蝉ビートル

8月に入ってようやく蝉も鳴き始め、ゲリラ豪雨も襲来し、
夕焼けも美しく、夏なのだなと実感させられますね。
しかし蝉の勢いがどうも物足りないような気もします。
側を通れば「あ、すいません、うるさかったですか?」とばかりに鳴き止むし、
「あ、僕用事あるんで帰ります」とばかりにそそくさと逃げて行く輩もいます。
じいじい…と三点リーダを用いて表記したいような弱い余韻を残して。
お前ならもっとやれるよ、その若い命を燃やしてみろよ!と、
蝉くんの肩を叩いて励ましてあげたい衝動にも駆られるのですが、
蝉の肩がどこなのかわからぬし、如何にして励まして良いものか術を知らず、
飲みに行こうぜと誘っても「あ、僕用事あるんで帰ります」と断られることは明らかなので、
心の中で「頑張れ蝉」とエールを送るに留めています。
場所によるんですかね。
行くとこ行けば喧しく鳴いているのでしょうか。
夕暮れになるとひぐらしの声を聞きたいと思うのですが、
ひぐらしはどこで鳴いているのでしょうか。
自分の聞きたい蝉を呼んで来て鳴いて貰う
「出前蝉サービス」とかがあれば便利なんですけどね。
電話一本で「ひぐらし2匹お願いします、とびきり涼し気なのを」と依頼すると
「かしこまりましたー、30分で伺います!」みたいに届けてくれたりして。
「真っ昼間の直射日光が降り注ぐうちのバルコニーであえてミンミン蝉10匹お願いします」
「かしこまりましたー、お客さんも好きですねえ〜」みたいな。
そうなるとやはり歌声の綺麗な蝉は値段が高いのでしょう。
ツクツクボウシ1匹お願いします」
「当店では300円から3万円まで各ランクの子を取り揃えておりますがどの子で?」
「えー、じゃあ最高級の3万円で」みたいな。
3万円を払ってでも聞きたい美声の(実際には声じゃないけど)ツクツクボウシとは。
如何なる鳴き声なのでしょうか。
恐らく1/fゆらぎみたいな効力を発し全身を癒しへと誘ってくれるような
快感を伴う素晴らしい鳴き声なのでしょう。
耳にしてみたいものです。
この命果てるまでに一度は。
ツクツクボウシのイントロからAメロ行ってサビで盛り上がってアウトロへ、という
一連の楽曲は実に完成度が高いと思うのですが、
あれが脈々と次世代に受け継がれているのだと思うと感動を覚えますね。
私が幼少の頃に聞いていた鳴き声と全く一緒ですもんね。
稀に突然変異で異なるメロディーを奏でる種とか生まれたりしないのでしょうかね。
あの1匹だけ違うメロで鳴いてない?みたいな。
それが偶然ポール・マッカートニーぽい節回しだったりして。
「あー懐かしいなあ、ビートルズ。え、これ蝉が鳴いているの?」と
人々は騒然となることでしょう。
その蝉の止まる木はライブ会場と化し、そこで商売を始める輩もいるでしょう。
ポール・マッカートニーが蝉に生まれ変わったんだ!」と、
まだ存命のポールに新たな死亡説が浮上することでしょう。
ポールがその蝉を自分の元に呼び寄せ、ジョイントライブを行うかもしれません。
蝉ポールとかいうユニット名で。
そうしていちやく時の人(ていうか蝉)となったツクツクボウシですが、
本人(ていうか蝉)は案外不服に思っているのかもしれません。
嗚呼、なんで俺はカブトムシじゃないんだ、と。
ビートルになれなかった蝉が別な手法でビートルに成り上がったというお話です。
ポール蝉がいれば電話一本で呼び寄せたいものですね。
涼しい夕方辺りに。
そんなことを想いながら8月を泳いでいます。