私、コクリコ坂からを鑑賞し

宮崎吾郎監督の「コクリコ坂から」を鑑賞しました。
例によってネタばれしながら感想を書きますので未見の方はご注意下さい。


私は監督の前作「ゲド戦記」を見ていないので比較は出来ないのですが、
ジブリ作品で言うと「耳をすませば」に通ずるような青春恋愛ドラマで、
昭和のノスタルジー感溢れる情景と学生運動前夜の時代の高校生たちの生活模様が
とてもいきいきと描かれていて、なかなかの好作品じゃないかと思いました。
主人公の高校2年生の海(なぜか劇中説明なくメルと呼ばれるので若干混乱します)と、
学校でカルチェラタンという学生会館の存続を唱える新聞部の風間くんとの恋愛が軸なんですが、
生徒会長のキザな水沼くん他、校内に個性的なサブキャラが揃っているし、
(哲学を語る四角い顔の人とか、サブは漫画ぽい記号で描かれていてそれが効いてたと思います)
笑いどころなんかも盛り込まれていて、カルチェラタン内描写は特に楽しかったですね。
時代が学生運動前夜の1963年なのでその時代背景と空気感でリアリティを持たせた感じでしょうか。
主人公の海は実にしっかり者の聡明な女子で、
毎日きちんと下宿人のご飯の世話をしつつ学校に通っているのですが、
そのご飯の支度をするくだりがとても丁寧に描かれていて、
そこで彼女の普段のきちんとした生活ぶりとキャラがすぐに伝わるし、
その後の朝食シーンで下宿の住人(と彼女の家族)とそのキャラ設定を紹介し切ってる辺り、
なかなか巧い導入だなと思いましたね。
ジブリの映画といえば美味そうな食べ物描写ですが、ここでもなかなかのディテールでした。
私的には「ラピュタ」の食パンに乗せた目玉焼きと
魔女の宅急便」でキキが作る目玉焼きと「ポニョ」のハムが印象に残っているのですが、
それを踏襲するかのようなハムに乗せた目玉焼きというメニューに「おお」と思いました。
(その後の油物の食べ物描写には若干油分が足らない気がしましたが)
下宿人では女っ気のない絵描き志望のメガネ女子がナイスキャラでしたね。
下宿人たちがウイスキーを飲もうと言い出すと「チーズ切りましょうか」と言い出す辺り
海はどんだけ気の利く子なんだという感じでしたが、
こんな働き者でいい子がいるのかという疑問も「あの時代だから」という背景で納得させられる感じでしたね。
ちょいミーハーな妹と食い気溢れる弟を配してるのでさらにしっかり者度が際立っていました。
相手役の風間くんの登場シーンは空から降って来るという印象的なもので、
宮崎アニメのキャラはたいてい空から降って来るの法則が適用されていた感じでしたね。
このイケメンで切れ者だけどちょっと朴訥としたような雰囲気が、
キザで頭良さそうな生徒会長を横に配することでより際立っていたように思います。
海が買い物に出るところ偶然通りかかった風間くんが彼女を自転車の後ろに乗せて坂を下りるシーンですが、
この疾走感とかはまだまだ宮崎駿御大の描写にはかなわないような気がしましたね。
(宮崎アニメのキャラはたいてい風を切って疾走するの法則はやはり適用されるんですね。)
風間くんが集会場で壇上までステップを踏んで行く描写は良かったですけどね。
あのふわりとした感じは。
しかし彼女を坂の下まで連れて行った後全然違う場所へ走って行ったのはなぜなんだという疑問も浮かびましたが。
風間くんの家は果たしてどっちなんだという感じで(笑)。
その後この2人には昼ドラのようなまさかの展開があるんですが
(本人も「安いメロドラマみたいだ」とセルフツッコミ入れてましたが)、
最後も結局昼ドラのような展開に着地するんですが、
ここまで見てると「この2人にはうまくいって欲しい」と切に願っている私がいて、
それはそれで受け入れている自分がおりました。
バス停で海が風間くんに想いを伝えるシーンはとても良かったですね。
アラフォーのおっさんである私ですが胸がきゅんきゅんしてしまった次第です。
舞台となった横浜(桜木町駅とか出て来ます)の街並や海や船の描写、
昭和の東京(新橋でしたね)の描写が坂本九の歌う「上を向いて歩こう」と相まって
この物語に強度を持たせている印象を受けました。
震災後にジブリが発表する作品(まあその前から制作中だったんでしょうが)としては
この作品は適しているような気がしました。
上を向いて歩こう」はメッセージとして震災後に挿入したんじゃないかとも思ったんですが、
時代背景に合ってますからね、実際。
海が毎朝旗を掲げるのを習慣にしているのは亡きお父さんへ見せるためという設定なんですが、
その後物語後半の展開の裏には実は様々な「お父さんの愛情」が隠されていて、
これは恋愛ドラマでもあるのと同時に父親の子供への愛というのもテーマになっていることがわかるんですが、
それを父である宮崎駿が脚本を書いて息子に作らせたというのも
何だか凄い構図だなと思った次第です。
そういえばカルチェラタン存続の後押しは海の生い立ちを聞いた会長が視察に来たからなんですが、
海を見る会長の目が完全に父親のそれになってたのもそのテーマになぞらえていたんでしょうか。
学生の熱気に押されたというより単純に海が気に入ったせいなんじゃねーのと思いましたが(笑)。
人々が共同で分け合って暮らす、父親(そして母親)達が共同で子供たちを守るみたいな様相は
震災後には特に響くものがあるんじゃないかと思います。
全体的に音楽が鳴り過ぎていて(朝食前のシーンに朝食の歌はいらないと思いました)、
見ながらミュージカルかよと思ったりもしたんですが、そこら辺は監督の好みなんでしょうかね。
そういえば音と動きを合わせる駿っぽい演出をしないんですねこの人は。
最後の主題歌は良かったですけどね。
ジブリ映画は最後に主題歌がかかれば何となく良い映画だったなと思うの法則が適用されてました。
あと最近のジブリ映画は声優に有名俳優を起用するパターンが多いですが、
あれはどうなんでしょうかね。
去年と一昨年にアニメのイベントでアメリカに行ったんですが、
そこでご一緒したベテラン声優さんが「最近アニメ映画にプロの声優を使わなくなった」と嘆いておられました。
大人の事情があるんでしょうが別にジャニーズの人を主役にしなくても良いんじゃないかと思います。
そんなわけで長々と書いてしまいましたが、興味持たれた方はぜひご覧になると良いんじゃないでしょうか。