口笛味噌ラーメン

伝説の口笛奏者フレッド・ロウリーは言ったものです。
「世の中には2種類の人間がいる。口笛を吹ける者と口笛を吹けぬ者だ」と。
私は後者なので口笛を必要とする際、人に吹いてもらわなければならず、
それは至極不便ゆえ自分で何とか処理したいところであるのですが、
練習して簡単に吹けるようになるというものでもないので困っており、
もし口笛免許センターなどあれば合宿も辞さぬ勢いで免許取得に乗り出したいのであり、
そうなれば仮免の段階でもう吹きまくるほどの走り屋(吹き屋?)っぷりを発揮し、
「五十嵐くん飛ばすね〜」と周辺で話題を振りまくこと必至なのですが、
今のところそんな素敵なセンターは存在しないようなので
私は口笛も吹けず沈黙の王の座を欲しいままにしているのです。
そんなわけで今レコーディングしている曲に
「ちょっとワンフレーズ口笛を入れたい」とふと思いついたものの
自分では吹けないゆえ、今回fwjサポートギターのひじき氏にお願いしたのです。
彼は「口笛なら私におまかせください」が口癖な男であるので
まあ大丈夫だろうとリハなしでいきなりスタジオに入り、
その場で吹いてもらうという強行に及んだのですが、
なかなか大変でしたね、実際には。


今回使ったスタジオは高田馬場だったんですが、
なぜに馬場かと問われれば彼の職場の近くだからという理由で、
彼には残業中のところを抜け出してもらって口笛だけ吹いてもらうという
何だか素敵な段取りを組んでみたのですが
いざレコーディングは素敵さを伴って進行することはなく、
セッティングとリハだけで半分時間を費やしてしまい、
さらには微妙にキーが合わないということが判明し、
さらには原因不明のブツブツというノイズが発生するなど不測の事態に見舞われ、
口笛を録るという猫を撫でるのと同じくらい簡単なように見える作業が
ヒマラヤ登頂成功への道くらい困難に思えたのですが、
ノイズには「ブツブツ文句言うな!」と説教をし、
キーが合わないのは「ひじきさんに頑張ってもらう」という手を取り、
時間の不足は「急ぐ」という手で何とか乗り切ったのでした。
まあざっと録ってあとは編集で何とかするという判断だったんですけどね。


そんなわけで慌ただしく口笛作業を終え、
ひじきさんが職場に戻る前にちょっと飯でも食いますかということで
何となく「ラーメンにしますか」という合意が成されたわけですが、
これがなぜか行く先々のラーメン屋がやってないという不測の事態に見舞われて。
「あそこにしましょう、あれやってない。あそこにしましょう、あれやってない」
の繰り返しが何度となく行なわれ、
「ラーメン食べたうぃっしゅ!」とDAIGOのスペイシーなポーズまでキメていた私は
砂漠か、ここはラーメン砂漠なのかと絶望の淵に立たされ、
これは「全日本五十嵐にラーメンを食べさせないの会」の高田馬場支部
支部長自らが命令を下し我々からラーメンを遠ざけているのではと踏んだのですが、
周辺にはそれらしき人物はおらず、いるのは酔っぱらった早大生の集団だけなのです。
もうラーメンて何だっけとその存在すら忘れてしまいそうになった頃、
ひじきさんがようやく「お、あそこはやってます!」と味噌ラーメンの店を見付け、
そこで我々は無事にラーメンに辿り着くことが出来たのですが、
なかなかに長い行程を彷徨ってしまいました。
まあよくよく考えたらそこまでラーメン屋に固執しなくても良かったんですけどね。
ラーメンを食べるという猫を撫でるのと同じくらい簡単な作業が
時には砂漠でオアシスを探すくらい困難になる場合があるのです。
私はそれを学びました。
苦労してラーメンにありつけた私は思わず落涙し、
涙の塩気で味噌ラーメンが塩ラーメンに変わるかと思われたほどだったんですが、
この夜の思い出は「口笛味噌ラーメン」というタイトルで記憶され、
曲を聞く度に思い出すに違いないと思ったのです。


まあでも実際曲内で使われるのはほんの数十秒なんですけどね、口笛。