走れ、ブックオフ

大宮そごうでの実演後にふらっとブックオフに寄ったら
ほうこれは買っても良いなと思う本が何冊かあったので棚から抜いていたら
ふと壁に「明日本全品30%オフ」の予告貼り紙を見つけ、
何だ、ならば明日買った方がお得じゃん、良かった今日買わなくてと棚に本をすべて戻し、
明日買うことを己の中で堅く決意しブックオフを手ぶらで後にしたのですが、
いや待て、そんなお得なセールであれば誰かがあの本たちを先に買ってしまうのではないか、
明日の開店と同時に店内へ滑り込み入手せんと目論んでいる輩が他にいるのではないか、
言わば「五十嵐が狙った古本を五十嵐に買わせないの会」的な組織が立ち上げられ、
そこの会員的な人物たちが私の古本入手を阻止しようとするのではないかと危惧を抱き、
やはり踵を返してブックオフにてその本群を今日のうちに買ってしまおうかと思ったものの、
30%オフという数字の甘美さに私の足は鈍くなり、
私の脳内そろばんがパチパチとお得になる差額を正確無比に叩き出し、
24時間後に同じものがこれだけお得に買えるとなれば今日は帰るのが吉であろうと判断し、
私はコートの襟を立てて寒空の下を家路に着こうとしたのですが、
やはり明日同じ時間にブックオフを訪れたとて、
欲するブツがなくなってる可能性は大であるぞと冷静に思い直し、
実は本たちも今日のうちに私に買われて欲しかったのではないか、
明日違う人にひょいと抜かれてしまう事態を悲しむのは本たちなのではないかと勝手に想像し、
本たちの「本当は五十嵐さんに買われたかったのに!」という悲痛なる声を脳内に聞き、
私の元へ来たがっていたのに違う男の元へ嫁に行ってしまう彼女の純白のドレスの背中を見送りながら
嗚呼、あの日勇気を出して彼女の手を取って駆け出していたら今頃彼女は私のものだったのにと後悔しつつ、
でもこうなる運命だったのさ、ふっ、などと独り式場を後に背を向け遠く旅に出る傷心の俺、
「幸せになれよ」なんて言葉を風にそっと乗せて。
みたいなロンリーな状態になるのではないかと想像し、一瞬買いに戻ろうかと逡巡したものの、
たかが古本にそんな大袈裟な感情を抱くのも何であろう、
明日行ってみて売れてしまっていたらそれまでの縁だったのさと
ある種の達観と共にその日は買わずに帰ったのですが、
果たして次の日。
さあ売れてしまっているか残っているかと
約束の地(ブックオフ大宮店)へ向かう私の足は震え、熱情は跳ねっ返り、
彼女が違う男の元へ嫁に行ってしまったのか、
それとも「五十嵐さん、あなたを待っていました!」と棚に留まってくれているのか、
運命の結果は如何にとマッハのスピードで店内へ入り、
階段を怒濤の3段飛ばしで駆け上がりフロアを光よりも速く疾駆し、
「いらっしゃいませこんにちはー」というバイト諸君の掛け声の連鎖を鼓膜に感じながら、
弾丸の如き様相で血と汗と涙を絞り出しながら、
走れメロスのメロスの気分てこんな感じだったんじゃないかなどと想像しながら、
やっとの思いで息も絶え絶えで目当ての棚まで辿り着いて見てみたら、
余裕で売れ残っていました(笑)。
拍子抜けとはこういうことを言うのだろうかと思いつつ、
私はそれら本群を抜き、他にもあれやこれやと買い込んで帰りました。
セールは良いなあとひとりごちながら。
今年も清水国明ばりのブックオフヘビーユーザーになること間違いなしです。