月あかりのナイトスイミング

学校のプールに金魚400匹を投げ込んだ犯人、
業者じゃなくて生徒さんだったそうですね。
中学女子4人の仕業だったそうですが。
この4人にとってこの夏は忘れられない夏になったことでしょう。


仲良し4人組、アッコ、ユーコ、トモミ、マユは揃って夏祭りに出掛け。
色とりどりの浴衣を着て普段よりもはしゃぎながら縁日を見て回り。
「私、最近サッカー部の二宮くん気になるんだよねー」
「やだユーコったらあんなタイプ好きなの?」
などとガールズトークにも花が咲き。
やがて4人は「金魚すくいやらない?」「いいね〜」と金魚すくいに興じ。
「うわ、また破けた〜」「おじさんこれすぐ破けるように細工してんじゃね?」
「馬鹿言うなよ、お嬢さんたち〜」などと金魚すくいの業者のおじさんとも打ち解け、
きゃっきゃっと金魚と共に夏の祭りを楽しんでいるうち、
しまいには「ねえお嬢さんたち、良かったらこの余りの金魚持って帰らない?
どうせ捨てちゃうんだからさ。可哀想でしょ?」と持ちかけられ、
4人は「え!いいの?やった〜私たちで全部持って帰るよ!」と、
ポリ袋いっぱいに金魚を持ち帰ることになり。
始めは「ただで儲かっちゃったね」「賑やかになるね」とはしゃいでたものの、
次第に落ち着いて来ると「でもこれうちの水槽に入り切らないかも」
「えー私もマンションだしママに怒られちゃうかも」と、
手に余ることに気が付いて。
「川に捨てちゃう?」「えー可哀想だよ!」「でもこんなに持って帰れないよ」
「じゃあどうすればいいの?私知らない」
「知らないってあんたが一番乗り気だったじゃない!」
と次第に喧嘩のような様相を呈し。
そこでふとマユが
「あのさ、学校のプールに放さない?誰か見つけたら持ち帰ってくれるでしょ」
と提案すると「あ、それいいかも!一晩くらいなら死なないと思うし」とみんなも賛同し、
4人は金魚を持ったまま夜の誰もいない学校へ赴き。
プールまで行くと「あ、有刺鉄線で囲われてるんだった!」と侵入の妨げに気付き、
そこでトモミが「私、ひとっ走りペンチを取って来る!家には今日誰もいないし」
とペンチを取りに家に戻り。
他の3人は「トモミのやつまさかこのまま逃げないよね?」と
トモミの戻る間に怖じ気付いたりしたものの、
すぐにトモミはペンチを持って戻って来て。
そこでアッコとトモミは有刺鉄線を断ち切る役を受け、
残り2人は見張り役と相成り。
アッコとトモミは「いい?切るよ」
「うん、切ろう」
「私たち共犯だね」
「うん、夏の侵入者だね」と
目を合わせた後、鉄線をぶちりと断ち切り。
「切れたよ!早く!金魚をこっちへ!」と見張りの2人を呼び寄せ、
4人は満を持してプールサイドに立ち。
綺麗な浴衣もすっかり泥だらけになって汚れ。
髪も乱れた4人は裸足でポリ袋の金魚を持ち。
その日は満月で、月の光が水面にゆらゆらと映りとても綺麗で。
「夜のプールって素敵〜」
「いつもと全然景色が違う」
「この水の中、すでに魚が泳いでいたりして」
「そうかも」
などと言いながらしばしプールを眺め、
足を水面に付け「わ、結構冷たいんだね!」と水しぶきを上げ。
「ここに放すんだったらいいような気がして来た」
「じゃあ早速入れようよ!誰か来ちゃったら大変だし」
「そうしようそうしよう」
と4人はポリ袋の中身をプールに流し込み。
窮屈な袋の中に閉じ込められていた金魚たちは一斉に解き放たれ、
大海の如き広大なる学校のプールにすいすいと音を立てて泳ぎ出し、
赤、白、黒、様々な色彩が尻尾を揺らしながらプールの水面を染め、
月の明かりと相まってそれは幻想的に美しく。
4人は「うわあ〜」と感嘆の声を上げその光景を見つめ、
先ほどの縁日の提灯の灯りが夜の闇にぼんやりと光っていた光景を思い出し、
楽しい夏の一夜の想い出は今しか作れないんだと思いながら、
これからの進路のこと、4人で過ごす時間の残りのこと、
部活のこと、好きな男の子のこと、先生のこと、
家で待ってるパパとママのこと、好きな授業のこと、嫌いな授業のこと、
今自分たちがしていることが大変なことであることを
思春期の少女の小さな胸でいっぱいに想い、
そして熱くなり、そして切なくなり、涙が自然に溢れ、
「ねえ、みんな。手をつなごう。手をつないで!」
と誰ともなく告げると
「うん。そうしよう、そうしよう!」と、皆が皆手をつなぎ、
4人の少女は浴衣のまま裸足のままプールサイドに佇み、
月明かりを全身に浴び、夏の夜の熱気と少しの涼しさを携えた風に髪を揺らし、
並んで手をつなぎながらプールを優雅に泳ぐ金魚の群れを眺め、
水の匂いと夜の匂いの混ざり合う中、
ひそやかに夏の一夜の冒険者となったのです。
胸を締め付けられながら。
遠くにバイクの走る音を聞きながら。


みたいなイメージが思い浮かんだのですが、
実際にはどんな感じだったのでしょうか。
青春の1ページにこんな想い出を刻めたなんて羨ましくもあります。
まあ行為自体は褒められたものではありませんけどね。