私、加藤和彦氏を悼んで

追悼というか「この人、この世からいなくなっちゃったのか」という
ある種の確認作業の如く加藤和彦氏の遺した音楽を連日聞いているのですが、
ふと見るとフォークル、ソロ、ミカバンドと数々の音源が手元にあり、
自分は加藤和彦の音楽のファンだったのだなあと今更になって気付かされた次第です。
最初の奥さんのミカさんの著書とか2番目の奥さんのかずみさんの朗読アルバムとか
嫁ワークスもなにげにフォローしてますしね。
(今回の報道で3番目の嫁もいたことを思い出しました。モテたんですね彼は)
「ぼくのそばにおいでよ」という70年代のソロ作が私は好きでよく聞くのですが、
実験性とポップさが程よく共存した彼の資質が伺える名盤なんじゃないかと思います。
この中の「ひるねのミカ」というアコギのインスト曲がとても良いのです。
他にソロでいえば「家をつくるなら」という曲も好きですし。
「悲しくてやりきれない」などのフォークル曲はたまに口ずさんでしまいますしね。
パッチギ!」見て改めて「イムジン河」という楽曲の大きさにも気付かされましたし。
ビートルズの「64歳になったら」と激似な「百まで生きよう」とか、
グレン・キャンベルの「ウイチッタ・ラインマン」とほぼ同じな「僕のおもちゃ箱」とか、
引用(パクリ?)の手法も渋谷系の先駆けという感じで。
その可愛い感じが良いのですよね。
ミカバンドに関しては一時期本とか掲載雑誌とかも集めてましたしね。
ライムスターのトラックにミカバンドが使われてて妙に嬉しく思ったものです。
再々結成のライブを見ておけば良かったなとちょっと後悔しています。


最初に加藤氏の訃報を聞いてまず思ったのは
「どんな格好で亡くなったんだろう」ということで、
生前あれだけお洒落だった人が命を絶つにあたってどんな服装で臨んだのか、
妙にそれが気になったのですよね。
正装していたのか。バスローブ姿だったのか。
そんなことに気を遣う余裕すらもなくなっていたのでしょうか。
粋な趣味人でお洒落でグルメでセンスが良くて才能にも恵まれて。
さらにいえば「嫁の誕プレにロールスロイス輸入」みたいなセレブっぷり。
そういう自殺とは無縁に思える優雅な空気を持つ人がこういう最期を迎えるとは。
鬱病の深刻さに想いを馳せてしまう私です。
フォークルの仲間で精神科医北山修氏がいたというのに。
何とかならなかったのでしょうか。
改めて残念に思います。
育ちと品の良さと先鋭的で挑発的な表現を併せ持った優男キャラという
彼の系譜って小沢健二くらいしか思いつかないんですが、
なかなかこういう佇まいの人って現れないような気がします。
再結成したフォークルのアルバムに宮沢賢治の「雨ニモ負ケズ」にメロを付けた
「11月3日」という曲が入ってるんですが、
それを聞きながら加藤氏はこういう境地に行きたかったのかなと思ったりしました。
行きたかったけど行けなかったんでしょうか。


岩井俊二監督の「四月物語」という映画に加藤氏がちょい役で出演してるんですが、
主人公の松たか子に傘を貸してあげて恋心をちょっと後押しするという役どころで、
加藤氏の飄々とした佇まいだからこそ成立した役だなあと感心したものです。
加藤氏の姿を確認するために先日ついDVDを見直してしまいました。
映画の中で雨の中を遠くへ去って行く加藤氏のひょろ長い背中を見ていたら
そのままあの世へ旅立って行く人のうしろ姿に見え、何だかしんみりしてしまいました。
あの世が「酒は旨いし姉ちゃんは綺麗」であることを願うばかりです。