書いたシナリオ?」は「誰が書いたシナリオ?」ではないところに
絶妙なひねりを感じるのですが、この言い回しだと
「この状況って誰かが書いたシナリオぽくない?」と取れ、
シナリオであることを前提としていない軽さがあるのですね。
「誰が書いたのかしらこのシナリオは?」という言い回しでは
人のシナリオに乗っちゃってることを肯定しちゃってますからね。
突き放したような軽さがこの言い回しで表現されてるのです。
私はテレビでこの曲のテロップを見て「何だこの言い回しは?」と
思わず引っ掛かってしまったのですけどね。
こういうひねった言い回しがまた巧いのですよね。
あとサビ後半の「ずるいでしょ」はキミのタイミングに対して
「ずるいよ」と呼びかけているようにも聞こえるし、
「あたしもずるいでしょ」ひいては「あたしたちってずるいよね」という
ある種の共犯意識にも聞こえ、
この言葉によって世界とあたしとキミの関係性が明確に立ち現れるのですね。
この言葉でしたたかにしなやかに世界を生きていこうとする
女の子とその彼氏という絵が描かれるわけです。
まさに現在のPerfumeの3人のしなやかさとしたたかさ、
そして不安を抱えながらも前向きに生きようとするパワーを
キュ−トさを伴って体現している、見事な歌詞と言わざるを得ないじゃないですか。
本当にずるいよきみたち、という感じで。


暗いニュースばかりの昨今、この世界のどこを愛せば良いのかわからないくらいですが、
殺意とナイフを手にする前にこんなポップチューンを手に取って
したたかに世界をサヴァイヴしていくしかないんじゃないでしょうかね我々も。
私にはそんな決意表明のような曲に聞こえました。
(そこまで大げさに聞こえないところが良いのです)
さらにはカップリングの「edge」の歌詞も相当ヤバいんですけどね。
「see new world」が「死ぬわ」に聞こえるトリックが施されていて。


いやー是非この曲の世界をライブでも体験したいところですが、
チケを取るガッツが私にはまるでないのですよね。
すこしの意地もない、という感じで。
こればかりはチュチュチュというわけにもいかぬのです。
しかし「チュチュチュ」というのもえらいフレーズぶち込んで来たなという感じですよね。
鼠先輩の「ポポポー」よりずっと素敵ですけどね。