猫とペンギン

10月に入り、すっかり秋めいて来たようです。
朝晩などは肌寒くなりました。
五十嵐を寒がらせる会の会員が私を寒がらせる季節の到来です。
今から寒さ対策に奔走しないといけないなと身を引き締めているところです。


そんな折、昨日は六本木までペンギン・カフェの来日コンサートを見て来ました。
ペンギン・カフェ・オーケストラという楽団がその昔ありまして。
私は大ファンでアルバムを全て収集し、youtube海賊盤DVDなどで映像を収集し、
当時の来日公演のパンフなどの資料を収集したり、そりゃもうディープにハマっておったわけです。
(今も進行形でハマっています)
そのリーダーのサイモン・ジェフスさんはもうお亡くなりになっているので、
生でその演奏を聴く機会はもうないのかと思いながらyoutubeを見ている日々だったわけですが、
何とサイモンさんの息子のアーサー・ジェフスさんが新たにペンギン・カフェという名前の楽団を立ち上げ。
父親の意志を引き継ぐという形で伝説のオーケストラが電撃的に復活を遂げたのです。
息子が継ぐだなんて落語や歌舞伎ならいざ知らず、という感じだったのですが、
新譜を聞いてみるとこれは紛れもないペンギン・カフェサウンドじゃないかという感じで。
そこに来ての来日公演ということでこれはもう見なければなるまいと足を運んだわけです。
しかもオープニングアクトは伊藤ゴローさんだし。ゴンチチも出るし。
ゴローさんにはちょっと前の吉祥寺の催事の時に会って、
「ペンギンの張子とか作れたら面白いかもね」みたいな会話をしてたんですが、
どうせならアーサー氏に張子をプレゼントしたら面白いかもなと思い立ち。
事前にペンギン・カフェ仕様の招き猫を作って(ペンギンの張子は作れなかったので)、
ゴローさんに渡してもらおうと打診したら、
「折角だから五十嵐くん直接アーサーに渡しなよ」と言われたので、
急きょ直接渡すぜ作戦が遂行される運びとなったのです。
そんなわけで招き猫を懐に忍ばせ、ペンギン・カフェを体験するドキドキと
アーサーに直接渡すぜ作戦遂行のドキドキを二重に抱えてギロッポンに至ったのでした。
会場に着いてみると果たしてそこは六本木ヒルズのど真ん中で。
しかも屋外だったので普通に買い物客も演奏を聞けてしまうし見れてしまうし、
通りを走る車の音や買い物客の喧噪も丸聞こえという立地で。
しかも10月の夕方の屋外はかなり肌寒いという条件で、
スーパーの営業じゃないんだから普通のコンサートホールでやってようと嘆きつつ、
「この状況で楽しめるのか、俺よ」と別な意味でのドキドキを抱えながら見ていたのですが、
いざゴローさんの演奏が始まったらすっかり聞き入ってしまいましたね。
徳澤青弦氏とのデュオだったんですが、弦の響きのひとひとつががとても芳醇で。
ギターって6弦しかないのにこの豊かなサウンドは何なのだと
その美しい旋律と共に聞き入ってしまいました。
素晴らしかったです。
さらにゴンチチさんも美しいギター2本のアンサンブルで魅せてくれました。
2人の脱力トークもいい感じで。
さすがベテランの風格といった感じでしたね。
そしていよいよペンギン・カフェの登場で。
写真で見てたけどどの人がアーサーなん?と、
わらわら登場する大人数のメンバーをそれぞれ確認などしてたら
聞き覚えのあるイントロが聞こえ。
美しいピアノのループ、これは往年の名曲「PERPETUUM MOBILE」じゃないかっ、
と私は一気に興奮したのですが、周囲の客も「おおお!」とどよめいており、
もう聞けないと思っていたあの曲を生で聞いているという状況に
私も私の周囲の観客もすっかり引き込まれてしまったのでした。
(ていうか会場中がそうだったのでしょう)
アーサーの「私の父は日本が好きでした、私も好きです」みたいな
たどたどしい日本語MCもとても微笑ましく。
そうだよね、お父さんは親日家だったんだよね、なんて思いつつ、
その後も新曲に挟まれながらも次々と演奏される往年の名曲に
「おお、あのアルバムの2曲目っ!」
「おお、あのライブ盤に入ってた曲っ!」
「おお、あのギターループのやつだっ!」
などと、曲名が覚えられないゆえのぼんやりした認識ながらも興奮し、
(インストだからどれがどのタイトルか混同してしまうのですよね)
その全く色褪せない楽曲の魅力にすっかり感動してしまったのでした。
何よりも良かったのがメンバーみんなが演奏を楽しんでいる様子が伝わって来たところで、
特にアーサーが一番楽しそうに演奏していたことでした。
アーサーはハンサムでチャーミングで、
ピアノだのギターだの笛だの色々な楽器を使いこなし、
1曲毎に丁寧にMCをし、父親の遺した偉大なる楽曲群を空気に放っておりました。
メンバーもそれに応えて演奏していたその空気感がとても素晴らしかったです。
私は正直父親のやっていた有名な楽団を息子が安易に継ぐというのは如何なものかと最初は思ったし、
息子の方も父親と比較されることへの葛藤がなかったのだろうかと想いを馳せたりしたのですが、
アーサーの余りに屈託のない楽しそうな姿に「まあそんなことはどうでもいいか」と思い、
素直に演奏される名曲群を楽しんだのでした。
MCでも「これはお父さんが遺してくれたあーだこーだ」と屈託なく話してたし
(私の拙い英語力ではようわかりませんでした)
きっと「親父の遺した楽曲は素晴らしいから俺が現世に伝えるよ」と、
実直に思い実直に楽団が結成されたのでしょう。
聞きながらやはり新曲よりも往年の名曲に反応してしまう私と他の観客でしたが、
名曲のイントロに「おお〜」と拍手が起きる度、
メンバーがみな嬉しそうだったのがとても良かったですね。
先代の偉大なる楽曲を今に奏でるという使命を負った楽団、
それを率いているのが当の息子であるというのは悪くないんじゃないかと思った次第です。
正直これはペンギン・カフェ・オーケストラではないよなあと思っていた私も
新生ペンギン・カフェをすっかり好きになってしまいました。
それくらいエクセレントでピースフルな演奏でした。
(私の拙い英語力で表現してみました)
電話の回線音をループさせた「TELEPHONE AND RUBBER BAND」という曲では
「お父さんが京都から電話して来てくれてあーだこーだ」と逸話を話してましたが
(私の拙い英語力ではようわかりませんでした)
アイフォーンとおぼしき携帯から聞き覚えのあるあの電話回線のループが聞こえ、
この曲が鳴らされた瞬間、私はすっかり胸が熱くなってしまいました。
あの頃は携帯電話がなかったけど、今や携帯からサンプル音を鳴らせる時代だもんなあと思い、
80年代に鳴らされた電話の音が現代の携帯へと継がれている様は
まさにこの楽団の意志と同様ではないかと思ったわけです。
そして時を経てもこの曲全然色褪せないじゃないかと改めて思ったわけです。
そんなわけでたっぷりと演奏した後、ゴローさんとゴンチチを交えアンコールを行い、
全員で「BEANFIELDS」を演奏し。
弦楽器がこんだけたくさんじゃかじゃか鳴らされると圧巻だなあと思いながら
楽しい大団円にすっかり満足してしまったのでした。
最後の最後にアーサーがピアノの独奏をしてくれましたが、
「これもお父さんの遺してくれた楽曲で」と語っておりました。
(私の拙い英語力でも何となくわかりました)
サイモン父さんもきっと天国で喜んでいたことでしょう。


そんなわけで終演後、招き猫を直接渡すぜ作戦遂行に移ろうと思ったものの、
CDを買った人にはサイン会という催しが待っており。
サイン会が終わるまでは渡せないなあと思いつつ、
取りあえず楽屋を訪ねてゴローさんに挨拶をし、
なぜか主催者の方と名刺交換などし時の経過を待ち、
列が減った頃合いにサイン会の最後尾に並びまして。
そこでゴローさんにアーサーを紹介していただき「これを貴方に贈ります」と
私の拙い英語力で伝達し、自作の招き猫を渡すに至ったのでした。
アーサーは私の招き猫を見て「おお!」と好リアクションをしてくれ、
スタッフの方も「ちゃんとペンギン・カフェのロゴが入ってる!」などと
好リアクションしてくれ、喜んでいただいちゃいました。
(招き猫がギターを持って、足下にペンギンのマスクが置いてあり、
背中にペンギン・カフェのロゴが入っているという仕上がりです)
「これは何で出来ているんだい?」など興味を持っていただき感激した次第です。
ちゃっかり我が日本の郷土玩具たる張子をアピールしつつ、国際交流してしまいました。
「ありがとう、これはスタジオに飾るよ!」とアーサーに言っていただき、
(私の拙い英語力でもこれはわかりました)
がっつり握手をして貰いました。
とても嬉しかったです。
今後のペンギン・カフェサウンドが鳴らされる現場に私の手作りの招き猫が鎮座するのかと思うと
こんな嬉しいことがあろうか、いやない。
と反語を用いて改めて感激した私です。
そして演奏後疲れているだろうに色々気を遣ってくれたゴローさんは何ていい人なんだと
改めて感激した私です。
感激してばっかりで申し訳ないですが。


そんなわけでドキドキ案件をクリアーした私はその感激を零さぬよう胸にしまい、
先ほど聞いた幾多の色褪せぬ旋律を何度も口ずさみながら帰路についたのです。
秋のひんやりした空気の。
ギロッポンの街を後にして。